表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
161/180

第48話 手離しちゃうよ?


 気ままにのんびりと浜辺を2人で歩くのも、意外と悪くなかった。気を遣ってくれた乃亜には、後で感謝しよう。


 ゆったりと波の音を聞きながら、夏の浜辺を好きな人と散歩する。これこそまさしく、実に恋人らしい姿である。


 どんな時でも、咲茉と恋人らしいことができれば、それだけで悠也は嬉しくて仕方なかった。


 たとえ暑いと思っても、互いに繋ぐ手を離すこともなく、むしろもっと触れたいと自然に指を絡め合ってしまう。


 指と手のひらから伝わる咲茉の体温が愛おしくて。ほんの少しだけ繋ぐ手を強く握れば、彼女も握り返してくれる。


 それが堪らなく嬉しくて悠也が微笑むと、咲茉も幸せそうに笑っていた。


 嬉しさと恥ずかしさが入り混じった、見惚れるほど素敵な笑顔で。


 なにげなく互いの目が合うと、ほんのりと頬を赤らめた咲茉が視線を逸らす横顔を見ただけで、一瞬で悠也の心臓が高鳴った。


 やはり、いつ見ても彼女に見惚れてしまう。どれだけ見ていても、飽きる気がしない。


 そう思いながら微笑んで見つめる悠也に、チラリと咲茉が視線を向ける。


 そしてまた視線が絡み合うと、咲茉は頬を赤くしたまま頬を膨らませていた。


「ゆーやっ、そんなに見つめないでっ」

「咲茉のこと、見たら駄目か?」

「ダメじゃないけど……そんな顔で見つめられたら、ちょっとだけ恥ずかしい」


 チラチラと悠也に何度も視線を向けながら、咲茉が口を尖らせる。


 そんな彼女に、悠也は思わず訊き返した


「……俺、どんな顔してた?」

「今のゆーやね。すっごく可愛くて、優しい顔してる。そんな顔しないでよ……見過ぎるとドキドキし過ぎて私の心臓壊れちゃう」


 そう言って目を逸らす咲茉に、なにげなく悠也の手が自分の顔を触ってしまう。


 全く自覚がなかったが、どうやらそんな顔をしていたらしい。


 しかし悠也は気にする素振りもなく、顔から手を離すと咲茉に微笑んでいた。


「仕方ないだろ。だって咲茉のこと、好きで好きでしょうがないんだから」

「……もう、ゆーやのばか」


 恥ずかしげもなく告げた悠也の声に、咲茉の頬が一瞬で真っ赤に染まる。


 そして恥ずかしさを誤魔化すように、彼女が悠也と繋ぐ手を乱暴に振っていた。


「そんな恥ずかしいことばっかり言ったら、手離しちゃうよ?」


 前後に腕を振りながら、隣を歩く悠也の肩に咲茉が自身の肩を軽くぶつける。


 その不貞腐れる姿も可愛いとしか思えなくて、堪らず悠也は苦笑混じりに答えていた。


「そんなこと言われてもなぁ、本当のことだし」

「またそんなこと言ってっ」

「咲茉は離したいのか? 俺はずーっと離したくないけど?」

「むぅ、ゆーやのいじわるっ!」


 先程と変わらず、顔を赤くする咲茉が頬を膨らませる。


 しかし彼女が怒っても、悠也は微笑むばかりだった。


「ほら、教えてよ?」

「……いじわる! もう怒ったからね! そんなこと言うならゆーやが離したいって言っても絶対離してあげないんだから!」

「それはちょっと困ったな。もしそうなったら一生怒らせることになるぞ?」


 そう答える悠也に、思わず咲茉の目が大きくなった。


 彼の言葉の意味は、嫌でも分かってしまった。


 遠回しに、一生離さないと。


 そう告げた悠也に、いつまでもやられっぱなしになる咲茉ではなかった。


「じゃあ私が怒ってない時は、ゆーやが離したらダメだよ? 私が笑ってる時も、悲しい時も、どんな時も離したらダメだからね?」

「俺が離すわけないだろ。こんなにちっちゃくて可愛い手、ずっと離してやるもんか」

「なら私もゆーやのおっきくて素敵な手、離さないから」


 そう言い合って、微笑む悠也と不貞腐れる咲茉が見つめ合う。


 しかし数秒も経つと、2人は揃ってクスッと笑っていた。


 こんな他愛のない話をしているだけで、楽しい。


 その相手が好きな人だと思うだけで、幸せな気持ちが溢れてくる。


 そう思いながら、2人は先程の口論も忘れて、浜辺を歩き続けていた。


「咲茉。海、楽しめてるか?」

「うん。すっごく楽しい」


 咲茉が楽しそうに頷く姿に、なにげなく訊いた悠也が嬉しそうに頬を緩める。


 その優しい笑みに、咲茉も自然と微笑んでいた。


「みんなと海で遊べて楽しいし、水着だって着れて、お母さん達も一緒に来てくれたんだもん。楽しいに決まってるよ〜」


 大好きな友達と海に来れるだけで嬉しいことなのに、大好きな両親達も一緒なら、なおさら楽しいに決まっていた。


「きっと咲茉なら、そう言うって思ってたよ」

「……ん? どういうこと?」

「別に大した話じゃないよ。他にも理由はあるけど、ただ咲茉が喜ぶと思ったからこうして母さん達を連れて来ただけって話だ」


 ふと返ってきた悠也の声に、咲茉が不思議そうに首を傾げる。


 そんな彼女に苦笑して見せると、どこか気恥ずかしそうに悠也が頭を掻いていた。


読了、お疲れ様です。


もし良ければブックマーク登録、

またページ下部の『☆☆☆☆☆』の欄から評価して頂けると嬉しいです!


今後の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ