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第31話 大人しくなった


 放課後になって、咲茉は凛子と雪菜の二人と共に校舎裏に向かった。


 残った悠也三人は、生徒が少なくなった教室で咲茉えま達が戻ってくるのを待っていた。


「咲茉ちゃん、ちゃんと断れてるか心配だな」

「……そうだな」


 気怠そうに椅子に座る啓介に、悠也も自分の席に座ったまま、静かに待っていた。


 どうなるか見届けるために咲茉達の後を追おうとも最初は思ったが、最終的に悠也は教室で待つことを選んでいた。


 これから咲茉に告白する赤城が友達を隠して連れてる可能性だってある。どちらにも言えることだが、もし互いに見つかれば体裁が悪い。


 野次馬で他人の告白場面を覗いてるというのは、あまりにも印象が悪過ぎる。


 人目を気にすることなどしたくはなかったが、その所為でこれからの3年間が酷い目に遭うかもしれないと考えれば、そうせざるを得なかった。


 何も起きないでほしい。そう願いながら悠也が席で祈るように手を組んでいると、


「悠也はさ、本当に何も知らないの?」


 ふと、啓介にそう訊かれていた。


 何について知らないのか、それが何を指しているのか言われるまでもなく分かっていた。


「咲茉のアレは俺も知らない。高校に入学する少し前からなったって話してたくらいだよ」


 咲茉の男性恐怖症について、悠也も言えることだけを答える。


 実際のところ、彼自身も何も知らないのは本当のことだった。


 過去にタイムリープして来たから、その秘密だけは咲茉も今だに明かしていない。


 知らないことを語ることなど当然だが悠也にもできるはずもなかった。


「悠也も知らないなら本当に誰にも言ってないんだな」

「ずっと隠したままだ」


 困ったと頭を抱える啓介に、悠也が頷いて見せる。


 そうすると啓介は苦笑しながら、自分の手を見つめていた。


「俺も悠也達と付き合い長いけど、咲茉ちゃんに触ったことなんて数えるくらいしかなかったんだよ」

「……男子ならそんなもんだろ」


 別に仲が良いと言っても、男子が女子に触れる機会など限られている。女子同士とは話が違う。


 悠也が答えると、啓介は頷いていたが少し寂しそうに目を伏せていた。


「言ってなかったんだけどさ。ここ最近、一回だけ咲茉ちゃんと偶然ぶつかったことあるんだよ」

「……え?」


 なにげなく告げられた啓介の話に、悠也が思わず訊き返す。


 少し驚いた悠也に、啓介は苦笑いを返していた。


「俺も直に見たけど……咲茉ちゃん、俺のことも怖がってた。あの怖がり方は、普通じゃなかったよ」

「どんな風だったんだ?」

「言い方が荒いかもしれないけど、なんか化け物と出会ったみたいな反応だったわ。こっちがビックリするくらい震えてさ、すぐ俺を見たら戻ったけど……あの時思ったわ。あぁ、マジで男が怖くなったんだなって」


 やはり、以前に自分が見た時と同じだった。


 ただ事故でぶつかっただけでそこまでなれば、啓介も驚いたのだろう。


「それに普段の咲茉ちゃん見てたら分かるけど、ちょっと大人しくなったんだよな」

「そうか?」

「説明するの難しいけどさ、中学の頃はもっと元気だったって感じ。今の咲茉ちゃんは前よりも落ち着きがあるって言った方が聞こえが良いかもな」


 やはり隠しても、見つかる部分はあるらしい。


 子供の身体に大人の精神が入っていれば、必然的にそうなる。大人になれば、その分だけ落ち着きが見えてしまう。


 普段の話し方や何気ない動作、それは子供から大人になるにつれて無意識のうちに変わっていく。


 それを子供の啓介が見ているとは、悠也も思いもしなかった。


 いや、むしろ子供だからこそ些細な変化に気づいていたのかもしれない。


「乃亜はどう思うよ?」

「私は今の咲茉っちも好きだよ〜! なんか昔より大人っぽくなった感じするし〜!」


 啓介が訊くと、近くの椅子で退屈そうに足をふらふらと揺らして遊んでいた乃亜がそう答える。


「髪も染めてたのも黒に戻しちゃってたし、きっと悠也と付き合い始めたから変わったのかなぁーって思ってたんだよねぇ〜」


 乃亜に指摘されて、悠也は頷くだけだった。


 過去に戻ってきた時、咲茉の髪は明るい茶髪に染まっていた。


 確か、当時の咲茉は高校が頭髪の染色に厳しくないと知って、髪を茶髪に染めていた。


 しかし今の咲茉は、黒髪に戻していた。


 それは男子から目立ちたくないという、彼女なりの努力のつもりだった。


「今の咲茉ちゃんって可愛いんだよねー! 変にオシャレとかで背伸びしてる女子と違って、清楚って感じが良きー!」

「あー、めっちゃ分かるわ」


 乃亜の話に啓介が激しく頷く。


 それは悠也も同意だった。


 人それぞれ好みは違うが、化粧などで自分を彩ってるギャルよりもシンプルな女子の方が好みの男性は多い。


 今思えば、咲茉の努力は良い意味で悪かったかもしれない。下手に可愛さを隠そうとしても、余計に目立ってしまっていたのかもと。


「まぁ、そんなのどっちでも良いんだけどね〜」


 悠也がそう考えていると、乃亜がだるそうな声色で告げていた。


 まるでどうでも良いと語る、聞き方によっては興味もないと受け取れる言葉。


 啓介と悠也が怪訝に首を傾げると、乃亜は悠也をちらりと見ながら口を開いていた。


「昔の元気いっぱいだった咲茉っちも、大人っぽくなった咲茉っちも、どっちも同じだし好きも嫌いもないよ〜」

「……そうだな」


 悠也が頷けば、乃亜が嬉しそうに微笑む。


「でしょー? 啓介っちが怖がられたのも、単に怖い思いをしただけだから嫌われてないの分かってるでしょー?」

「まぁ、それは分かってるけど」

「ならそんな悲しい顔するのは無駄ー! 咲茉っちに嫌われてないんだから気にしてる時点で無駄無駄無駄ー! そんな啓介っちは私が時を止めてボコボコにしてやるぞ〜?」

「お前、時止めれるのかよ」

「私にも、きっとそのうち背後にゴツい精霊が現れるー!」


 真面目なことを言ったと思えば、すぐ馬鹿なことを話す彼女に悠也と啓介は笑っていた。


 これも、彼女なりの啓介への気遣いなのだろう。


 友達だと思っていた咲茉から怖がられた。それに悩むのが無駄だと。


 彼女自身が嫌ってないと公言してるなら、気にすること自体が無意味であることを。


 それを伝えた乃亜は、やはり友達思いだと思わされる。


 呑気な笑みを浮かべる彼女に、悠也が微笑んだ時だった。


 慌ただしく、凛子と雪菜が咲茉を連れて戻ってきた。


「咲茉っ! 大丈夫かっ⁉︎」

「今からでも保健室行きますか!」


 予想外の慌ただしさで戻ってきた三人に、悠也達は目を合わせると慌てて駆け寄っていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 乃亜さんはザ・ワールドを所望しておる、と。
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