第2章 観光都市アベイル
カナリア村を出発して、早10日は経った。
歩いても歩いても、森、川、畑。
ちらほらと民家はあったが、大体住んでいるのは老人ばかりであった。
とにかく長い。
徒歩以外の移動手段を模索したものの、まずはアベイルまで行かない事には、馬車や荷台は確保出来ないらしい。
カナリア村は自給自足を基本としているので、外部に出る事が殆どないし、家畜に馬はいるが動けても、村内が限界で数百kmも動ける体力は持ち合わせてないらしかった。
つまり田舎村だったという事だ。
"魔王の聖剣"を手に入れたいのだから、最初に[ワープ]させる所はもう少し、交通の便が良い都会に飛ばしてくれたら良かったのに、あの女神…。
10日間も飲まず食わずで歩き続ける事は、[不老不死]であっても、流石に厳しかったし、カナデも居たので適度な休息は取っていた。
食事はその辺の川で釣りをして、採れた魚や山菜等を調理して食べた。寝床に関しては、村長から貰ったテントがあったので、そこに寝袋を敷いて寝た。
ちなみに寝袋は1人分しかなかったので、カナデに寝てもらって、僕は地面で寝るつもりだったのだが、カナデは「それなら一緒に寝ればいい」と言って、1つの寝袋を共有する事になったのだった。
サイズ的に少し大きかったようで、2人寝るには問題なかったが、まず男である僕と、女であるカナデが一緒に寝る事は問題がある。その事を大分カナデには伝えたが、頭に「?」マークが浮いたように全く理解してくれなかった。
多分、カナデは僕の事を男として見ていないのだろう。
川で水浴びする時も、普通に僕の目の前で平然と服を脱ぎ出すし、排泄だって、僕がいてもしようするのでさすがに止めた。
そんなこんなで僕だけが意識してしまっている事が、アホらしくなって、僕もカナデを女として見る事はやめた。
そうすると、10日も一緒に旅をしていれば、結構楽でカナデに対してそこまで気を使わなくなっていた。
気を使わなくなるから、気兼ねなく自傷したら物凄く怒られてしまったが…。
そうして、11日目の朝、ようやく観光都市[アベイル]に到着したのだった。
そこはカナリア村とは規模が違った。見渡す限り、人、人、人。
そして、出店がたくさん並んでいて、馬車や荷台が道を横断している。出店を取り囲むように大きな屋敷がある。
ちらほらと小さな民家もあったが、カナリア村の田舎のような家ではなく、赤いレンガや黄色いレンガ等、色鮮やかな色が印象的な家ばかりであった。
入った途端に分かる。圧倒的都会感。
僕が唖然としていると、隣でカナデが目を輝かせながら、出店の方をじーっと眺めていた。
「すっっっっごーーい!!!!!!」
ようやく発せられた声は、子供のような無邪気な声で、カナデは僕の前に立つと、キョロキョロと目線を泳がせながら、身体を軽く揺すっていた。
「来たことないの?」
僕はカナデに聞いてみるが、カナデは一切僕の方を振り向くことなく、出店を見ながら
「ないよ!初めて来た!都会ってこんな凄いんだね!!」
村長はアベイルに何度か来た事がある様であったが、カナデは1度も来たことがなかったらしかった。
まぁ、カナデはあの村では特別な存在であるし、なかなか村外に行かせる事はしなかったんだろうな…。
…そんなカナデを僕の旅に同伴させた事は驚きなのだが…。
僕がそんな事を考えていると、急にカナデが僕の手を握ってきた。何事かと思い、カナデを見ると、目を輝かせたまま
「いこっ!!」
と僕の手を引いて、走り出す。何が何だか分からず、振り解く事も出来ずに、僕はカナデの後ろをついて走る。
カナデに連れられて入っていったのは、出店街であった。
そこにはテントを張って、アクセサリーや武器、お菓子や野菜等が置かれていて、商売人らしき人達が大きな声を上げながら、目の前を通る人に商品の素晴らしさを熱弁していた。
ぐんぐんと進んでいく。
すれ違う人の多さに僕はただ驚かされ、カナデと同じくキョロキョロと目を泳がせる。
こんな人盛りの場所に来るなんて、初めてではないだろうか。
前世では、人が僕の周りに集まる時は大抵いじめや嫌がらせをする時だけだったので、人盛りの場所は怖くて行けなくて避けてきた。今こうしているだけでも多少怖さはあった。
だが、前世と違うのは僕の手を引いてくれる存在が居る事だ。
カナデが僕の手を引いてくれているので、安心感がある。
カナデが足を止める。
僕も少し遅れて足を止める。カナデは前を指さした。
カナデの指の先には、"カナデ"の花のケーキが販売されている出店があった。
看板には[カナリア村の特産品!甘くて美味しい"カナデ"のケーキ
と書かれていた。
「なんか、こんな大きな街で緊張してたけど、あんな田舎の特産物を売ってくれてるんだって思ったら、ちょっとだけ肩の荷が降りたよ。」
カナデが僕を見ながら、安心したように肩を降ろす。
緊張していたのだろう。表情の強ばりも幾分がマシになった。
カナリア村の料理は大体和食ベースで、"カナデ"の加工品は羊羹
とジュース、それに饅頭等しか僕は見ていなかったので、ケーキは新鮮だ。
出店には列が出来ていたが、そこまでの人ではなかったので、最後尾に並んで、2つケーキを買った。
1つ560ベルド。日本円で560円。
女神から最初に持たされた金銭で事足りた。この世界ではお金の事をベルドと言うらしい。
ベルドと言っても、日本の金銭とそう変わらず、1000ベルド札、5000ベルド札、1万ベルド札、その他ベルド硬貨があった。
お金の価値観に関しては、そこまで覚える必要もないようだ。
渡された紙袋の中を覗く、"カナデ"の花特有のオレンジ色をした、スポンジケーキが三角形にカットされ、上に粉砂糖が振られた質素なケーキが2つ入っていた。
しっかり、紙ナプキンも入っていたので、1つ紙ナプキンで包んで、カナデに手渡す。
「ありがと」カナデはケーキを受け取ると、まじまじとケーキを隅から隅まで見始める。
それを見ながら僕も紙袋から、ケーキを取り出すと、同タイミングで1口食べた。
口に入れた瞬間、"カナデ"の花の香りが鼻に入ってくる。
金柑のような甘酸っぱい味わいが口の中に広がり、噛むと花弁が入っている様で噛みごたえも感じられた。
現地の料理と肩を並べる程、味としては最高の出来であった。
しっかり"カナデ"の花の味や香りを活かしている。
それはカナデも思っていたのか、ケーキをパクパク頬張りながら、「これは…花びら?花びらの食感を活かしてるのね…。砂糖はあんまり入っていないのかな。花の味が濃いわね…」
とブツブツ何か呟いていた。
多分ケーキの材料でも考察しているのだろう。
僕はそんなカナデを尻目に紙袋と紙ナプキンを近くにあった路上設置のゴミ箱に捨てて、歩き始めた。
すると、慌ててカナデが僕の後ろをついて来る。
さっきまではカナデに引っ張られていたのに、次は僕がカナデを引っ張ってるみたいだな。
そう思ったのも束の間、結局はカナデが前に出てきて、僕を引っ張りながら、出店街を練り歩き、「あれはなんだ」「これはなんだ」と、気になるものがあると立ち止まり、見たり、買ったりと振り回されまくった。
悪意なく振り回されるのは初めてだった。
前世で振り回される事なんて、僕の金で遊ぶとかパシリで物を買いに行かされるくらいだったからな。
あちらこちら回り回っていると、気付けば出店がなくなり、路地のような場所にたどり着いてしまった。
屋敷の影で少し暗くて、僕は「引き返そうか」と、カナデに声を掛ける。
しかし、カナデは何か見つけたらしく、「みて、あそこに何かあるよ。」と路地の奥を指刺す。
その場から見てみると、路地を抜けた先は広場のようになっていて大きな白いテントが張られていた。それ以外に何も無い。
そのテントの周りには人が集まっていた。
異様な雰囲気があった。
大きな広場にたった1つの白いテント。
それに集まっている人達は、一般市民の装いでなく、厳つい筋肉質のおじさん達や、露出の多い衣類に身を包んだ女性ばかりであった。
そこは僕達が行ってはいけない場所、直感でそう感じたが、しかし、カナデも僕も見てしまったからには気になってしまうのだ。
カナデと目を合わせる。少しの間を置いて、同時に頷くと手を握って前へと歩を進めて行った。
そして、
ここで僕達はとある少女と出会うのであった…。
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続
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