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第102話 頭のネジが外れている


 たとえ恐怖や不安が消え去ったとしても、それは決して克服したわけではなかった。


 その時が訪れてしまえば――否応なく蘇って来る。


 抵抗することもできず、女の身体を欲望のままに貪る裸の男達。


 身体に落ちてくる彼等の汗が、堪らなく気持ち悪くて。


 顔を何度も殴られて、タバコで肌を焼いて、刃物で切りつけて。


 痛がれば痛がるほど、恍惚に歪む彼等の表情が今も脳裏に焼き付いている。


 そして思う存分満足すれば、まるで使い捨てのおもちゃのようにゴミ箱に捨てるだけ。


 忘れたくても忘れられないあの日の記憶が、一瞬で咲茉の脳裏を駆け巡った。


 その全ての原因が――今まさに小汚いベッドに飛び込んできたのだから。



「いやぁぁぁぁぁぁぁッ⁉︎」



 その絶叫は、咲茉の脊髄反射だった。


 涎を垂らしながら恍惚の笑みを浮かべる拓真の表情が、問答無用にあの日の記憶と重なる。


 これから起こる出来事を想像した途端、咲茉の両足が暴れ回る。


 迫る拓真を拒絶するために、彼の身体目掛けて何度も足を振り回す。


 しかし彼女の筋力では、その抵抗も無駄だった。



「ふひっ……テメェが暴れても無駄なんだよっ!」



 汚い失笑を漏らした拓真が、暴れる咲茉の両足を掴む。


 一度掴まれてしまえば、もう咲茉の力では振り払えなかった。


「いやぁぁぁッ‼︎」


 そう叫んだ咲茉が暴れようとしても、拓真の手を振り払えず、その表情が恐怖に歪む。


「ずっと楽しみにしてたんだ。暴れんなよぉ」


 そして掴んだ咲茉の両足を拓真が膝で抑え込むと、空いた彼の両手が一直線に“ある部分”へと伸びた。


 そこは、咲茉のスカートだった。


「私に触らないでぇぇぇぇッ!」


 彼の手がスカートの中に潜り込んだ瞬間、絶叫した咲茉が暴れ出す。


 だが両手を縛られて、両足すらも開かれたまま押さえつけられてしまえば、その抵抗も胴体が跳ねるだけだった。


「あぁぁ……それだよ! マジでゾクゾクする!」


 その拒絶が、拓真の表情を更なる恍惚に歪めた。


「その顔がずっと見たかったんだからなぁ!」


 ずっと、この顔が見たかった。


 今から女の尊厳が踏み躙られる。その恐怖に怯える彼女の表情が、彼の心を昂らせる。


 この瞬間が、拓真は堪らなく大好きだった。


 どんな女も、男には勝てない。


 強気な女も、生意気な女も、どんな女だろうと最後は男の力に屈服してしまう生き物だ。


 恐怖に怯えるだけの女で遊ぶのは、すぐにつまらなくなる。


 やはり屈服させるのは、気丈な女に限る。


 絶対に言うことを聞かないと抵抗する女を無理矢理従わせる時の快感は、男じゃないと味わえない。


 男には勝てないと知らしめ、そして女を従順に従わせられた瞬間――普通の生活では到底味わえない快感が、この脳を痺れされる。


「お前みたいに最後の最後まで抵抗してきた女は居なかったからなぁ! どんだけ殴っても言うことも聞かなくてよぉ! 前みたいに! 犯し尽くした最後に心が折れるお前を見れるのが楽しみで楽しみでたまんねぇよぉ!」


 今まで遊んできた女の中でも、拓真にとって咲茉は貴重な女だった。


 特に育ちの良い身体も、男の欲望を唆るために生まれた女としか思えない。


 顔は別格に可愛く、胸も大きく、腰回りが細いのに肉付きが良い。


 その喉から出てくる心地良い声も、どんなに変わろうとも興奮できた。悲鳴も絶叫も、嬌声も、何もかもが響く耳に心地良さを生む。


 そして最後は、その見た目と正反対の強かった心が堪らなく愛おしかった。


 最後の最後まで折れずに抗おうとしていた彼女の心が折れた瞬間の表情は、今でも拓真の脳裏に焼き付いている。


 その顔をこれから何度も見られると思うと、彼の興奮が収まるわけがなかった。


「スパッツなんて履いて健気だなぁ……」


 その興奮のままに拓真が咲茉のスカートを捲り上げると、見えたのは下着ではなくスパッツだった。


 更なる興奮に誘う下着を見れなかったことに、一瞬だけ眉を寄せる拓真だったが……考え方を変えれば、むしろより一層の興奮が彼の脳を痺れさせた。


「俺以外の男に見られたくなかったなんて嬉しくてたまんねぇよ」

「アンタじゃないッ! 悠也以外の男に見せるわけないでしょ!」

「そう言ってるのも今のうちなんだよなぁ? ほら、今から最高の時間が始まるんだからなぁ!」


 必死に抵抗する咲茉を無視して、拓真が彼女のスパッツを掴む。


 こんな布一枚など、拓真にとって邪魔でしかない。


 早く、その先に隠れている宝物を見せてくれ。


 そう思った拓真が勢い良くスパッツを破こうとした時だった。



「…………はぁ?」



 なぜか渾身の力で破こうとしたスパッツが――破けなかった。


「なんだ? これ?」


 不可解だと表情を歪めた拓真が、何度も力を込めて咲茉のスパッツを破こうとする。


 しかし何度試しても、彼の力ではスパッツの布が引き裂けなかった。


 その時、ふと拓真の視線が違和感に気づいた。


「……あ?」


 なにか妙なモノが、咲茉のスパッツに付いていた。


 当たり前に付いている腰回りを合わせる紐が、取り付いている小さな鍵穴付きの器具に固定されている。


「……ッ! 邪魔だなぁッ!」


 その器具を取ろうと拓真が試みるが、やはり全く取れる気配すらなかった。


 不快に表情を歪めた拓真が、再度力を込める。しかしその努力も虚しく、ビクともしない。


 その異様な出来事に拓真が困惑していると、その光景を見つめていた咲茉の表情がゆっくりと変化していた。


 恐怖に怯えているのは変わらないが、それでも僅かな安堵に、彼女の口角が上がった。


「本当に破けないなんて……乃亜ちゃん、ありがとう」

「……あ?」


 唐突に呟かれた咲茉の声に、拓真が困惑する。



 その時だった。




「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎」




 耳を塞ぎたくなるような男の絶叫が、部屋中に響いた。


「うるせぇなぁ! さっさとガキひとりくらい――」


 その声に反射的に拓真が振り返ると、見えた光景に言葉を失っていた。


 仲間の少年のひとりが、その場で右腕を抑えながら暴れていた。


 なぜか彼の右腕の肘から先が、あり得ない方向に曲がって力なく地面に向かって落ちている。


 その少年を、もうひとりの少年が怯えた表情で見つめる。


 そして倒れている少年を、無表情の悠也が見つめていた。


「関節外したくらいで泣いてんじゃねぇよ。お前達のしたことに比べれば痛くもねぇだろ」

「このガキがぁぁぁぁぁぁっ!」


 折れた右腕を庇いながら、少年の左拳が悠也に迫る。


 しかしその拳を悠也が淡々と見つめていると、それは一瞬の出来事だった。


 悠也が振り抜かれた少年の拳を外に払うと、途端に少年の体制(体勢)が崩れる。


 そしてバランスを崩した少年の左膝を、悠也は躊躇うこともなく横から踏みつけた。


 バキッと、聞き心地の悪い音が部屋中に響く。


 そして次の瞬間聞こえたのは、倒れた少年の絶叫だった。


「あぁぁぁぁッ‼︎ 俺の足がぁぁぁぁぁッ⁉︎」

「うるさい、黙ってろ」


 右腕と左足を折られて泣き叫ぶ少年の顔面に、悠也の足が躊躇なく振り下ろされる。


「いでぇぇぇッ!」

「……意外とタフだな」


 顔面を踏まえて絶叫する少年に、悠也がそう呟くと、また彼の顔面を踏みつけていた。


 そうすれば、もう少年から何も聞こえなくなった。


 小さな痙攣を繰り返しながら、倒れる少年は気絶していた。


「……なんだよ、テメェ」


 その光景を見届けていたもうひとりの少年が、震えた声を漏らす。


 しかし悠也は、そんな彼を無視して、その視線を動かしていた。


 その目は、小汚いベッドにいる拓真を見つめていた。


「本当に……乃亜には感謝しないといけないな」

「……あ? テメェ、なに言ってんだ?」


 唐突に呟いた悠也に、拓真が怪訝に訊き返す。


 その問いに、悠也は特に反応することもなく歩き出していた。


 無表情のまま向かってくる悠也に、なぜか拓真の表情が引き攣る。


 そしてそのまま、悠也が拓真のいるベッドに歩きていると――



「無視してんじゃねぇよ! クソガキがぁ‼︎」



 悠也の背後から、もうひとりの少年が殴り掛かっていた。


 背後から迫る少年に、拓真の口角が吊り上がる。


 なにが起きたか分からなかったが、これで悠也も倒せると。


 そう思っていたが、その安心は打ち砕かれた。


「叫びながら殴り掛かるな、馬鹿たれ」


 背後から殴り掛かっていた少年の拳を、悠也が左足を軸に半回転して躱していた。



「……あ?」



 振り抜いた拳が躱されて、少年から呆けた声が漏れる。


 そして無防備な少年の左横には、無表情の悠也が立っていた。


 そこからは、悠也の身体が淡々と動いた。


 まずは少年の左膝を横から踏みつけ、骨を折る。


「ぎゃぁぁぁぁぁッ‼︎」


 そして絶叫する少年の左手首を悠也が掴むと、その肘に向けて堪らなく拳を放つ。


 そうすれば、簡単に少年の左腕は折れていた。


「あぁぁぁぁぁぁぁッ⁉︎」


 また骨が折られて、少年が膝から崩れ落ちる。



「だからうるさい」



 そして最後は少年の顔面に悠也が膝を叩き込むみ、更に顔面に拳を数発叩き込むと、そのまま彼は気絶していた。



 あっという間に、仲間達が倒された。



 その光景に、拓真が絶句していると――ふと悠也と目が合った。


 何も感じていないのか、悠也の無表情の目が見つめてくる。


 その瞳に拓真が目を大きくしていると、ゆっくりと悠也の口が開いた。



「……次はお前だ」



 その冷たい声で、拓真は理解した。


 この男は、間違いなく頭のネジが外れていると。


 地面に倒れる仲間を見つめながら、拓真はそう思うしなかった。

当作品を読んで頂き、ありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[一言] いや、頭のネジが外れてるのはタクマでしょ!自分の異常さに気が付きなよ。まあ、自分が中心だと勘違いしている男には無理か。
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