第24話 撮っちゃおっかなぁ?
咲茉と乃亜が繰り広げる口論の決着は、どうやら乃亜が勝ったらしい。
不満そうに頬を膨らませる咲茉を見れば、彼女が言い負かされてしまったのも一目瞭然だった。
「……乃亜ちゃんの分からず屋」
「ふっふ〜! たとえ咲茉っちのメンタルが歳上でも私に口で勝とうなんて百年早いよ〜」
一体どんな口論があったのかは不明だが、あの頑固な咲茉を無理矢理にでも納得させた乃亜には悠也も関心するばかりだった。
その秘訣を、近々習っても良いかもしれない。
そんなことを悠也が密かに考えていると、いつの間にか咲茉達が買い込んであった花火の入っているビニール袋を楽しそうに覗き込んでいた。
「あっ、これパラシュート出るやつだ」
「それなっつ! 子供の頃よく追い掛けて遊んでたわ!」
なにげなく手に取った花火に、咲茉と凛子が揃って目を大きくする。
「これは……なんですか?」
「それはネズミ花火だよ、雪菜っち」
「……ネズミ、ですか?」
「地面をめっちゃ回るやつ〜。後で遊んでみれば分かるよ〜」
「……なるほど?」
興味津々とネズミ花火を見つめる雪菜に、微笑む乃亜が答える。
そんな話を彼女達が楽しげにしていると、ビニール袋の中身を眺めていた凛子が苦笑混じりの声をポツリと漏らした。
「それにしても……よくもまぁ乃亜もここまで買い込んだなぁ。奢りだから文句もないけど」
「むふふー! 遊ぶ時は全力が私のモットーなのだよ!」
「前にも別のモットー言ってなかったか? なんかあるんだよ、お前のモットーって」
「甘いよ、凛子っち。この私の中には無限の座右の銘があるんだから」
「お前って頭良いのに、たまに馬鹿みたいなこと言うよな」
「体は座右の銘で出来ている〜!」
「……なに言ってんだ?」
乃亜の言葉がよく分からないと凛子が眉を顰める。
その反応に乃亜が楽しげに笑うと、おもむろにビニール袋に入っている花火を手に取っていた。
「ここにあるのは無限の花火! さぁ凛子っちよ、花火の貯蔵は十分かぁ!」
「ここにあるの、全部に火点けたら一瞬で消えるぞ?」
「もう! 凛子っちノリ悪い!」
「意味分かんねぇよ、馬鹿」
頬を膨らませる乃亜に、呆れた凛子が舌打ちを鳴らす。
そんな2人の会話に、隣にいる咲茉がクスクスと笑っていた。
「これも懐かしいなぁ。これ、ぶわぁーって噴射する花火だ」
「それ持って魔法使いごっこするの楽しいんだよね〜」
咲茉が手に取った花火に、乃亜が良からぬ遊びを口走る。
「乃亜ちゃん、危ない遊び方したらダメだよ」
「流石に人に向けて使わないよ〜。呪文唱えながら花火噴射させるの、楽しくない?」
「……ちょっと分かるかも」
その光景を想像したのか、満更でもないと咲茉が笑みを見せる。
「おっ? 咲茉っちもそのロマンが分かるようになったの?」
「結構アニメ見てそういうの好きになったから、真似して遊びたい気持ち分かるかも」
「なら一緒にやろうぜぃ〜」
「……やる!」
少し躊躇っていた咲茉だったが、乃亜の言葉にやる気に満ち溢れた表情を浮かべる。
「そう言えば咲茉ってそんなこと言ってたな……私も、咲茉が好きなアニメ見るか」
「凛子ちゃんは本当に咲茉ちゃんの影響受けますね……私も、あまり人のこと言えませんが」
「なら今度私の家で鑑賞会しよーよ! シアタールームあるし!」
咲茉のアニメ好きから始まって、乃亜の家で鑑賞会の予定が決まる。
折角なら夏休みにしようと予定を決めながら花火を彼女達が物色していると、雪菜が目に付いた花火をビニール袋から取り出していた。
「線香花火……これ好きでした」
「それは最後にやるつもりで買っておいたよ〜」
「……2袋も要ります?」
「線香花火を眺めながらお喋りするのが楽しいの。あるだけ火付けるから、割とすぐ無くなるよ」
「あの……線香花火でどれだけ遊ぶつもりですか?」
「うーんと……30分くらい?」
「お前、馬鹿だろ?」
乃亜の返事に、思わず凛子が呆れる。
しかし乃亜の表情は、決して冗談ではないと言いたげだった。
「これだけあっても遊んだら思っていた以上に早く無くなるの! 最後に飽きるくらい線香花火で風情を楽しべきでしょ〜?」
「量が多過ぎて風情もねぇよ」
誇らしげに胸を張る乃亜に、凛子が頭を抱える。
雪菜も困った笑みを浮かべていたが、意外にも咲茉は目を輝かせていた。
「私ね! 線香花火でみんなと勝負したい! どっちが消えるかって!」
「……咲茉?」
予想以上に乗り気な咲茉に、凛子が反応に困る。
しかし困惑する彼女を他所に、咲茉は目を輝かせながら線香花火を見つめていた。
「これだけあったら何回できるかな? みんなに一回くらいは勝てると良いけど」
「咲茉は3本持って勝負しても良いぞ。私達は1本で勝負するから」
「イカサマ過ぎて草」
凛子が明らかな不正を言い出して、反射的に乃亜が吹き出す。
「凛子ちゃん! ズルはダメっ! ちゃんと1本で勝負しないと!」
「えぇ……ちぇ、咲茉がそう言うなら」
咲茉に注意されてしまえば、凛子も渋々と頷くしかなかった。
しかし何か察したのか、ふと乃亜が失笑混じりに口を開いた。
「凛子っち? 先に言っておくけど息吹きかけるのも禁止だからね?」
「……するわけねぇだろ」
「こういう時に限って凛子っちも悪知恵が働くんだから」
明らかに視線を逸らす凛子に、乃亜が呆れてしまう。
「ふふっ、凛子ちゃんったらズルはダメだよ」
2人の会話を聞いて、咲茉が面白いと笑う。
口を隠しながら楽しそうに分かっている彼女に、乃亜達も釣られて笑ってしまう。
そして4人が笑い合っていると、近くの水道からバケツに水を汲んできた悠也が彼女達の元に歩み寄っていた。
「ほら、水汲んできたぞ」
咲茉達の傍に、悠也がバケツを置く。
そして彼が花火の入ったビニール袋を覗き込むと、おもむろに乃亜に声を掛けていた。
「乃亜、ライターは?」
「ん? これ?」
「ちょっと貸してくれ」
乃亜がポケットから出したライターを、悠也が手招きして受け取る。
それが問題なく火が出るか確認すると、
「火は俺が付けるからな」
絶対に火は使わせないと、咲茉達に言い放っていた。
「ちょっと悠也っち、私達も子供じゃないんだから火くらい自分でできるって」
「女の子に火使わせられるかよ。間違って火傷でもして跡残ったら困るだろ」
気をつけても、花火で火傷することもある。
花火に火が点かないとライターを使っているうちに、指が火傷することもある。
特に花火に火を点ける時、噴射した花火で火傷してしまうこともあるくらいだ。
それを考えれば、悠也が彼女達に火を使わせられるはずがなかった。
「こういうのは男の仕事だから俺に任せとけ。この分、お前達は思う存分花火を楽しめ」
「え……悠也、やらないの?」
まるで自分は遊ばないと言っている悠也の口ぶりに、咲茉がキョトンと呆ける。
そして悠也が一緒に花火をしないと思った途端、俯いた咲茉が表情を暗くしてしまう。
そんな彼女に、悠也は慌てて声を掛けていた。
「大丈夫だって、俺もやるから安心しろ」
「なら……私と一緒に魔法使いごっこしてくれる?」
「え、俺もやるの?」
乃亜と一緒にすると思っていた魔法使いごっこを自分もするとは、悠也も思っていなかった。
それが楽しいと思えた年頃は、とうの昔に過ぎている。精神年齢が25歳の悠也が、それを楽しめる自信がない。
「……一緒にしてくれないの?」
しかし咲茉の悲しそうな顔を見てしまえば、そんなことを思っている場合ではなかった。
「やるに決まってるだろ。咲茉が見惚れるくらい本気の魔法使いになってやるからな」
「ほんと⁉︎ じゃあ私、ゆーやのカッコイイところ動画撮る!」
「え……?」
咲茉の顔を見れば、本気で言っていると分かった。
その動画が時間が経つにつれて、どれほど恥ずかしい物になるか。想像するだけで頬が引き攣ってしまう。
「なら私も悠也っちのカッコイイところ撮っちゃおっかなぁ?」
「折角なら私も撮ってやるよ」
「では私も、記念に」
揃ってスマホを手に取る3人に、悠也は頭を抱えるしかなかった。
「……勘弁してくれ」
「ちょっとみんな! ゆーやのカッコイイ動画は私だけが撮るの!」
慌てる咲茉を見るなり、乃亜達が声を揃えて笑い出す。
「ダメだからね! ゆーやは私のなんだから!」
そんな彼女達に、決して悠也は撮らせないと咲茉が頬を膨らませていた。
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