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第29話 ラブレター


 学校が始まって一週間も経つと、新入生達も新しい学校生活に慣れる。


 そうすると、自然と色々な話が学年内で広まっていくものだ。


 運動ができる男子がどのクラスにいるか。


 はたまた容姿の整った男子がどのクラスにいるか。


 そしてとあるクラスにいる女の子が可愛いなど、様々な話が学年内で広まっていく。


 特に異性の容姿に関する話は、男女問わず興味の的だった。


「……あ」


 今朝も悠也が咲茉と登校すると、下駄箱から靴を取り出した彼女が奇妙な声を漏らしていた。


 悠也が振り向くと、咲茉が地面を見つめていた。


「どうした?」

「なんか私の下駄箱から落ちたみたい」


 その返事に悠也が咲茉の視線を追うと、確かに彼女の足元に何かが落ちていた。


 よく見れば、それは封筒のようだった。


 怪訝に首を傾げる咲茉を横目に、悠也がそれを払う。


「ゆーや?」

「これがお前の元に来るとは……」


 そして改めて、その封筒を見るなり、彼の表情は分かりやすいほど嫌悪に歪んでいた。


「え? もしかしてそれって不幸の手紙?」


 なぜか目を輝かせる咲茉に、悠也は呆れて肩を落としていた。


「それ、俺達世代のネタじゃないぞ?」

「……ちょっと昔、結構ネットの世界に潜ってたから」


 はしゃいでしまった自分を恥じたのか、咲茉が苦笑いする。


 そんな彼女に、悠也は拾った封筒を手渡していた。


「自分で見てみろ」

「……ん?」


 怪訝に首を傾げながら、咲茉が封筒を受け取る。


 そして何気なく視線を向けると、その封筒を見た途端、彼女は目を大きくしていた。


 簡素な封筒。表には“涼風咲茉さんへ”と書かれていて、裏面には学年と組、そして男の名前が書かれていた。


 それだけ書かれていれば、その封筒が手紙であることは一目で分かる。


 そして更に男が女に下駄箱で渡す手紙ともなれば、答えはひとつしかなかった。


「これって……」

「ラブレターだな」


 悠也がそう告げると、咲茉の表情が一瞬で強張った。


 まさか下駄箱にラブレターが入っているとは彼女も思わなかったらしい。


 更に加えて手紙の相手が男であることが、咲茉の表情をより一層歪ませていた。


 その表情は、明らかに喜んでいる顔ではなかった。





「咲茉にラブレターだって?」


 悠也と咲茉が教室に着くと、二人から話を聞いた凛子があり得ないと目を大きくしていた。


「彼氏持ちの咲茉っちにラブレター、やるやん?」

「乃亜ちゃん? 語尾が変になってますよ?」

「むっ、驚きのあまり、つい」


 動揺を隠しきれないと困惑する乃亜に、雪菜が苦笑しながら指摘する。


 そんな二人を横目に、啓介は問題のラブレターをじっと見つめていた。


「咲茉ちゃんの人気は学年でも有名になったけど……まさか彼氏持ちにラブレターを出すとはなぁ」


 意外そうに語る啓介の話に、悠也の眉が寄った。


「咲茉の人気? なんだよそれ?」

「え? 悠也、知らないの?」

「いや、なんの話だよ」


 怪訝に悠也が問うと、呆れたと啓介が答えた。


「なんかいつの間にかできてた学年の女子の人気ランキングの話、結構男子の中だと有名だぞ?」

「男子のそういう部分、最高にキモいわ」


 思わず凛子が難色を示すと、啓介が苦笑する。


 また悠也も失笑すると、彼に詳しく話を聞いていた。


「それが咲茉とどういう関係あるんだよ」

「咲茉ちゃんって上位なんだよ。それも聞いて驚くことに1位」


 つまり、それは男子の中で最も人気が高いことになる。


 学年の男子が全員揃って咲茉が一番可愛いと言っているようなものだった。


 自分の彼女が可愛いと思われるのは悠也としても誇らしい限りだったが、勝手にランキング付けされている事実には流石の悠也も少し苛立った。


「彼氏持ちは除外しろよ」

「そんなの気にしない奴が多いんだよ」


 見てる分には彼氏がいてもいなくても関係ない。そう思われてランキング付けされているのだと分かると、凛子が小馬鹿にしたように鼻で笑っていた。


「ほんと男子ってバカだなぁ」

「ちなみに凛子はトップ10にいるぞ」

「……へっ?」


 思わぬ事実を知り、凛子が驚く。


 そして数秒後、彼女の顔はほんのりと赤く染まっていた。


「嘘つくなよ。私がそんな順位なわけないだろ」

「誠に遺憾だけどお前って黙ってると死ぬほど怖いけど、笑うと可愛いんだよ。だからじゃね?」

「なにが誠に遺憾だ! 舐めやがってっ!」


 褒めてるのか貶しているのか分からない啓介の発言に、凛子の拳が彼の背中に向けて放たれる。


 手加減が一切ない彼女の拳に、啓介は身体を逸らすと頭に身悶えていた。


「なにすんだよ!」

「うっさい! 死ね馬鹿!」


 怒ってると凛子がそっぽを向く。


 思いのほか満更でもない表情を見せる彼女に悠也が苦笑していると、


「ちなみに私の順位は?」

「雪菜は……確か2位」

「わぁ! ちょっと嬉しいです!」


 予想以上の順位だったのか、手を合わせて雪菜は喜んでいた。


「ねぇねぇ、啓介っちー? 私はー?」

「お前は50位くらいだったぞ」

「……ほわい?」


 突き付けられた順位に、乃亜が放心していた。


 そして明らかに落ち込んだ彼女を悠也はそっと頭を撫でて慰めていた。


「乃亜、まだお前は成長する。気にするな」

「じゃあー、成長しなかったら悠也っちが私を貰ってくれる?」

「咲茉がいるから無理」

「おーまいがー!」

「あ、悪い」


 悠也が止めを刺して、乃亜が肩を落として落ち込んでいた。


 しばらくは慰めてあげよう。そう思った悠也が乃亜の頭を撫でていると、雪菜も彼女の背中を優しく撫でていた。


 二人の優しさが、乃亜の心を更に傷つけているとは知らずに。


 またより一層落ち込んだ乃亜を他所に、悠也は先程の話を続けていた。


「まぁランキングの内容は良いとして、その順位の所為で咲茉にラブレターが来たのか?」

「そういうことだろうなぁ、確かコイツってイケメンで人気の男子だぞ?」

「なんでそんなことまで知ってんだよ……」


 無駄な知識が多い啓介に、悠也が呆れる。


 悠也以外の全員も、啓介に呆れてしまう。


 全員の反応に、啓介は拗ねた表情を見せていた。


「部活やってるからだよ。お前達と違って俺は他のクラスと交流あんだよ」


 そう言われれば、悠也達も渋々と納得するしかなかった。


 彼の言う通り、啓介は悠也達の中で唯一部活動に所属している生徒だった。


 啓介の所属してる部活を知っている凛子は、無意識に鼻で笑っていた。


「軽音部なんかに入ってるから変な話聞くんじゃね?」

「軽音を馬鹿にするなっ!」

「軽い音楽って自分で言ってる時点で勝ち目ないから」

「その軽いって意味違うからな⁉︎」

「二人とも? 喧嘩しないでください?」


 また始まりそうになった二人の口喧嘩を雪菜が止める。


 彼女の威圧にたじろぐ二人が喧嘩を止めると、悠也は啓介からラブレターを奪い取っていた。


「とりあえず先に咲茉が読んだ方が良い」

「え、読むの?」

「お前宛の手紙だし、先に本人以外が読むのは気が引ける」


 明らかに嫌がる咲茉だったが、悠也は顔を顰めながらもラブレターを手渡していた。


 ラブレターを受け取った咲茉の眉間に皺が寄る。


 読みたくないと悠也に視線を向けるが、彼が首を横に振ると仕方ないと咲茉はラブレターの封を開けていた。


 中に入っていた手紙を広げ、咲茉の視線が動く。


 そして一通り読んだのか読み終わるなり、彼女はすぐに手紙を悠也に押し付けていた。


「読んだから、悠也が持ってて」

「俺?」

「良いから、お願いだから持ってて」


 もう持っていることすら嫌だと彼女の態度が示していた。


「やっぱり悠也以外、我慢できない」


 そして小さな声で、咲茉がそう呟いていた。

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