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第41話 君もまだまだだねぇ〜


 赤面する凛子に乃亜が無事しばかれた後、咲茉達は思うままに海を満喫していた。


 水を掛け合ってじゃれ合うこともあれば、乃亜が用意していたビーチボールや水鉄砲で遊んだり等々、子供らしく海を遊び尽くす。


 しかし元気のあり余った子供でも、遊び続ければ疲れもする。


 そんな時は冷たい海の上でのんびりと休むのも、海ならではの楽しみ方だった。


「ぷかぷかぁ~」

「ふわふわぁ~」


 遊び疲れた乃亜が大きな浮き輪の上に座ってくつろぐ傍で、咲茉も海に揺られながら2人が揃って心地良さそうな声を漏らす。


 日差しも強くて気温が高いと、ただ海に浮かんでいるだけでも気持ち良くて仕方なかった。


「遊ぶのも良いけど、こういうのもアリだよね~」

「だね~、冷たくて気持ち~」


 だらしのない声を漏らす乃亜に、浮き輪に顎を乗せた咲茉の喉が呑気な声を鳴らす。


 なにげなく咲茉が視線を動かすと、少し遠くで悠也と凛子がじゃれ合っていた。


「おらっ! テメェは海に沈んどけっ‼」

「ごっ‼」


 凛子のドロップキックで、悠也の身体が吹き飛んでいく。


 そして海に沈んだ悠也が浮かび上がると、すぐに仕返しするべく凛子に迫っていた。


「おい凛子、てめぇ……よくもやってくれたなぁ!」

「はっ! 抜かしてろ! 本当なら私が咲茉に日焼け止めを塗れるはずだったのに……この鬱憤、お前で晴らさないと私の気が済まねぇんだよ!」

「ただの言いがかりじゃねぇか!」

「うっせ! 黙って私に咲茉を寄越せっ!」

「誰がやるか! 俺のに決まってるだろ!」

「なんだとぉ!」


 互いに手を掴み合って、口論する悠也と凛子が押し合う。


 その口論の内容が自分と分かると、つい咲茉は赤面したまま頬を引き攣らせていた。


「もう……2人とも、あんなこと言って」

「好きにやらせときなぁ~、ああいうのは思う存分やらせておくのが吉~」


 頬を赤くする咲茉と違って、浮き輪の上で乃亜が呑気な声を漏らす。


 しかしそう言われても咲茉が2人の喧嘩を放置できないと見つめていると、乃亜が気怠そうに続けていた。


「海の上だと怪我もしないし~、そこら辺はあの2人も分かってるでしょ~」


 倒れても、海の上なら怪我もしない。加減を間違えなければ、あの2人の喧嘩もただのじゃれ合いでしかなかった。


 そう思う乃亜の考えは、あの2人をよく知る咲茉も察することできた。


「なら良いけど……アレ、ほんとに大丈夫?」

「どうせ良い頃合いで雪菜っちが止めるから良いんじゃない~?」


 そう乃亜が言ったのも束の間。咲茉がじゃれ合う悠也と凛子を見守っていると、どこからともなく雪菜がゆっくりと2人に近づいていた。


「私の方がお前より咲茉のこと好きだし!」

「はぁ!? 俺の方が好きに決まってんだろ!」

「じゃあ咲茉のどこ好きか私より言えんのかよ!」

「言えるに決まってんだろ! 100個言っても足りねぇわ!」

「はっ! てめぇと違って私は1000個言えるし!」


 接近する雪菜に気づくこともなく、2人が喧嘩を続ける。


 そんな彼等に雪菜が満面の笑みを浮かべると、おもむろに海に手を突っ込むなり、


「――てぃ!」


 渾身の力で、2人に水を掛けていた。


 雪菜の怪力によって振り抜かれた手から掻き出された海水が、大きな音と共に高い柱を作って悠也と凛子に迫る。


「「……え?」」


 その音に2人が気づく頃には、もう迫る海水は目の前だった。


 空から降り注ぐ海水の塊に、悠也と凛子の表情が引き攣る。


 逃げようにも、もう間に合わなかった。



「「ぎゃぁぁぁぁっ‼」」



 一瞬で全身に海水を浴びた悠也と凛子が、海の中に姿を消す。


 そして数秒後、2人が亡骸のごとく浮かび上がる姿に、雪菜は笑顔のまま告げていた。


「二人とも~? 喧嘩はダメって言ったの忘れてませんか~?」


 海に浮かぶ悠也と凛子がコクコクと頷く。


 その2人の反応に、雪菜は嬉しそうな笑みを浮かべていた。


「ほらね? どうせああなるの分かってるのに喧嘩するんだもん。まったく、ほんと馬鹿な2人だよ」


 終始見届けていた乃亜が、呆れたと失笑する。


 その光景に、咲茉も思わず乾いた笑みを浮かべてしまった。


「あっちは放っておいても楽しくやるだろうし〜、私達はのんびりとくつろげば良いのさぁ〜」


 全く関わるつもりがないと、浮き輪の上で乃亜が気怠そうにする。


 その横顔を見ながら、咲茉は騒ぐ彼等を見つめていた。


 今も隙を狙って、悠也と凛子が喧嘩すれば雪菜に黙らさせている。


 そんな彼等の姿に、なにげなく咲茉が呟いていた。


「そう言えば……私ってゆーやとあんまり喧嘩したことないかも」

「あら意外〜、あれだけ一緒にいるのに彼氏に不満なことないの〜?」


 意外な話だと思う乃亜だったが、その思考は一瞬で消え去った。


 咲茉と悠也。子供の時ならまだしも、今の2人が喧嘩するとは全く思えなかった。


「全然ないかな?」

「ふーん? 悠也のちょっとしたことでも許せちゃう?」

「うーん」


 ふと、咲茉が唸って考える。


 実のところ、悠也の行動で彼女が本気で怒ることは決まっている。


 そのほとんどが、悠也と何かを共有できるはずだったのにできなかったことだろう。


 先日のペアリングの件も、彼と一緒に折半で買いたかったのに買えなかったからこそ、本気で怒った。


 しかしそれも喧嘩まで発展することはなかった。悠也が素直に謝れば、咲茉も許す。


 そもそも悠也に怒ることも少ない。彼と喧嘩など、咲茉が思い返しても心当たりがなかった。


「前に私に黙って勝手にペアリング買った時は流石に怒ったけど……それぐらいで、他に不満とか思ったことないかも」

「ずっと毎日一緒に居て喧嘩しないって相当だよ〜?」

「……そう?」


 乃亜の返事に、つい咲茉が首を傾げる。


 その反応に、乃亜は苦笑混じりに答えていた。


「毎日四六時中一緒に居れば、どんなに好きな人でも嫌なところのひとつやふたつ見えるもんだよ〜。好きな相手に隠そうとしても、自然と見える部分もあるからね〜。それを全く思わないって、咲茉っちも相当悠也に惚れ込んでる証拠だよ〜」


 そういうものではないか?


 そう思う咲茉が不思議そうに呆ける表情に、乃亜はクスクスと笑っていた。


「例えばだけどさ〜、悠也に嫌われたくないからって咲茉っちって我慢とかしてることある?」

「え? 特にないけど?」

「ほんと〜?」

「うーん。あるとしたら……太るから甘いもの控えてるくらい?」

「それは女の宿命だから例外〜。ほんとにないの?」

「うん、思いつかないや」


 考えても、悠也の為に我慢していることはなかった。


「お弁当作ってあげたり〜? なにかしてあげるのも嫌じゃないの〜?」

「全然嫌じゃないよ? むしろゆーやにはいっぱい色々してあげたいくらいだもん」


 好きな彼に尽くせるなら、なんでも咲茉はしてあげたい気持ちだった。


「お弁当だって私の料理で悠也が喜んでくれるなら嬉しいし、たまーにしてあげる膝枕だって悠也の顔近くで見れるから癒されるし……やっぱり嫌とか思ったことないや」


 大好きな彼と過ごせる時間が幸せで堪らない。だからこそ、咲茉が不満に思うこともなかった。


 そう当然のように答える彼女に、乃亜が小さな笑みを浮かべていた。


「それがずっと続くことを祈ってるよぉ〜。いつかの未来で相手の嫌なところが見えても、互いに不満を伝え合って許し合えるようになれるのって意外と難しいんだよ〜?」

「そう? 結構簡単じゃない?」

「そう言えるあたり、君もまだまだだねぇ〜」


 どこか大人びた表情を乃亜が見せる。


 まるで恋愛経験が豊富と思える態度に、咲茉は湧き上がる疑問を口にした。


「乃亜ちゃんって彼氏いたっけ?」

「ふふっ、私に彼氏? そんなのいるわけないでしょ〜? 私の恋愛観は長年培ってきたギャルゲーで構成されてるのさぁ〜」

「……全然豊富じゃなかった」


 それで経験値が詰めるなら苦労しない。


 誇らしそうに語る乃亜に、咲茉が呆れて肩を落としてしまう。


「乃亜ちゃんってギャルゲーやるんだ?」

「やるよぉ〜、女の子落とす快感は堪らないのさぁ〜。乙女ゲーだって嗜みだよ〜」

「あ、知ってる。ちょっとやってみたいと思ってた」

「おっ? なら何度一緒にやる? 今ならなんと私のネタバレしない丁寧な解説付きだよ〜?」

「ちょっと面白そうかも」


 また今後の楽しみが増えたと、咲茉が微笑む。


 そんな他愛のない話をしながら、彼女がのんびりと周りを眺めていると――


「あれ?」


 ふと、視線の先にある光景に咲茉が眉を寄せていた。


「ん? どったの?」

「なんかお母さん達が……知らない人と話してる」


 咲茉の返事に、なにげなく乃亜が視線を向けると、


「あらら、ちょっと戻った方が良さそうかも」


 その視線の先には、荷物番をしている咲茉の母親達が知らない男達に声を掛けられている姿があった。

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