第51話 鬼の形相で
適当な女に声を掛けるのはつまらない。やはり夏の海に来たからには、良い女を捕まえたいと思うのは男としての役目だろう。
なにげなく浜辺で視線を巡らせば、大して良くもない女に必死に声を掛けている野郎達がいる。おそらく大学生くらいだろう。それに満更でもない顔であしらっている女達がとても惨めに見えて、笑えてくる。
顔も良いとは言えず、女としての肉付きも悪い女には、あの程度の男がお似合いだ。
整えた髪型と香水で良い男を作ろうとしても、身体だけは誤魔化せない。日頃の努力もできない男らしい、細い貧弱な彼等の身体を見ていると、やはり笑いがこみ上げてくる。
あんな男になびく女も、その程度の女である。やはり良い女には、良い男が相応しい。
「なんかぁ、どれ見てもビミョーっすね」
「ったく、折角海に来たってのにロクな女いねぇ」
同じく浜辺を眺めていた2人の連れが、心底つまらなそうな声を漏らす。
その嘆きに、男は苦笑交じりに答えていた。
「その中で良い女探すのが楽しいんじゃねぇか。そこら辺のブスに声掛けてる野郎みたいなこと言ってんじゃねぇよ」
「「うぃ~っス」」
渋々と、しかしそれでも返ってきた男の意見には同意だと連れ達が頷く。
だが、そうは言っても良い女が見当たらないことには男も同意だった。
「水着着てるってのに、どいつもこいつもロクな身体してねぇな」
浜辺にいる女達を眺めても、男の目に敵う女が見当たらない。
色気もない水着を着た、自意識過剰な女は論外。無理して色気のある水着を着た貧相な女も話にならない。
「俺、やっぱり引っ掛けるならおっぱいデカい女が良いっす。できれば両手に収まんないくらいのE以上の巨乳で可愛い子」
「それもアリだが、俺はケツのデカい女が良いなぁ。ここら辺の女だとピンと来ねぇ」
やはり女は、身体が良くなくては話にならない。
胸がデカいのは当たり前、ケツもデカければ尚更良い。それで顔も良いとなれば、最高の一言である。
「適当にぶらついてたらいるだろ。海に来る女ってのは男を求めてるんだよ。ナンパ街の良い女に声を掛けてやるのが俺達の役目ってもんだ」
「へへっ、俺達めっちゃ良いことしてるっスね」
「たりまぇだろ。女に夢見せて、俺達も良い思いができてウィンウィンってやつだ」
大抵の女は、自分達を見ると赤面する。それだけ自分達に男としての魅力があるからこその自信だった。
昔から顔には自信があった。だから女には困ったことがない。
更に引き締まった筋肉。やはり雄としての魅力を引き出すには、逞しい筋肉があればあるほど良い。加えて肌も小麦色に焼けば、筋肉が映えて見える。
今まで数々の良い女達を落としてきた。彼女達は揃い揃って、この筋肉を前に落ちていた。少し抱き締めてやれば、顔を真っ赤にして胸に顔を埋めてしまうのだ。
この顔と身体で女に第一印象を良く見せ、そこから長年培ってきた話術で言葉巧みに誘えば……簡単に女という生き物はついてくる。
そこからは互いに夢のひと時を過ごすだけだ。相性が良ければセフレにでもしておけば良い。困ったら捨てるだけだ。
はたして、この俺達に見合う女はどこにいるだろうか?
そう思いながら、男達が浜辺を物色していると――
「……あ?」
ふと、男の目に1人の女が目に留まった。
「おい、あれ見ろよ」
「えっ? うわっ……でっか」
「めっちゃ良いじゃん、アレ」
そう言って顎でひとりの女を指す男の声に、連れ達が揃って目を大きくした。
「すっげぇ可愛い!」
思わず1人の男が叫ぶほど、周りの有象無象の女共とは比べ物にならない可愛い女が浜辺を歩いていた。
オフショルダーの水着で、フレアーの所為で分かりにくいが……男達の目は誤魔化せなかった。
「あれ、Eくらいあるんじゃね?」
「あんだけ胸でけぇのに腰ほっそ」
明らかにデカい女の胸に、男達が息を飲む。
腰も細いからか、余計に胸が大きく見えた。それにしても掴みやすい、良い腰回りである。
「足が少し細いが……悪くねぇな。ケツも良い感じだし」
彼等の好みとしては、もう少し足の肉付きが欲しいところだったが……それでも尻を見れば我慢できた。
歩いて揺れるスカートから覗く形を見れば、実に触り心地の良さそうな尻が垣間見える。
あれは紛れもなく、男達が望んでいた“良い女”でしかなかった。
「でも少しガキっぽいな。高校生か?」
「いや、あの身体は大学生でしょ?」
「んなのどっちでも良い。ガキでも身体は女だ。ヤレば一緒だ」
「それもそうっすね」
見る限り、大人には見えない幼い顔立ちだったが、それでも男達には関係なかった。
たとえ彼女が子供でも、身体が歳不相応の大人であれば、十分楽しめる。
「良し、アイツにしよう」
「あの彼氏っぽいガキは適当に追い返しておけば良いっすね」
「あんなヒョロガキ、俺達見たら逃げるでしょ?」
今日の獲物を見定めた男達が、唯一の懸念点を眺めて失笑する。
あんな良い女に、男がいるのも考えれば当然だろう。フリーの方が良かったが、それでも彼氏を見れば容易く女を連れ出せると思った。
多少は鍛えているらしいが、それでも自分達には勝てないだろう。鍛え抜いた身体を前に、あのガキなら怯えて逃げるに決まっている。
それで彼氏に呆れた女が自分達に魅力を感じることも考慮すれば、むしろ良い塩梅かもしれない。
「今日はハズレかと思ったが、良い日になりそうだ」
「あのおっぱい滅茶苦茶にしたい」
「お前ほんとおっぱい好きだよな」
「俺が一番最初におっぱい使いますからね!」
「馬鹿言うな、俺が使う」
連れ達のの呆れた発言に、男が苦笑する。
あの女を一番最初に堪能するのは、自分でなければ――
そう思いながら、3人の男達は意気揚々と彼女の元に歩き出していた。
「……あの人達、咲茉ちゃんのこと見てますね」
「あんのクソ共がぁ……!」
そんな彼等を、遠くから鬼の形相で見つめる2人の女に気づくこともなく。
「まぁまぁ、悠也が一緒だし大丈夫だって~」
「お前、少しは慌てろよ」
「啓介っち、悠也っちのこと舐めたらだめだよ~。やる時はやる男なんだから~」
彼女達の隣で、男に呆れられながら童顔の女の子が呑気にかき氷を頬張っていた。
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