第20話 クラス表
これから悠也と咲茉が3年間通う公立青彩高校は、一般的な偏差値の公立高校である。
この学校に特出する点があるとすれば、多彩な部活動に力を入れているという点だけだろう。
運動系の部活は過去に何度か全国大会に出場した実績を持ち、文科系の部活でも稀にコンクールなどで賞を取ることもある。
それとは正反対に在籍する生徒の偏差値は決して高いわけでもなく、低くもない。平均的な学力を持った地元の中学生達が数多く入学する高校として地元の人間に広く知られている。
よってこの学校に入学する新入生は互いに見知った顔が多くなるのだが……それは二人も例外ではなかった。
「知ってたけど同じクラスだったな」
「うん。悠也と同じクラスだったのは勿論嬉しいけど、始めから結果が分かってるとやっぱり面白くないね」
高校に到着した悠也と咲茉が昇降口に張り出されたクラス表を見ながら、二人が顔を見合わせるなり、つい苦笑いしてしまう。
本来なら二人の周りで騒いでいる生徒達のように、張り出されたクラス表に一喜一憂するものだ。
自分がどのクラスに割り振られたか、仲の良い友人や好きな人と同じクラスだったかなど結果に対して騒ぐのが新入生の醍醐味というものだろう。
しかし未来から過去にタイムリープしてきた二人は、当然だが自分達が割り振られるクラスを知っていた。
自分達が同じクラスに割り振られることを知っていれば、この二人が淡々とした反応になるのも当然のことだった。
「つまんない方がマシだ。もしかしたら咲茉と同じクラスじゃないかもって不安になるより全然良い」
仮に張り出されたクラス表の内容を知らなければ、きっと悠也も周りの生徒達と同じように騒いでいたはずだろう。
もう10年も前のことでハッキリと思い出せなかったが、間違いなく騒いでいたような気がした。
「それはそうだけど、折角なら楽しみたくなかった?」
また高校生活をやり直せるのなら楽しみたい。
そう思う咲茉の気持ちも理解できるが、悠也は頬を引き攣らせると首を小さく横に振っていた。
「咲茉の言いたいことは分かるけど……流石にコレだけは楽しむ気になれないよ。お前と一緒のクラスじゃないなんて耐えられそうにない」
「また恥ずかしいこと言って、もう」
「お前だって俺と一緒のクラスじゃなくなってたら嫌だろ?」
「むっ……悠也のいじわる」
頬をほんのりと赤く染めて頬を膨らませる咲茉に、わざとらしく悠也が肩を竦めながら苦笑していた。
「俺だって嫌だったから安心してたんだよ」
むしろ始めから咲茉と同じクラスだと分かっていたから悠也は安心していたのだ。
当時の自分ならまだしも、こうして咲茉と恋人同士となれた今では話が全然変わってくる。
もし仮に悠也の知っている過去が変わって彼女と別のクラスになっていれば、間違いなくその場で発狂していただろう。間違いなくそうなると確固たる自信が悠也にはあった。
「まぁ、ともかく俺達の知ってる結果通りで安心したよ。啓介も同じクラスだったし、他の知り合いもあの時と同じだ」
改めてクラス表の名簿を見た悠也が安堵で肩を落とす。
クラスの全員は思い出せなかったが、当時の仲が良かったクラスメイトの名前がクラス表に書かれていれば安堵もしたくなる。
これもタイムリープする創作物でよくある話だが、同じことが起こるはずなのに知ってるはずの未来が少し変わっているなんて話はよくあることだ。
それか起きなかったことに悠也が安心するのも無理もないことだった。
「だねぇ……懐かしいなぁ」
悠也と同じようにクラス表を眺める咲茉が、しみじみと呟く。
「乃亜ちゃんに雪菜ちゃん。それに凛子ちゃんもいる」
「いつものメンツだなぁ」
咲茉が昔から特に仲の良かった友人の名前を見て、嬉しそうに微笑む。
当時は咲茉と一緒にいることが多かったので悠也も彼女達のことはよく知っていた。
「そう言えば、あの三人にはもう男性恐怖症のことは話してるのか?」
「うん。悠也に言われた通り、もうみんなにはメッセージで伝えておいたよ」
「……反応は?」
「ものすごく心配されたって感じ、変に疑われたりはしてないよ」
「それなら良かった」
頷く咲茉に、悠也がホッと胸を撫で下ろす。
改めて高校生活をするにあたって、咲茉の男性恐怖症のことを先に伝えておかなければ何かと困る人間達には事前に伝えておくことを悠也は提案していた。
咲茉の場合、普段一緒にいることが多い友達には話しておいた方が都合が良い。
どの道、隠してもすぐにバレる可能性が高いのだから始めたら伝えていた方が友達思いの彼女達ならきっと手助けしてくれるだろうと。
「でも直接話してるわけじゃないから、会った時に色々と訊かれるかも」
「それは上手くやるしかない。その辺りは俺も話合わせるから」
「……ありがと」
そう言って、咲茉が目を伏せる。
隠してる過去のことを話さないことが申し訳ないと言いたげな彼女の反応に、見慣れた悠也は小さな溜息を吐き出した。
「別に謝ることじゃない。その話は何度も言ってるけど、お前が言えるようになってからで良い」
「……ごめんなさい」
「ほら、また謝ってるぞ」
「うっ……」
悠也に指摘されて困ったと咲茉が眉を顰めた時だった。
突然、小さな女の子が二人の肩にのしかかっていた。
「おはぁーっす、二人ともおひさ〜」
そして気だるそうな声に驚いた悠也達が振り向くと、そこには懐かしい友人の顔があった。
読了、お疲れ様です。
もし良ければブックマーク登録、
またページ下部の『☆☆☆☆☆』の欄から評価して頂けると嬉しいです!
今後の励みになります!




