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第2章(2) アンブレラの見世物小屋


たどり着いたのは大きい白いテントの前。

人盛りが出来ている。

特に並んでいる訳では無さそうだったので、僕はカナデの手を引きながら、前へ前へ進んでいく。

そうすると、気付けばテントの中へと入っていた。

テントの中は、妙に薄暗く、目線の先には舞台が用意されていて、舞台だけが照明の光で異様に明るく照らされていた。

舞台後ろは黒いカーテンで覆われている。

僕達側は観客といったところか。


舞台に注目して見ると、赤色のスポットライトが中央に照らし出された。すると、左側から女性がゆっくりとヒールの足音を立てながら、中央までやってくる。

そして、僕達会場側に身体を向ける。


「皆様、本日はアンブレラの見世物小屋へようこそおいで下さいました。ここでは普段は目にかかれない異形たちの見世物をお楽しみください。」


女性が深々と観客に向かって頭を下げた。

顔を上げた女性の顔が、赤い光で妖艶に照らし出される。

綺麗な青く長い髪が赤い光で紫で、それが更に怪しさを感じさせた。


女性が右側にフェイドアウトしていく。

女性の姿が見えなくなると、次は左右から赤色のライトが照らされた。

次の瞬間、現れた者に僕達は目を疑った。左側から全身に蛇を巻き付けた女性が現れたのだ。

衣服は身につけているのだが、殆どが蛇で覆われてしまっているので、生身のように見えてしまう。


「最初にお見せ致しますのは、"蛇女"でございます。彼女は名前の通り蛇の女。蛇を自分の身体のように操るのです。」

先程の青い髪の女性が、不敵な笑みを浮かべながら、退場して行った右側から黄色いライトに照らされて出てくる。


"蛇女"と言われた女性は、右手にを上げた。右手には蛇が巻きついてそれがクルクルと指先まで上っていく。

もう彼女の指が見えなくなってしまった時、後ろに身体を仰け反らせて、顔を観客側に向ける。


観客たちが息を飲む。

"蛇女"の口が大きく開く。そこへ吸い込まれる様にして指先から蛇が滑り落ちて、口の中へと入っていく。

"蛇女"は嗚咽1つ出さず、どこを見るでもない虚ろな目でただただ蛇を飲み込んでいく。


蛇の尻尾が見えなくなると、"蛇女"が口を閉じる。 一瞬目を閉じると、ごくんと喉を鳴らして、起き上がる。

そして、その場に座ったまま、身体を舞台側に向けると観客達に顔を向けて、口を開いた。

口の中には何もない。それを確認した観客達が歓声を上げる。

すると、また次々に口の中に蛇を入れていく。

そして、下からも………。


僕の隣でカナデが両手で口を覆っていた。

舞台の光のせいでよく見えなかったが、赤面になっている事は分かった。しかし目は"蛇女"に釘付けで、目が離せないようであった。


"蛇女"の身体から蛇が全て、口の中へと飲み込まれると、静かに観客達に向けてお辞儀をして、そのまま、左へとフェイドアウトしていった。

"蛇女"が見えなくなってからも、赤いライトは消えない。

青髪の女性はまだ、右側にいて崩さない笑顔を見せる。


「次にお見せしますは、"炎の女"です。

彼女の炎の演舞をどうぞご覧下さい。」


女性の声と共にまた1人の女性が舞台中央に出てくる。

次は赤髪の女性、炎のように赤い髪を後ろで1つに纏めていた。

"炎の女"と呼ばれた女性の両手には、松明が握られていた。

左右から、黒服を着た人達が3、4人出てくると、彼女は松明をお手玉のようにして、、頭上に上げて、ジャグリングし始める。


すると、次々に黒服を着た人達が追加で松明を空中に投げ入れる。"炎の女"は止まることなく、追加されていく松明を回し続ける。結果的に松明の数は10を超えていただろうか、5分程すると、両手片足を使って、松明を受け止めて、ジャグリングを終えた。またしても、観客の歓声が上がる。


次に黒服達がフラフープを用意して、1人が松明から炎をフラフープに移した。

燃え盛るフラフープの中に、松明を両手、片足に抱えたまま、"炎の女"が飛び込んでいく。観客たちの「おぉっ!」といった驚きの声が上がる。

"炎の女"は松明を落とすことなく、片足だけでフラフープの中を飛び越えている。

次に黒服たちがまた、数人やって来て、炎のフラフープが舞台上に増やされていく。

"炎の女"は物怖じせず、次々にフラフープの中を片足だけで潜り抜けて行く。それはまるで踊りの様であった。


ある程度、飛び終えると、"炎の女"は観客達にお辞儀して黒服達と共に左側へと、フラフープを抜けながらフェイドアウトして行った。


その後も1時間程、舞台は続いた。

舞台に上がる演者は皆、女性で"水女"、" 針女"、"ミイラ女"等の演者が、際どいステージを繰り広げて行った。


そして、そろそろ閉幕が近づいてきたといった時、青髪の女性が自信満々に大トリの紹介をし始めた。

「最後にご覧に入れますのは、大トリ。わたくしアンブレラの奴隷でもある、世にも珍しいアルビノの少女"アル"でございます!」


女性に呼ばれて、左側からゆっくりと少女が舞台中央に向かって、歩いてくるのが見えた。

中央に辿り着くと、ゆっくりと観客達に身体を向ける。

少女の姿を見た観客達が「おぉ…」と感嘆の声を上げた。


真っ白い腰までくる長髪。金色の瞳、白い肌。

端正な顔立ちをしているが、驚くべきはまだ年端もいかぬ子どもであるという事だ。

そして、そんな美しい顔には不釣り合いな、薄汚れたシャツを1枚着ているだけの少女は、今まで出てきた演者達と比べ物にならない程、僕達の目を惹く。


青髪の女性がニタニタ笑いながら、少女の元まで近付いてくる。

少女の後ろに立つと、合図のように少女はその場に四つん這いになり、青髪の女性が右手に鞭を構えてそれを勢いよく、少女の背中に振り落とす…。


「っっっっ…!」

少女の背中に鞭が当たった瞬間、バチンっと鈍い音が会場に響き渡った。少女は声は出さなかったが、苦悶の表情を浮かべている。それから、数10回は少女に対する鞭打ちが続く。

その度に少女の顔が痛みで歪む。

痛々しくて、見ていられない筈なのに少女の表情がとにかく美して、目が離せない。


鞭打ちが終わると、次は黒服達が銀色のワゴンを押してやって来る。

女性と少女がいる横側にワゴンを置くと、そそくさと黒服達は退場する。

ワゴンの上には、大きな皿が乗っていた。その皿の上には溢れる程に生きたミミズが乗せられている。

女性がその皿を持ち上げる。持ち上げただけでもミミズが下に落ちていく。


女性が皿の中身を観客側に見せつけながら、少女の目の前に置いた。少女は皿の中身を確認すると、四つん這いから、地面に座り込む体勢に変えて、一瞬、躊躇ったような表情を見せて、皿を持ち上げ、一気に口の中に中身を放り込んだ。

勢いよくて、ミミズが何匹か地面や少女の足に落ちる。


少女の頬が膨れ上がる。

ミミズが少女の頬の中で暴れているのか、うにょうにょと奇妙に動いていた。

何度か、咀嚼をして、喉を鳴らして飲み込んだ。

飲み込むと、すぐに口の中を開けて、観客達に見せる。

口の中には何も入っていない。少女は本当にミミズを胃袋の中に入れたのだ。


観客達の拍手が巻き起こる。

少女はまだ地面で蠢いているミミズも拾い上げて、次々に口の中に入れては、軽く咀嚼して飲み込んで行った。

鳴り止まない歓声。


少女は少し顔を青くしながらも、薄ら笑顔で観客達に手を振る。

そこへ女性がまた少女に鞭打ちを始める。

ある程度、鞭打ちが終わると、女性が下着を脱ぎ始めた。観客達が「おぉ…」と声を上げる。


女性は薄ピンクの下着を観客達に見せながら、地面に落として、少女の口元に自身の股間を擦り付け、自慰を始めたのだった。


それを見た瞬間、 前世での記憶が思い起こされる。

高校の時、無理やり女教師にレイプされた思い出。

女教師かニタニタしながら、僕の前に立って、スカートを捲って僕の口に自分の股間を押し付ける。

それを見物のように、同級生達が周りを囲んで見ている…。


「ぅぇっ…!」

胃から何かが込み上げてくる。

僕は慌てて、口を掌で抑えて生唾を飲み込んだ。

それでも収まらない。喉までせり上がって来て、僕は急いでカナデの手を引いて、テントの外へ出た。


「うえぇぇぇぇぇっっっ!!!!」

人気が少なくなった所で、僕は盛大に胃の中身を地面にぶちまけた。カナデが心配そうに僕の背中を撫ぜてくれる。

暫く、吐き続けて胃の中身が空っぽになったくらいにようやく、吐き気が収まって僕は深呼吸した。


「大丈夫?アラタ…。」

カナデが僕に聞いてくる。僕は肩で息をしながら頷いた。

まだ日は落ちていなかったが、これ以上動き回る事は出来そうになかったので、早々に宿を探す事になったのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「アンブレラの見世物小屋。異食、性交、拷問、何でもやって見世物にする超過激集団さ。憲兵様達も手を焼いてるみたいだ。」


夜、立ち寄った酒場のマスターに今日見た見世物小屋の話を聞いた。


「色んな所を回って、ショーをしてるみたいでな。憲兵様が動こうとした時にゃ、もうその街に居ないってのがお決まりらしい。余程の事がない限り、憲兵様は自分の街以外の街に対して口出し出来ねぇからな。」。

カウンター席。カナデと僕は隣り合わせで座って、テーブルを隔てて、マスターが酒を作っている。


この世界では、15歳から成人らしく、僕達もアルコール度数3%程度のカクテルを飲んでいた。


「でも余っ程の事じゃないの?超過激集団と言うならさ…。」

頼んでいた商品がテーブルに置かれた。

若鶏のハニーマスタード焼き。

付け合せにマッシュポテトとグリーンピースも添えられていた。

僕は若鶏をナイフとフォークで切り分けて、小皿に乗せてカナデに渡した。


「それが違うんだよ。実際、市民からの目撃情報があるだけで、憲兵様達は実際に見世物小屋の素性を確認出来ていないんだ。何故か、憲兵様達が中へ入ろうとすると、黒服達に追い出されるらしい。私服であってもな。」


[透視]の能力を持っている奴がいるのだろうか。


僕は若鶏を1口口に運んだ。

うん、蜂蜜の甘みとマスタードの酸味が程良くマッチしている。

鶏も皮がパリパリしていて、噛みごたえもある。

隣でカナデも同じ事を思っているようで、笑みを浮かべて、幸せそうに味わっていた。


「素性調査出来ていない以上、憲兵様の立場じゃすぐに見世物小屋に踏み込み調査とは行かないのさ。令状があれば、別だが。令状を申請するにも、上層部に通してからになるからな。通る頃にはもう別の街。そんで別の街でまた新たに令状を申請して、通る頃にはまた別の街へ行って…その繰り返しだ。」


「はぁー…」とマスターは溜息を吐いて、タバコの煙をふかせた。

マスターから話を聞いて分かったのは、あのアンブレラの見世物小屋は法に触れた過激集団だという事だ。

死者こそ見たことないというが、それは街から街へと転々としているから見知った顔が分からないだけであって、もしかすると何処かの街で、小屋の人間が死んでしまって、入れ替えている可能性だって考えられる。


性的な行為だって、拷問だってショーの1つとしてやってのける。

それは全て、小屋の主であるアンブレラの命令ではあるが、一体ショーをする人間達がどのように感じているかは、分からない。

それが仕事だって、割り切ってるのかもしれない。


…でも。

あのアルビノ少女の表情は、苦しそうだった。

僕達は食事を終えると、酒場を後にして、宿に戻る事にした。

夜風が酒で火照った身体を冷ましてくれる。


そして、酒で酔った勢いもあってか、僕は少し大胆な事を思いついたのだった。


「見世物小屋を僕達の手で潰さないか?」

隣で、カナデが驚いたように目を見開いて、僕をじっと見る。

しかし、すぐに口角が上がっていって、

「なにそれ。最高じゃん」

と僕の意見に同意するように頷く。


僕達はそのまま宿とは、逆方向に進路変更し、歩みを進めた。

[収納魔法]から、剣やら銃やら縄やらを取り出す。

僕達はそれを構えながら、

見世物小屋の人間達を救う決意を固めるのだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 続

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