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第50話 ダサくない?


 乃亜との合流は、あらかじめ咲茉達が家まで迎えに行くという流れで決めていた。


 乃亜の家は、住宅街に住んでいる咲茉達と違い、比較的街から近い距離にある。咲茉達が家から街に向かおうとすると、必然的に彼女の家の近くを通らなければならない。


 その点を踏まえると、乃亜が凛子達と一緒に咲茉を迎えに行くのは……はっきり言ってしまえば二度手間だった。


 ここ最近、世間を騒がせている暴行事件の所為で朝でも女の子が一人で出歩くのは控えるべきだと言われている。


 よって今日、まず一人でも問題のない雪菜が凛子と合流し、咲茉を迎えに行くという流れの中に乃亜との合流は、あまりにも効率が悪かった。


 どの道、必ず咲茉達が街に向かおうとすれば、その道中で乃亜の家に行けてしまう。それを考慮すれば、乃亜との合流は最後にするのが当然の流れでもあった。


「ねぇ……咲茉っち」


 雪菜達の迎えによって問題なく合流した乃亜が咲茉の姿を見るなり、なぜか怪訝に表情を歪ませていた。


「どうしたの? 乃亜ちゃん、忘れ物?」

「そう言うんじゃなくて~、ずっと言いたかったんだけどさ~」

「……ん?」


 会うなり唐突に奇妙な表情を見せる乃亜に、不思議そうに咲茉が首を傾げる。


 そんな彼女に、乃亜は咲茉の姿をじっと見つめると――


「その服、死ぬほどダサくない?」

「え……?」


 予想外の一言に、咲茉が言葉を失っていた。


「……そんなにダサい?」


 引き攣った笑みを浮かべる乃亜に、咲茉が自身の着ている服を見ながら声を震わせる。


 その反応に対して、乃亜はゆっくりと頷いていた。


「凛子っちと雪菜っちのファッション見てみなよ。めっちゃ可愛いよ?」


 乃亜に指を差された凛子と雪菜の姿は、二人の性格が出ているファッションだった。


 凛子の服装は、身体のラインが際立って出ていた。タイトジーンズ、そしてタイトなTシャツに黒のパーカーと実にシンプルではあるが綺麗な印象を受ける。細身でありつつ、発育の良い彼女のスタイルと相まって、まるでモデルのような印象を受けてしまう。


 対して、雪菜はふわりとした服装だった。フレアスカートとふんわりブラウスが、落ち着いた可愛らしさを見せつけている。物腰の柔らかい、落ち着いた彼女らしいファッションである。


 加えて乃亜は、大きめのカラフルなパーカーにショートパンツと子供らしい活発な印象を受ける。


 そして咲茉というと――


「咲茉っちは素材がちょー良いから誤魔化せてるけどさぁ~。花も恥じらう女子高生がぶかぶかのTシャツとジーパンってどうなの?」


 乃亜の指摘通り、咲茉の服装は実に簡素なものだった。


 身体の線が出ないように、ジーンズもTシャツも全てのサイズが二回り大きいものを着ている。


 確かに凛子達と比べれば、明らかに酷い服装だった。


「別にオーバーサイズのファッションはあるけど、それは流石に大き過ぎない?」

「……」


 今まで全く自覚のなかった事実に、咲茉の身体が震え上がる。


 今まで、ずっと同じような格好をしていた。


 それは当然、悠也の前でも。


 と言うことは、つまり――


「わたし、もしかして……ゆーやに、ダサいって思われてた?」


 放心してしまった咲茉が、震えた声で呟いてしまう。


 そして咄嗟に咲茉が凛子達を縋るように見つめると、彼女と目が合う寸前で二人が揃って顔を逸らしていた。


「……いや、私は分かってる。知らない男に可愛く見られたら困るって分かってる」

「はい。私も、そうだと思ってました」

「二人とも、私の顔見て言ってよ」


 実際のところ、咲茉のファッションがダサいという事実は二人とも否定していなかった。


「それは私も分かってるけど、もう少し可愛くしても良いと思うなぁ。その反応を見る限り、悠也っちも分かってて黙ってると思うけど……少しくらい可愛い服着てあげた方が喜んでくれるかもよ~?」


 確かに、乃亜の言う通りだった。


 この場にいる三人が同じ意見と言うことは、間違いなく悠也も同じ意見だろうと。


 自分のことを可愛いと思ってほしい。その願望は確かにある。しかし、あまり派手な格好をするのは控えたいというのも咲茉の本心だった。


 だが困ったことに、咲茉はファッションには詳しくなかった。


 彼女の持つ知識は、タイムリープする前の学生時代から一切更新されていない。今の持っている知識だけで、身体の線が全く強調されずに可愛くできる自信などあるはずがなった。


「きっとそんな反応すると思ってたよ。私もその手のファッションは詳しくないから一通り調べておいたの。折角みんなで買い物行くんだし、色々見てあげるね~?」

「……よろしくお願いします」


 元から乃亜もそうするつもりだったのだろう。


 救いの手と言わんばかりに深々と頭を下げた咲茉に、乃亜が誇らしそうに胸を張っていた。 


「夏で肌を見せなくても、とびきり可愛くできるところ見せてやるぜ~」

「私達も手伝うから安心して良いからな?」

「私も、あまり詳しくありませんがお手伝いしますね?」


 こういう時の友達は、本当に心強い。


 手持ちの予算でどこまでできるか疑問だったが、とりあえずは安心できると、咲茉は安心して胸を撫で下ろした。





 そして無事、咲茉達は街に到着したのだが――


「はい。じゃあこれ試着してみてよ」

「待って乃亜ちゃん。私がお願いしたのは服なの。下着じゃない」


 なぜか咲茉は、ランジェリーショップで乃亜から下着を渡されていた。


読了、お疲れ様です。


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