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第1章(3) 収穫祭


「あっつ…」

照りつける太陽の暑さに思わず、声が出た。

額から汗が伝って、頬から落ちた。


「大丈夫?無理はしちゃダメだよ」

カナデが心配そうに、声をかけて来る。

お盆に乗ったお茶の入ったコップを手に取ると、僕は勢いよく喉に流して込んで、「肉体労働をさせてるのは誰だよ。」と力なく言った。


カナデは苦笑いしながら、「別に強いてないし、適度に休みなよー」と言いながら、僕の元を離れて木陰で休んでいる農家の人達にお茶を配りに歩いた。


僕はその様子を見ながら、鍬を振り下ろして土を耕す。

現在、僕は助けてもらったお礼にカナリア村の農作業を手伝っている。体力upしているとは言っても、前世では殆ど運動なんてして来なかったし、暑さには負けてしまう。

せめて、暑さとか寒さが無効化出来る能力も付与しててくれたら良かったのに、あの女神…。


「アラター、そろそろ畑はいいから祭りの準備を手伝ってくれるかー!」

声が聞こえる方を見ると、村長が立っていた。

帽子の影でよく見えないが、村長の額にも汗が浮かんでいた。

「はぁーい…」僕は返事して、鍬を持ち上げると、そのまま村長の方へと向かって歩いた。


もう少しすると、秋が来てカナリア村全体で収穫祭をやるそうだ。今はまだ夏だが、今のうちに神輿の準備や、収穫祭で振る舞う料理の考案、その他、出し物、加工品の準備があるそうだ。

僕もそれを手伝わされている。


僕が担当しているのは、出し物の準備だ。このカナリア村では特産物があるのだが、その特産物である"カナデ"の花が夏の間しか咲かないので、今の内に刈り取って、羊羹やジュース等に加工しているらしい。


そう、"カナデ"の花とは、あの金木犀の香りがするコスモスのような形をしたオレンジ色の花の事である。

あの花はこの村でしか咲かない花らしく、食用として使えるらしい。味としては金柑のような甘酸っぱい味わいである。

そんな"カナデ"の花を加工し、屋台に出せるように作業をしている。僕は倉庫の一角で他の村人たちと、"カナデ"の花のジュースを作る。


ここにはミキサーなんてないので、花弁をすりこぎ棒ですり潰して、目の細かい布でこす。こした花弁から出た液体を鍋に入れ、火にかけて、水と砂糖や蜂蜜を足してひと煮立ちさせると完成する。


僕が"カナデ"の花でジュースを作っていると、「アラター見てみて!」と僕の元にカナデが近づいてきた。

顔を上げると、そこにはフリルやリボンがふんだんにあしらわれた緑とオレンジの着物風ドレスを着たカナデが立っていた。

髪が一房三つ編みに結われて、"カナデ"の花を模した髪飾りが付けられていた。


「これ、祭りの演武の時の衣装なんだけど、どうかな?昨年より結構派手なんだけど。変じゃない?」

カナデは少し恥ずかしそうにその場でくるっと回って見せて、衣装を僕に見せてくる。

彼女は収穫祭で、村の中心部で祝いの演武を踊るのだ。


そう。彼女はこの村では特別な存在であるようだ。

初めて彼女を見た時から思っていたが、髪の色が他の人と違う事やカナデという名前。


この村では、緑の髪とオレンジの目が共通で、多少の色の薄い、濃いはあるものの、それ以外の色を持って産まれてくる事は混血でない以外稀であるらしい。

しかし、カナデだけは違った。

彼女は真逆に、オレンジの髪と緑の目を持って産まれてきたのだという。


その綺麗なオレンジの髪が、カナリア村の特産物である"カナデ"の花と同じ色であったから、カナデと名付けられたらしい。

他の村人たちからも、彼女の髪色は目を惹くもので、村長の孫娘である事から、毎年、この収穫祭になると演武を踊る役割を担う事になったのだと言う。


僕ら特に彼女の衣装には反応せず、静かに作業に戻る。

すると、彼女はプクッと頬を膨らませながら、僕の両頬を強く抓ってきた。


「もうちょっと愛想よく出来ないのーーーー!!!???」


カナデは若干怒り気味で僕を捲し立ててくる。

僕は動じず、頬を抓られながらも煮立った"カナデ"の花のジュースをかき混ぜて、祖熱を取る。

「もうー…」


カナデが諦めて、僕の頬から手を離して、踵を返して何処かへ行ってしまった。

カナデはとにかく毎日の如く、僕に対して馴れ馴れしく接してくる。特にあの日、僕の名前を教えた日から僕の名前を用もなく呼んでくるし、やたら話しかけてくる。


別に僕は彼女に対して、心は許していない。

助けてもらった見返りに、カナデから肉体労働(農作業)を言い渡されたので、村人たちの手伝いをしているが、村人達の事もカナデの事も疑ってる。


こんな事だけで許される訳がない。

これはまだ序の口に過ぎなくて、他にもっと僕に何かさせるつもりなのだ。もしかしたら、この収穫祭の手伝いを僕にさせる事で、村の奴隷として使える様に調教しているのかもしれない。はたまた、収穫祭の重大な任を僕に任せて、失敗させる事で僕に拷問をするつもりかも…


「アラタ!収穫祭楽しみだね!」

またカナデがやってきた。僕を見てニコニコ笑う。

辺りを見渡すと、収穫祭の準備で追われている村人達の姿が見えた。神輿の修繕をしている者、出店の屋台を作ってる者、村人数人が机を間に向かい合って、話しあってる。

みんなとても忙しそうだが、表情は明るく、前を向いていた。


…ま、僕には関係ない事だけど。

僕は彼女の言葉に返事する事無く、冷めてきた"カナデ"のジュースを瓶に流し込んでいくのであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


気づいたら、肌寒くなる季節になっていた。

異世界へ転生させられ、"魔王の聖剣"を求めて旅をするつもりだが、最初の村で倒れて助けられ、見返りに農作業を手伝って。


そういえば、どれだけ首を吊っても、首を切っても、身体を八つ裂きにしても、死ぬ事はなかったが、致命傷ではない傷はある程度の間残るらしく、リストカットやらアームカットをした時は2、3日傷跡が残った。


[治癒]の魔法があったので、それで治す事は出来たが、傷跡が残る事で多少気が落ち着けたので、わざと残して置いた。

ただそれを見たカナデには大分怒られて、装備品である剣は奪い取られてしまった。


それなら…と農作業中に桑で身体を傷つけようとしたら、次は村長に止められてしまった。

それからは桑や包丁等の刃物は握らされなくなってしまったし、刃物以外で自傷しても、他の村人の能力ですぐに治癒されてしまうようになってしまった。


そんなこんなで気付けば、季節は秋。

前世で言えば10月前半くらいだろうか。

3日間に渡る収穫祭が始まった。


村の中心部に屋台が設置され、神輿が村中を駆け回る。

最終日の夜には、村の中心部の舞台上でカナデが演武を踊るらしい。


僕は収穫祭の様子を太い木の枝に腰掛けて、[千里眼]を使いながら見ていた。もちろんしっかり[無色透明]と[探知不可]の能力を使っているので、誰にも見つからない。


また、カナデの[無効化]能力対策として、[魔法想像]能力を使って[無効化]の能力を生成し、[無効化]の[無効化]を行った。

これで、カナデが僕を見つける事もなくなった。


それにしても…

僕は収穫祭の様子を見て、ため息をついた。

村人たちはみんな楽しそうに笑顔で出店を回ったり、神輿を見たり、料理を作ったりしていた。


何が楽しいのか、僕には分からなかった。

こんな事の為に汗水垂らして、体力を使って、下らないったらありゃしない。

……………。


「っ………!」

僕は堪らなくなって、爪を噛んだ。

奇妙な感情が体内に駆け巡って、我慢出来なくなった。


あんな場所へ行った所で、僕は蔑まれるだけだ。

前世では、祭の日、僕がその場所に行っただけでクラスメイト達には石を投げられたし、何なら金を巻き取られた。

良い思い出がない。


苦しくなって、落ち着かせる為、[錬金術]でポケットナイフを錬成し、自身の左腕を切った。

「っはぁーーー……」


大きく溜息をついた。流れ出す血の赤に少しだけ落ち着いた。

こんな所は場違いだ。もう彼女にも村人達にも仮は返した。

この村から出て行こう。


そう思っていたのだが、なかなか決行出来ずに、気付けば3日目。収穫祭最後の夜。カナデが演武を踊る日がやってきた。

僕は相変わらず、太い木の枝に腰掛けたまま[千里眼]でその様子を見ていた。


村の中心部に人が集まっていた。

そんな中、嫌な気配が村を取り囲んでいる木々達から感じた。[千里眼]で特定場所を、村を取り囲んでいる木々達に変える。


そこにはゾロゾロと無数の狼達がいた。

いや、狼というには大きすぎるし、何なら全長3mは超えてるであろう。大きい物なら5mはあった。

体毛は黒く、鋭い黄色が眼光を放っていた。


そういえば、村長が言っていた。村の周辺には

ダークウルフという普通のウルフとは違う肉食のウルフが生息していると。


普段は人里に降りて来ないが、秋になると、収穫祭で村人達が一角に集まる事で、肉の匂い誘われて、村まで降りてくる事があると…。極稀だし、そんな事があってもすぐに憲兵が立ち向かえる様に村を取り囲んで警備をしている…と。


いや、それにしては多すぎないか?

10、20、100…ざっと数えて100体以上はいる。

ウルフが木々から出てきて、憲兵達が応戦している。

しかし、数が桁違いなのだろう、2、3体倒した所で憲兵達が押される。そうこうしている間にダークウルフは村の中へと侵入してくる。


そして、5分もしない内に中心部へと辿り着き、その場にいた村人達に襲いかかって行く。一気に祭が血祭りへと変貌していく。

村長が指揮を取って、その場にいる村人たちを近くの建物へ避難させている。


舞台近くには憲兵もいたようで、ダークウルフ達に立ち向かいながら、

村人達を助けている。それでも数が多すぎる…。

ダークウルフが憲兵の数を凌駕している。ダークウルフが村人達を食らう。腕が引きちぎれて、血が舞う。断末魔が聞こえる。


ダークウルフの騒動で、焚き火の炎が一つの建物に移って火事になる。中には出し物で手が離せない親の代わりにカナデが2階の一室で子供達の面倒を見ていた。火事になった事で一瞬にして炎の海と化した一室で、彼女は窓から他の村人に声を掛けながら、子供達を下に降ろしていた。

村人たちは見事な連携プレイで、子供達をブルーシートでキャッチしていた。


子供達が建物から全員降りて、最後にカナデが窓から飛び降りようとした瞬間、炎で萌えた柱が倒れて、窓が塞がれた。

カナデは後ろを振り返るが、残念ながら、本来出口である扉は炎に包まれ見えない。彼女は行き場を失ってしまったのだ。


[千里眼]で見えた光景に僕の息が急に苦しくなった。

「っーーーはっ、ぁはぁ……!!!」

肩で息をする。全く空気が肺へ入って来ない。


気を落ち着かせようと、ポケットナイフで左腕を数回傷付けるが、全く効果がなく、苦しさは待つばかりでその場から立ち上がった。


何を動揺しているのだろうか。

今こそ、村から抜け出すチャンスなのでは?

別に村人がどうなろうが、知ったこっちゃない。僕はちゃんと仮だって返した。

村人達が死のうが、カナデが死のうが関係ない事だ…。



……カナデ。……



「……。そういえば家に泊まらせてくれていた礼はまだしてなかったな…。」


僕がしたのは、助けてくれた礼であって、家に泊まらせてくれた事や、タダで食事を摂らせてくれた事はまだ返してなかった。

僕は[錬金術]で剣を生成し、右手に握った。



「…仮を返さなくっちゃな…。」

呟いて、左掌を前に出し、[ワープ]と声を出した。

助けるのでは無い。仮を返すだけだ。


そう自分に言い聞かせながら、僕は

村の中心部へと[ワープ]するのであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー   続

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