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第19話 過剰反応


「……啓介じゃん」


 悠也が振り返ると、久しぶりに見た友人の名前を呼んでいた。


 暗い茶髪に染まった短髪を整髪料でふんわりと仕上げたイケてる印象を受ける彼は、悠也と中学から大学まで同じだった友人の坂本啓介だった。


 入学式までスマホで連絡を取り合っていたが、こうして子供の啓介に会うと過去に戻ってきたことをまた実感してしまう。


 大学生だった時の啓介を知る悠也から見れば、今の彼が大人に憧れて背伸びした子供にしか見えず、面白くて笑ってしまう。


「親友の顔見て笑うとは良い度胸してんな、このやろっ!」


 突然悠也が笑うと、啓介はムッと眉を吊り上げるなり、彼の肩を小突いていた。


 じゃれてる程度の強さで殴られても痛くかゆくもない。


 久々過ぎる啓介とのやり取りに、悠也は謝罪しながらも笑い続けていた。


「別に馬鹿にしてないから安心しろって、久々にあったのが嬉しかっただけだ」

「久々だぁ? 確かに先週は俺も家族で親戚の家に言ってたけど、2週間前は毎日遊んでただろ?」

「あぁ~、そうだったな」


 啓介から送られてきたメッセージで、そんな話があったような気がする。


 啓介がそう話すと言うことは、おそらく悠也が過去に戻って来る前に彼と何度も会っていたのだろう。


 その記憶を全く覚えていない悠也が誤魔化して頷くと、啓介が怪訝に顔を顰めていた。


「変な悠也だな、まぁ良いけど」


 気にしないと啓介が肩を竦める。


 そして彼の視線が、悠也の隣にいる咲茉に向けられた。


「咲茉ちゃんもおはよ。今日もめっちゃ可愛い」

「……お、おはよ」

「あれ? 俺なんか変なこと言った?」


 咲茉にいつも通りに挨拶したはずが、予想外の反応に啓介は困惑していた。


 いつもなら褒めても「ありがとー」と軽く流されるだけだったはずなのに、なぜか悠也の背中に咲茉が隠れていた。


 困惑している啓介に、悠也はあらかじめ咲茉と決めていた言い訳を伝えることにした。


「あぁ、ちょっと最近ずっと怖い夢見てるらしくてな。急に男見ると怖くなるんだってよ」


 これから高校生活が始まるにあたって、まず問題になるのは咲茉の男性恐怖症だった。


 今まで平気だった彼女が、突如男が苦手になれば周りから奇異の目で見られるのは避けようがない。特に彼女と仲の良かった友人達からも心配されるに決まっている。


 それを上手く誤魔化す為の子供らしい言い訳を二人で考えた結果、悠也が話した理由になってしまった。


「なにそれエグ……どんな夢見たんだよ」

「よっぽど怖かったみたいで教えてくれないんだよ」

「マジか」


 驚く啓介の反応を見る限り、悠也は疑ってはいないと判断した。


 疑われなかったことに安堵する悠也だったが、啓介は友達想いな性格であることを忘れていた。


「だからか……急に声掛けてごめんな、咲茉ちゃん」


 そっと咲茉に近づいた啓介が、心配そうに声を掛ける。


 中学生から友達だったこともあり、自然と彼と距離感が近いのは仕方のないことだ。


 それを分かっているが、どうにも咲茉は身体が動かせず、悠也の背中に隠れたまま頷いて見せるのが精一杯だった。


「だ、大丈夫。ちょっとびっくりしただけだから」

「なにかあったら俺にも言ってくれよ……って悠也は平気なのか?」

「うん。ゆーやは平気」


 咲茉がそう答えると、啓介は頭を抱えていた。


「かぁー! これだから夫婦はきちぃ!」

「おい」


 懐かしいイジリに悠也が目を細めると、啓介は鼻で笑っていた。


「だってそうだろ? お前だけ大丈夫とか、それだけ咲茉ちゃんがお前のこと信用してるってことじゃん?」

「むっ……」


 事実を告げられて、思わず悠也が言葉を詰まらせる。


 その時、ちょうど赤信号が青に変わると、三人は自然と歩き出していた。


「これで付き合ってないとか言ってんだから困ったも――」


 やれやれと呆れる啓介がなにげなく二人を見るなり、言葉を止めていた。


 横断歩道を歩いていた彼が足を止め、そして唖然とした表情である一点を見つめていた。


「……おいおいおいおい、二人ともそれ」

「どうした? 早くしないと信号変わるぞ?」


 悠也に言われて、慌てて啓介が小走りで先を歩く二人を追い掛ける。


 そして信号を渡った後、彼は二人の前に出ると指を震わせながらその一点を指差していた。


「なんで二人とも手繋いでんの! それも恋人繋ぎ!」


 二人が繋いでいる手を見つめて、啓介は驚愕していた。


 互いの指を絡ませた恋人繋ぎ。それをする関係など考えるまでもなく――


「……まぁ、そういうこと」

「うん、そういうことだよ。啓介くん」


 指摘されても決して手を離すことはなく、二人がそう答えれば、啓介も信じるしかなかった。


「えぇぇぇぇ! まじぃ!?」


 その場で啓介が大声で叫んでいた。


「いつから付き合ってんの!? てかどっちから告ったんだよ!?」

「うるさいな、そんなのどうでもいいだろ」

「どうでも良いわけないだろ!? 今までずっと中学から俺達をじらしてきたお前達が付き合ったなんて一大事だぞ!?」

「そんな大げさな……」


 付き合ったと知られただけでここまで驚かれるとは悠也も思わなかった。


 とは思っても思春期の子供なら、この反応が普通なのかもしれない。


 そう思い呆れる悠也に、啓介は我慢できないと立て続けに質問攻めにしていた。


「頼むから教えてくれって! どっちから告白したんだよ! いつから付き合ってどこまで行ったんだ!? まさかもうキスとか――」

「……啓介くん」


 ふと、咲茉に声を掛けられて啓介が口を止める。


 いつもの彼なら関係ないとマシンガンのように質問してくるはずだったが、頬を赤らめる咲茉に思わず動きを止めていた。


「私達ね、まだそーゆーことはしてないの」

「……お、おぅ」

「ゆっくり、ちょっとずつ今よりも仲良くなってからするから……あんまり悠也を困らせないでくれると嬉しいな」


 空いた手を頬に添えて恥ずかしそうに視線を逸らす咲茉に、啓介は息を呑んでいた。


 子供の男子には咲茉の見せる仕草は効果抜群だったらしく。啓介が呆然とするほど効いていた。


「のぉぉ……!」


 苦しそうに胸を抑えて、啓介が見悶える。


 その姿を悠也は淡々とした目で見つめていた。


「……なにしてんの?」

「咲茉ちゃんの反応が尊過ぎて……死にそう」

「あぁ……それなら納得」

「もう、恥ずかしいこと言わないでよ」


 啓介の反応に頷いた悠也の脇を、咲茉が軽く小突く。


 それすらも可愛く見えて、啓介は即座にスマホを取り出していた。


「もう無理……みんなに報告しよ」

「おい! わざわざ広めることないだろ!」


 どこかに連絡しようとする啓介を止めようとする悠也だったが、恐ろしいまでに俊敏な動きで啓介が走り出していた。


「これが広めないわけにいないだろって!」

「良いから今すぐそのスマホ……ってもう見えなくなったし」


 そして瞬く間に走り去っていった啓介に、悠也は呆れるしかなかった。


「……大丈夫かな?」

「さぁ? どうにでもなるだろ?」


 わざとらしく悠也が肩を竦ませれば、渋々と咲茉も頷くだけだった。


 別に付き合ってると知られたところで困ることもない。


 大人だった二人だからそう思うだけで、先程の啓介の反応も多感な子供の恋愛に対する過剰反応としか思えなかった。


 そう思った二人が目を合わせて苦笑すると、何もなかったように二人は学校へと向かっていた。

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