第1章(4) 仮は返した。
[ワープ]した村の中心部はまさに地獄絵図であった。
辺り一面、血、血、血。 祭での賑やかさは一変し、人々の悲鳴が残響していた。
逃げ惑う人々、追いかけるダークウルフ。
村の人達がある程度ウルフから距離を取れた事を見計らうと、僕はウルフ達の前に立ちはだかった。
ウルフ達が一瞬、後ずさりした。
僕が立ちはだかった事に驚いたのだろう。
暫く、ウルフ達は動こうとしなかったが、僕も1歩も動こうとしなかった。
先頭にいたウルフが歯を剥き出しにして、「ぐるるるる…」と威嚇して来る。僕はそれでも動じない。
僕がただ立っているだけで、何もして来ないと思ったのだろう。先頭のウルフの威嚇を皮切りにして、
「ぐおぉぉおーーーーーー!!!!!!」
と雄叫びを上げながら、僕に向かって突進してくる。
数は20匹くらいか。
まぁ、普通の人間なら、ウルフ達が突進してきたらその勢い出飛ばされて、致命傷を負うだろうな。
…まぁ、普通の人ならな。
僕は右掌を前にかざす。左手には剣を構える。
ウルフ達が近づいてくる。目の前にはウルフの顔があった。その間僅か0、1cmの所で、僕は口を開く。
[電光石火]
ウルフ達の間をすり抜けながら、左手に構えた剣を振る。
体感としては2分、3分程度だった。
しかし、他者の目からすれば僅か1秒程度の出来事であっただろう。
ウルフ達の間をすり抜けて、地面に着地すると、僕の背後から血飛沫が舞い踊り、ドタドタとウルフ達が地面に倒れていく。
そこにはもう僕しか立っていなかった。
ウルフ達はピクリとも動かない。当たり前だ。頸動脈を切ったんだ。
まぁ。異世界であるから、ワンチャン頸動脈を切っただけでは死なない可能性が考えられたが…
なんて事は無かったな。
[電光石火]、0,01秒程度で約100mを走りきってしまう程の、超早く身体が動くようになる能力。
最初は何処にどう使えばいいのかと思っていたが、結構使えるな。これ。
「アラターーー!!!!!」
後ろから声が聞こえた。振り返ると、村長が走って僕に近付いてくる。僕の前までやって来ると、膝に手をついて、肩で息をして呼吸を整える。
少し落ち着くと、僕とウルフを交互に見ながら、「これは…アラタが?」と聞いてくる。僕は静かに頷いた。村長は驚いた様子であったが、僕に対して何か言うでもなく、自分に言い聞かせるように「そうか…」と呟くだけであった。
僕はそんな村長に掛ける言葉は見当たらなかったので、[ワープ]でまた、別の場所に向かう。
向かう先は必ずダークウルフ達がいる場所にした。
[電光石火]を駆使して、ダースウルフを駆逐して回る。
[ワープ]のおかげもあって、僅か3分程度でダークウルフは全て駆逐出来た事を[千里眼]で確認した。少し時間が掛かりすぎてしまった。確認出来た僕は急いである場所に[ワープ]する。
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「っ、はぁ…っは、っあ。」
出口を探してみたけど、もうどこも炎で覆われていて、熱くて触れないし、探し回るだけで、体力と酸素が奪われて、いよいよまずいかもしれない。
息が苦しい。
でも、良かった。子供たちは皆外へ逃がせたし。
ダークウルフ達の事が気になるけど、憲兵や村の人達がきっと何とかしてくれるよね。
…せっかくのお祭りが台無しになっちゃったな。本当なら今頃楽しく舞台で演舞を踊っていた筈なんだけど。
段々身体の力が入らなくなってきた。
私はその場に膝をついてしまった。多分もう立ち上がれないだろう。視界も朦朧とし始める。
不思議と苦しさは無くなってきていた。
もう、そろそろかもしれない。
私はそっと目を閉じて覚悟を決める。心配事はある。おじぃちゃんの事は心配だな。もう歳だし、世話は誰がするのかな。…まあ、村長だし。村の人達が何とかしてくれるかな。
なら、大丈夫かな。
……後は、アラタの事。
いくら[不老不死]とはいえ、彼はすぐ死のうとするし、自傷行為もするから、私がちゃんと止めてあげないと。いけないことだって教えてあげないと。どんどんエスカレートしちゃう。
それに食事もちゃんと用意してあげないと、死なないからって食べないでしょ。
お風呂だって。着替えだって。おじぃちゃんじゃそこまで強く言わないから、私が言ってあげなきゃ…。
それに。それに…。
炎が私の周りを覆った。
あ、もう駄目だ。と悟った。
人口的に引き起こされた炎は、私の[無効化]能力では消せない。
思い残す事はあるが、私には為す術がない。
私は覚悟を決めて、ゆっくりと目を閉じていった。
…その時であった。
「カナデーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
私の名前を叫ぶ声が聞こえて、目を開けた。
薄らとした視界に、アラタが映った。
アラタが私の目の前にいた。
幻覚だろうか?それにしても鮮明だ。
「ア…ラ…タ…?」
まだ微かに出る声を振り絞って、彼の名前を呼ぶゆっくり右手を彼の頬へと近づけた。
頬に当たる。人間の温もりが感じた。アラタが私の手に重ねるようにして自分の手を添えた。
やはり、私の前にアラタはいる。
どうして?
声に出そうとするが、もう声が出なくなってしまっていた。
アラタが私の身体を自分の身体へと抱き寄せた。
「大丈夫。仮はしっかり返す。」
アラタの声が聞こえる。
私は安心してしまって、静かに目を閉じる。
そこで私の意識は途絶えた。
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炎に飲まれる建物から、[ワープ]でカナデを救出して、外へと出た。カナデは僕の胸の中で眠っている。
体力upのおかげで前世では、非力だった僕もこうして軽々と女性1人を持ち上げる事が出来ている。
僕はカナデを抱き抱えたまま、中心部まで歩いた。
中心部には、村人達が集まっており、地面にはシーツを敷いて、怪我人が横になって、治療を受けていた。
怪我人達の列から離れたところには、ブルーシートが長く敷かれていた。見ると凹凸があって、隙間から血が流れ出していた。
その横では地面に膝をついて、啜り泣く人達、半狂乱になって泣き叫んでいる人達がいた。
僕はその様子を遠くから眺める。
こちらの存在に気が付いた村人の1人が声を上げる。
「カナデ!!!!」
声に数名が反応して、こちらを見る。
その真ん中に村長が立っていた。村長はこちらの存在を認識すると目を大きく見開いて、慌てた様子で僕の元まで駆け寄ってきた。
しかし、少し足取りが不安定であった。
左足を引きずっている。目に見えた傷は見られなかったが、ダークウルフの襲撃できっとあちこち動き回ったのであろう。
老体には厳しい重労働だったんだな。
村長が僕の元まで辿り着くと、僕の胸元で眠っているカナデに目線を下ろした。
「カナデ…」呟くように村長がカナデに声を掛けた。
その声に反応するように、カナデがゆっくりと目を開けた。
虚ろな目で微かに首を動かして辺りを見ると、村長と目線が合い、「おじ、ぃちゃん?」と微かに声を出した。
カナデの声を聞くと、村長は力が抜けてしまったのか、ゆっくりとその場に膝から崩れ落ちてしまった。
啜り泣きながら、「アラタ…ありがとう…ありがとう」と呟くようにして、声を出している。
僕の胸元でその様子を見るカナデも、絞り出すような声で僕に「ありがとう」と言ってくる。
…まだお礼を言われるような事はしていないな。
僕はそっとカナデを地面に降ろした。
カナデは不思議そうに僕を見て、「アラタ?」と聞いてくる。
僕は村人達が集まっている中心部に向かって、右掌を前に出した。そして、僕はこう言う。
[再生]
僕の声と共に、辺りが黄金色の光に包まれた。
僅か、5秒程度でその光は弾けて、黄金の雨が辺り一面に降り注いだ。黄金の雨が降り注ぐと、地面にあった血の跡が次々と跡形もなく消えていく。
カナデの破けた衣類や細かい傷も消える。
シーツに寝かされていた負傷者、腕がなくなっていた人も足が切れていた人も、腕が光に包まれて、蘇っていく。
…そして、ブルーシートの凹凸からは人々が不思議そうに起き上がる。皆傷なんてなかった。
黄金の雨が消えると、一瞬辺りが静まり返る。
村人達が顔を見合せて、数秒後…
「わぁぁぁぁぁぁぁぁあああ?!?!??!??!?!?!」
歓声が上がる。歓声と共に
数十人、いや、数百人の村人達が僕の元まで駆け寄って来る。
そのまま胴上げされそうな勢いだ。
僕はただただ驚くばかりで、何も言えない。
カナデが村人達に押されて、僕に抱きつくように身体を寄せながら、わんわん泣いていた。
僕が使ったのは[再生]と言う名の魔法。
文字通り、"再"び"生"かす能力。
それは生物でも、物体、無機物にでも効果がある。
僕はこの能力を使って、村人達を生き返らせ、村全体を[再生]させたのだ。
…助けたかった訳ではない。
ただ、仮を返したかっただけだ。
これで僕が受けた仮は返せた。これで心置き無く村を出ていける
…ハズだった。
僕は村を救った英雄と言われて、村人から盛大に讃えられ3日間に渡って、感謝祭と称して祭が開かれた。
僕が主役であった為、抜け出す事が出来ず、村人一人一人から感謝の気持ちを伝えられ、豪華な食事や金品等が用意された。
何度か、抜け出そうとしたが、すぐにカナデに引き止められてしまい、失敗に終わる。
そうこうして、祭は終わるが、祭が終わった後も僕への待遇は変わらず、英雄扱いで丁重に扱われた。
家まで用意すると言われ始めたので、僕は早急に断って、旅に出る事を切り出したのだった。旅の理由は"魔王の聖剣"を手に入れて、死ぬ為だったが、村人達に言うと引き止められかねなかったので、最果てを目指したいとだけ伝えた。
しかし…残念ながら、カナデだけは本当の事を知ってしまった。
そうすると、それはまた大層に村長が先頭を切って、村人達と共に旅の道具を拵えてくれた。
[収納魔法]が付与されている寝袋やテント、簡易の巻火キット、ついでに非常食に干物や缶詰まで用意してくれた。
[収納魔法]で魔法の中に全て入れた。
仮を返したハズなのに、逆にまた仮が増えてしまった…。
これ以上、村人達に返せるものが無い。
というか、なんだ。この状況はなんで僕の為にこんな色々用意してくれてるんだ。
僕はそこまで感謝される事をしたのだろうか…。
もしかして、裏があるのではないだろうか。
そんな僕の考えを悟ったように、カナデには軽くビンタされてしまった。ビンタしたカナデの目は真っ直ぐで。
これ以上疑うことが出来なかった。
そして旅へ出る日、僕は村長から地図を貰った。
地図を僕に見せながら、村長が説明してくれる。
「このカナリア村は東側の最深部に位置している。最果てを目指すなら南を目指すといい。
まずはここから西の方角に数km行くとアベイルという観光地として栄えている街があるからそこで休むと良いだろう。」
説明を聞いて、僕は地図をまじまじと見る。
そこには、街や村、といったものは見られるが、国が見当たらない。最果てとは聞いていたが、ただ国1つの最果てという訳では無いだろう。
普通は国が数カ所あって、そこにいくつもの都市がある筈なのだが、この[グラムジャムド]は世界自体が国で、その中に無数の地域が存在しているという事なのだろうか。
そう考えると、大分小さな世界なんだな。
とは言っても距離に換算すると、どのくらい掛かるだろうか。
この世界は飛行機や船等は存在していないのだろうか。
徒歩だけとなると、数10年は掛かってしまいそうだ。
残念ながら、[ワープ]は使えない。
これは明確な移動場所がイメージ出来ないと機能しないのだ。
仕方がない。
地道に行くしかないか。
早朝、僕は村人達に見送られながら、歩き始めた。
しかし、すぐに「待って!!!!!!」と声がした。
振り返ると、村長や村人達の前にカナデが立っていた。
カナデがそのまま僕の元まで駆け寄ってくる。
「私もついて行く!」
僕の腕を自分の胸元に抱き寄せて、叫ぶようにして言った。
…ん?ついてくる?どこに?
「アラタの旅、私もついてく!アラタ1人じゃ危なっかしいもの!」
カナデが自信満々にそう言う。カナデがついてこれる訳がないと一瞬信じられず、村人達を見るが、村人だけでなく村長まで快く送り出すつもりなのか、手を振っていた。
彼女は村の特別な存在なのでは?
こんなどこの馬の骨か分からない男と一緒に旅をさせてもいいのか?不安しかない。
言っておくが、僕には責任は取れないぞ。なんたって僕は死ぬのだから。
言おうとしたが、やめておいた。
あまりに屈曲のない笑顔で村人達が手を降っていたから、カナデの事を言ったら、出鼻をくじかれてしまいそうだった。
僕はゆっくりと、前を向くと、カナデに「僕は責任は取れないからな」とだけ言って、村を出る為、歩き始めるのだった。
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続
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