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第8話 少しだけ勇気出しちゃった


 一風変わった、と言ってもキュロットという名称があるということは、デザインとして確立された服なのだろう。


 一見してスカートにしか見えないズボンがあるとは、悠也も知らなかった。


「へぇ……こんな服があるのか」


 咲茉が裾を掴んで広げているキュロットを眺めながら、しみじみと悠也が呟く。


「私が私服でスカート履きたくないって言ったらね、乃亜ちゃんが教えてくれたの。これなら捲れる心配もないし、私も安心して着れるんじゃないかって」


 そう言って咲茉が掴んでいた裾から手を離すと、半ズボンに見えていたキュロットが一瞬にしてスカートへと姿を変えた。


 折り目が付いたプリーツタイプのおかげで、着ているだけでふわりと広がる自然な立体感がキュロットをスカートのように見せている。


 確かに、これなら極力スカートを履こうとしない咲茉でも着ることができるだろう。


 咲茉がスカートを履きたがらないことは、当然だが悠也も以前から知っていた。


 スカートを履けば、捲れる心配がある。下着が見える可能性もそうだが、加えて彼女の場合、素足が出ることを極端に嫌がる。


 学校で着る制服のスカートも、膝上の肌を一切見せない為に限界の膝下まで下げているくらいだ。それも彼女の持つ人一倍強い貞操観念を考えれば、当然だろう。


 彼女が見せられる限界は、頑張っても膝までだと悠也も本人から聞いたことがある。


 そんな彼女にとって、このキュロットは間違いなく理想的だった。


「こんな服……よく乃亜が知ってたな」


 これを思いついた乃亜のファッションに関する知識の高さに、思わず悠也が感心してしまう。


 タイムリープする前の記憶を思い返しても、この時代の乃亜がファッションに詳しかった覚えはなかった。


 しかし、それも乃亜とファッションに関する話をする機会がなかったと思えば、自然と悠也も納得してしまった。


 当時の自分はファッションに興味もなかった。大学生にもなれば知る機会もあったが、それまで知ろうともしなかった。


 そんな自分が乃亜とファッションの話などするはずもない。それを考えれば、この時代の悠也が知らなかったというのも不思議ではなかった。


「おしゃれする女の子なら常識らしいよ。きっと昔の私なら知ってたと思うけど、ずっと引き籠ってた所為で色々と忘れちゃったからもう覚えてないけど」


 更に咲茉からそう言われてしまえば、悠也が疑問に思うこともなかった。


 まだタイムリープする前の、長年の引き篭もり生活の所為で色々と忘れてしまった咲茉のことはさておいて。それが女の子の常識と言うのなら、そういうものなのだろうと。


「私も見せられた時はビックリしたよ。スカート履けないって言ってたのに、一緒に行った服屋さんで乃亜ちゃんが普通にスカート持ってきたって思ったから」

「そりゃそうなるわ」


 簡単に想像できた光景に、つい悠也が苦笑してしまう。


 そんな悠也に、咲茉も苦笑いを見せていた。


「でも着たらビックリ、スカートじゃなくてズボンだったーって感じで、これなら私も大丈夫だなって思ったから乃亜ちゃん達に言われるままに買っちゃいました」

「買って良かったと思うぞ。その服着てる咲茉、何回見ても滅茶苦茶可愛い」


 咲茉からキュロットを購入した経緯を聞かされた悠也が、正直な感想を告げる。


「……可愛い?」

「うん。ずっと見てられるくらい可愛い。いつでも咲茉は可愛いけど」

「もぉー、ゆーやったら」


 可愛いと言われて、嬉しさと気恥ずかしさのあまり、堪らず咲茉がはにかむ。


 湧き上がる嬉しさで、また咲茉がその場でゆっくりと一回転してキュロットをひらめかせる。

 

「あとね、この赤い服も乃亜ちゃんと凛子ちゃんが選んでくれたの」


 そして今度はと言いたげに、咲茉が自身の着ている赤いオフショルダーの服に両手を添えていた。


「このオフショルダーって服もね、私が薄着したくないって言ったら2人が選んでくれたの。これなら肩しか出なくて胸元も出ないし、そこまで線も見えなくて可愛いからって」


 そう咲茉が言う通り、彼女の着ているオフショルダーの服は大事な部分を隠していた。


 肩周りは露出しているが、胸元は綺麗に隠れている。


 そして肩下から布地が二重に重なっていることで二の腕も隠れ、胸の線も全体的に出ないようになっていた。


 これも身体の線を見せたがらない咲茉にとって、理想的な服だろう。


 一際育った胸を持つ彼女は、服の上から出る胸の線が出ない服選びをしていることは悠也も知っている。普段から大きいサイズの服を着ているのが、その証拠だ。


 この服なら、咲茉の見せたくない部分を上手く隠せている。流石に腰回りを隠すことは難しなかったのか、彼女の細い腰のラインが綺麗に出ているが、こればかりは許容範囲ということだろう。


 これも悠也から見れば、一見して肩と肘先を出した変わった服だが――非常に可愛いデザインだと思えた。


「やっぱり乃亜ちゃん達っておしゃれさんだね、こんな服知ってるんだもん」


 着ているオフショルダーを撫でながら、咲茉がしみじみと呟く。


「……そうだな」


 本当に感心していると小さく頷いている彼女だったが……密かに、悠也は眉間に皺を寄せていた。


 なぜ乃亜と凛子がオフショルダーを選んだのか。それを悠也が知っているからこその反応だった。


 こと女の子のファッションに関しては知識が明るくない悠也だったが、実のところオフショルダーについては彼も耳にした覚えがあった。


 これはタイムリープする前の悠也が大学生だった頃に聞いた話なのだが、このオフショルダーという服は――特に胸の大きい女性が着ていることが多いらしい。


 あえて肩周りと胸元を露出させるセクシーなデザインもあれば、逆に巨乳が故に嫌でも凸凹になるボディラインを隠す為に咲茉が着ているデザインもある。


 つまり……そのどちらにしても、オフショルダーを着ている女性は胸が大きい可能性が高い。


 オフショルの女は、エロい身体をしていると。


 そんな馬鹿話を飲み会で聞いていた悠也からすれば、なんとも言えない気持ちになった。


 確かに今の咲茉は、とてつもなく可愛い。


 ボディラインを隠しつつ、映える赤で白く綺麗な肌がより一層に綺麗に見える。更に服のデザインとキュロットの組み合わせが相まって、セクシーではなく可愛さを全面に出したコーデだと思える。


 それは間違いないのだが……オフショルダーを着ている彼女を見られて、自分以外の男に彼女がどう見られるのかを考えると、正直に言うと考えものだった。


 たとえどんな服を着ても咲茉がスタイルが良いとバレる以上、文句の言いようもないのだが、折角ボディラインを隠しているのに彼女のスタイルの良さがバレるのは、なにとも言えない気持ちになった。


 この服を選んだ乃亜と凛子のセンスには心底感心している。スタイルが特に良い咲茉にピッタリな服を的確に選んだのだから。


 だが身体の線を隠しても、男にバレる。それを分かってしまうと、彼女の心情を察している悠也からすれば、なんとも言い難い気持ちが強くなった。


「こんなに可愛い服が着れる日が来るなんて思わなかったよ。悠也に可愛いって言ってもらえて、今日はすっごく嬉しい!」


 しかし、目の前で満面の笑みを浮かべる咲茉を見れば、悠也も考えを変えるしかなかった。


 こんなにも可愛い笑顔を見せる彼女に、無粋なことを言えるわけがない。


 どの道、彼女がどんな服を着てもスタイルの良さがバレるのなら、隠しているだけ良い。


 そう悠也は自身に言い聞かせて、納得させた。


「髪も雪菜ちゃんに綺麗に結ってもらって、強引だったけどお母さんから少し化粧されちゃったの。だから多分ね、今日の私……今までで一番のおしゃれな女の子になってるかな?」

「……なってるよ。本当に可愛くて、綺麗で、こんな素敵な子が俺の彼女だって思うと、なんか泣きたくなってくる」

「えへへ……もぉ、ゆーや褒め過ぎだよ〜」


 満更でもないとほんのりと頬を赤くする咲茉が駆け寄ると、悠也の腕に抱きついた。


 腕に感じる柔らかい感触に悠也の身体が強張るが、それでも気を強くもって、気にする素振りを見せないように悠也は笑って見せた。


「手を繋ぐだけじゃないのか?」

「お母さんと乃亜ちゃん達に言われたの、今日はゆーやにたっくさん甘えて来いって。だからね、少しだけ勇気出しちゃった……だめだった?」

「そんなわけないだろ。こんな俺に甘えてくれるなら、いくらでも甘えて欲しいくらいだ」

「……ほんと?」


 腕に抱きつく咲茉が、コトッと首を傾ける。


 そんな可愛い仕草を見せられてしまえば、悠也が答えることなど決まっていた。


「うん。いつも以上に甘えてくれ」

「わぁ……!」


 目を輝かせた咲茉が嬉しくて、抱きつく悠也の腕にギュッと力を込める。


 腕に感じる刺激物が、悠也の脳神経を激しく殴る。


「ねぇ、ゆーや? 今日はどこ行くの?」

「……そうだな。一応決めてるから、歩きながら話すよ。今日はのんびりと遊ぶつもりだ」

「えへへ、なら楽しみにしますっ!」

「彼氏らしく、エスコートするけど期待し過ぎないでくれ」

「やだっ!」


 今日一日、理性が持つだろうか?


 抱きつく咲茉を促すように歩き始めながら、悠也は引き攣った笑みを浮かべていた。


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