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第105話 本人の意思すら関係なく

戦闘描写が難し過ぎて、泣きたいです


 迫る拓真の拳を逸らし、振り抜かれる足を躱し、胸倉を掴もうと伸ばす手を弾く。


 その合間を狙って悠也も幾度となく反撃を行うが、その反撃が当たることは一度もなかった。


 肝臓、喉、鳩尾、顎など様々な急所を狙っても、全て拓真に対応されてしまう。


 悠也に反撃できない体勢でも強引に肩をぶつけて突き飛ばすこともあれば、不意打ちに近い反撃を拓真も半ば強引に行なっていた。


 頭突き、膝蹴り、タックルによる組み伏せなど、あの手この手で悠也を捕まえようとしている。


 驚くことに悠也の撃ち出した拳を掴もうとしているくらいだ。


 しかし拳や腕を掴まれても、悠也も振り解くだけだった。たとえ握力で力任せに掴まれても、雪菜に叩き込まれた合気道の技術があれば、それも容易だった。


「さっきから鬱陶しいなぁッ‼︎」

「こっちの台詞だッ!」


 続けて組み伏せようと突進する拓真から悠也が距離を取れば、また振り出しに戻ってしまう。


 絶え間なく二人が同じ攻防を何度も繰り返して、すでに3分近くも経過している。


「このッ――‼︎」


 その短い時間で、悠也は自身の実力不足を嘆きたくなった。


 本来ならもう勝負が決まっているはずなのに、その決定的な一撃が決まらない。


 たった一度のカウンターが決まれば、それだけで勝てるはずなのに――


「おせぇんだよッ! 雑魚がッ‼︎」

「うるせぇッ‼︎」


 叫ぶ拓真の攻撃を凌ぎながら、悠也の表情が歪む。


 悠也の反撃が当たらない原因は、すでに彼自身も察していた。


 明らかに攻撃する速度が遅過ぎた。雪菜と違い、培ってきた経験の浅い悠也の攻撃速度は、まだ一般人程度しかない。


 その所為で撃ち出す拳も、振り抜く足も、全ての攻撃が拓真に見切られてしまっている。


 反撃に特化した合気道で戦う悠也の攻撃は、普通なら当たるはずだった。


 体勢を崩した状態、または相手の攻撃直後の無防備な隙を狙った反撃は、本来当たらなければならない。


 それを防がれている時点で、考えられることは限られた。


 まず拓真に、悠也が武術を学んでいることがバレている所為だろう。


 それも攻撃する手段の多い空手や柔道などではなく、反撃に特化した武術であることもバレている。全く攻めることをせず、反撃だけ行っていれば当たり前に警戒される。


 悠也の戦う手段が分かれば、それをさせない方法で拓真が戦うのは当然だった。


 更に悠也の攻撃が遅ければ、その対応も簡単になる。


 だが、実際にそれを可能としている拓真の実力の高さに、無意識に悠也は舌打ちを鳴らしたくなった。


 この拓真は、あの大人数の少年達を従えてきた不良だ。それもおそらくは彼の喧嘩の強さが桁違いに優れていたから、彼等は従っていたのだろう。


 彼が喧嘩慣れしていることは、以前の一件で悠也も理解している。それを踏まえれば、ここまでの殴り合いが成立している時点で、彼の実力を認めるしかない。


「あぁぁっ! ウゼェなぁぁぁっ‼︎」


 噴き上がる怒りが収まらないと言いたげに、叫ぶ拓真の手数が多くなる。


「ッ――⁉︎」


 その繰り出させる怒涛の攻めに対応しながら、悠也は苦悶していた。


 ここで更なる問題が、悠也を襲っていた。


 気づけば、いつの間にか悠也の呼吸が少しだけ荒くなっていた。心なしか動かす身体も重くなった気がする。


 激しい運動を続ければ、体力が減る。特に喧嘩ともなれば、その消費も激しくなる。


 武術の試合でも1ラウンドが2〜3分と決められている。悠也も雪菜と組み手をした時も、たったの数分で汗だくになってしまうほどだ。


 激しい運動と、一度でも拳を喰らえば負けるという緊張が、恐ろしい速度で悠也の体力を削っていた。


 おそらく体力面でも、悠也よりも拓真の方が優れている。2ヶ月程度の筋トレだけでは、悠也の持つ体力にも限界がある。


 この喧嘩が長引けば、その分だけ不利になる。よって悠也も早々に勝負を決めたいのだが――


「殴りてぇ場所が見え見えなんだよッ!」


 やはり拓真に見切られてしまう。


「クソッ‼︎」


 一向に当たらない攻撃に、悠也の中で焦りが生まれる。


 早くしなければ、この男に負ける。負けてしまえば、咲茉が犯される。それだけは絶対に許してはいけない。


 その焦りが、無意識のうちに悠也の動きを単調にしていた。


 結果を急ぐと、その分だけ動きに歪みが生まれる。


 こと戦いにおいて、たとえ喧嘩であっても、それは例外ではなかった。


 だからこそ急かすことなく、相手の動きを把握して利用し、決定的な隙を生み出すことが合気道の戦い方だというのに――


 雪菜から叩き込まれた大切な言葉が、焦る悠也の頭から抜け落ちていた。


「オラァッ‼︎」


 その結果、強引に反撃した悠也の頬を拓真の拳が掠めた。


 あと1cmでもズレていれば、今の拳が顔面を抉っていた。


「あぶっ――!」


 まるで冷水を浴びたような悪寒が、咄嗟に悠也の身体を動かした。


 反射的に、悠也が後方に大きく跳び引く。


 その隙だらけの動きを、拓真は見逃さなかった。


「そのお遊び武術も限界かぁ? 無駄な努力だったなぁ‼︎」


 素早く悠也に迫った拓真が渾身の力で右拳を振り抜いた。


 まだ悠也の身体は、宙に浮いていた。


 足を軸に身体を動かす半身も使えない。


「まずッ――!」


 このままでは喰らうと、悠也が身構えた時だった。



『悠也さん、日々の鍛錬は決して裏切りません。咲茉ちゃんの為に、あなたが何度も、何百回もその身体に積み重ねた経験は……いずれ本人の意思すら関係なく身体を勝手に動かします』



 突然、彼の脳内に雪菜の教えが響いた。


 いつかの日に告げられた雪菜の言葉が、どうして今思い出したのか?


 そんな疑問が悠也の脳裏を駆け抜けた瞬間、勝手に彼の身体が動いた。


 宙に浮く身体を軽く捻り、右腕を左側に引き寄せる。


 そして迫る拓真の右拳を左手で弾くと同時に、悠也の身体が右腕を薙ぎ払った。


 攻撃を弾き、反撃に移るのではなく。その2つを同時に行う。


 裏拳の要領で放たれた悠也の右拳は、本人が驚くほど簡単に拓真の左頬を撃ち抜いた。


「ぐほっ――!」


 意表を突いたカウンターを喰らい、拓真の身体が数歩後退する。


 その隙に、本来なら悠也も追撃するはずだったのだが――


「……」


 たった今起きた出来事に、なぜか悠也も呆然としてしていた。


 一体、自分がなにをしたか分からない。


 その疑問が悠也を困惑させていると、


「軽い攻撃なんかしても無駄なんだよッ!」


 いつの間にか体勢を立て直した拓真が動き出していた。


 また拓真から拳が振り抜かれる。


 その拳を悠也が無意識に弾くと、すかさず放たれた彼の裏拳が拓真の顔面を捉えた。


「がっ――‼︎」


 しかし速度を最優先した悠也の裏拳は、一瞬だけ拓真の動きを止めるだけしかできなかった。


「クソガキがぁぁ‼︎」


 まるで効いてないと言いたげに叫びながら、拓真が攻める。


 しかしその拳を全て凌ぎながら、黙々と悠也は素早い反撃を繰り返していた。


 拳ではなく、ビンタや裏拳だけを使って、何度も悠也の手が拓真の顔面を叩く。


 力も込めていない、軽々とした攻撃。


 そのはずなのに、少しずつ拓真の傷が増えてきているのは何故だろうか?


「あ……」


 繰り返される反撃を続けながら、ふと悠也の口から声が漏れた。


 どうして忘れていたのだろうか。


 今まで自分が雪菜から学んできたことは、反撃に特化した武術だけだ。


 隙を作り、相手の力を利用して、素早く反撃する。


 そのはずなのに、どうして今までずっと力任せな反撃を繰り返してしまったのか?


 こんな簡単なことを、どうして忘れてしまったのか?


「ぐほっ――!」


 そんな疑問を抱きながらも、絶えず悠也の手が拓真の顔面の他にも腕や肩などを叩く。


 どこでも良いから、殴る。急所を狙うのは、今ではない。


 急所だけを狙うから、自分の動きが読まれてしまう。


 まだ力を込めたくても良い。自然体で、緊張する必要もなく、淡々と殴り続ける。


「あがっ――!」


 急所だけを狙っても意味がない。相手に少しでもダメージを与えられることに意味がある。


 それを積み重ねていけば、勝手に大きな隙が生まれるのだから。


「あぁぁぁ! クソがぁぁッ! ちまちまウゼェェェんだよッ‼︎」


 何度も顔を殴られ続けて、頭に血が昇った拓真が怒りのままに突進してくる。


 そして今までとは違う。大振りの拳を、拓真は振りかぶっていた。


「死ねやゴラァァァァァッ‼︎」


 思いのままに、拓真の拳が振り抜かれる。


 そんな大振りの攻撃を、悠也が見逃さなかった。


「こんのッ――!」


 力任せに迫る拓真の拳を受け流して、その腕を悠也が掴む。


 そして悠也が拓真の懐に入り込むと、殴り掛かってきた勢いを利用して、その身体を地面に叩きつけた。


「がはっ――!」

「これでッ!」


 呻く拓真の腕を掴んだまま、悠也の膝が掴んでいた彼の腕――関節部を撃ち抜くと、ガゴッと鈍い音が響いた。



「あぁぁぁぁぁぁッ‼︎」



 その音は、紛れもなく拓真の腕が折れる音だった。


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