第53話 忘れていた記憶
どうやら、自分が居なくても咲茉は楽しんでいるらしい。
昼を過ぎた頃、自宅のリビングでスマホを見ていた悠也はそう思っていた。
「なにスマホ見てニヤついてるのよ。気持ち悪いわよ」
「別に良いだろ。咲茉からメッセージで写真送って来たんだよ」
悠奈に揶揄わられて、ムッと眉を吊り上げた悠也が彼女にスマホを見せつける。
その画面には、楽しそうに街で遊んでいる咲茉達の写真が映っていた。
「良かったじゃない。それなら悠也も安心できそうね」
咲茉が楽しそうでなによりだと、悠奈が微笑む。
そんな彼女に悠也も頷いて見せると、ホッと胸を撫で下ろしてソファに身体を預けていた。
「あとは迎えに行くまで待ってれば良いか」
「心配性ね〜、昼間なら大丈夫よ」
「そうだけどさ、なんか心配になるんだよ」
「気持ちは分かるわ〜」
こうして家族で休日を過ごすのも、悪くない。強いて言えば咲茉が居なくて寂しいが、それも今日だけは仕方ない。
おそらく咲茉が遊び終わるまで、残り数時間だろう。それまでは勉強でもしてるかと、悠也が立ち上がった時だった。
『次のニュースです。つい先程、本日開店した喫茶店・アーネンデルに数人の若い少年達が襲い掛かる事件が起こりました』
ふと、テレビに物騒なニュースが映っていた。
「また物騒な事件ねぇ……隣町みたいだけど」
「開店したばっかりなのに、不運なこともあるもんだな」
ニュースを見て呟いた悠奈に釣られて、何気なく悠也もテレビを見てしまう。
『金銭を狙ったと思われていましたが、店舗に襲い掛かった若い少年達は従業員を必要以上に問い詰めると、その場で店内を荒らして去っていたそうです』
しばらくテレビを見ていると、事件の起きた店舗の映像が映し出されていた。
「うわ、酷いな」
「よくもまぁここまで酷いことできるわね」
映し出された店内は、酷い有様だった。
窓ガラスも割られ、椅子やテーブルも破壊された映像は見ているだけで不快になるものだった。
『急に詰め寄って来て……あのリーダーみたいな人、意味の分からないことを言ってたんです』
そして事件の被害者となる従業員に対してインタビューの映像が流れていた。
『ずっと働いてない従業員のこと呼んで、早く出せって言ってたんです』
不可解だと語る従業員の顔はモザイクで隠されていたが、その声は恐怖が感じられるほど震えていた。
その時、ふと悠也はテレビに映る従業員の制服を見て、妙な既視感を感じた。
「あの制服……」
「あ、この店って少し前に可愛いって話題になった店じゃない」
テレビを見ていた悠奈の言う通り、確かに男の悠也から見ても、テレビに映る従業員の制服は可愛かった。
オレンジと白のデザインが可愛らしく、男受けが良さそうな制服だと思える。
その制服を悠也がぼんやりと眺めていると――
「あ……」
ふと、忘れていた記憶が悠也の脳裏を駆け巡った。
なぜ今まで忘れていたのだろうか。
あの制服を、悠也は以前にも見たことがあった。
それはまだタイムリープする前、高校一年生だった時のこと。
当時の咲茉がアルバルトを始めたと言って、嬉しそうに写真を見せてきた時と全く同じ制服だった。
『そんな人、ウチの店で働いてないのに……ずっと叫んでたんです』
その声が聞こえた瞬間、ぞわりと悠也の背筋に寒気が走り抜けた。
嫌な予感がする。そう悠也が思った時だった。
『えまを出せって、居ないって言ったら怒って暴れ回って――』
「……ちょっと出かけて来る」
「え? 悠也?」
悠奈の呼び止めすらも無視して、悠也は足早に家から飛び出していた。
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