第1章 最初の村
女神に転生させられた。それだけでも最悪だっていうのに、頼んでもないのに"不老不死"なんて能力まで付けられた。
僕の幸せの為だと言うのなら、そのまま死なせていてくれれば良かったのに。
僕は"魔王の聖剣"を手に入れて、必ず死ぬ。
異世界だからなんだ。別に誰かとの関わりも、金儲けも、美味しいものも何もいらない。
僕には"無"。"死"しかない。
僕は死の為に行動する。ただそれだけだ。
そんなこんなで、女神が出現させた異空間を抜けて、やって来た異世界[グラムジャムド]。女神が言ってた通り、辺り一面緑に覆われた草原に飛ばされた。
草原には水色の物体が数個、緩やかに動き回っていた。
近くに行って見てみると、それは弾力のある質感が見て分かる程、ぐにゃぐにゃと動く度に揺れていた。
目や口は見当たらない。
何処へ向かっているのかすら分からない。こちらに対して特に興味を示すことも無い。
これはよくアニメで見たスライムという魔物だろうか。
思っていたより、ぐにゃぐにゃで握り潰せてしまいそうだ。
一体のスライムの前で掌を翳してみる。現れたステータス画面には[スライム]の名前が乗っていた。
ステータスの中には、特にこれといって目立った能力はなく、強いて言うならぐにゃぐにゃボディーという肉体的能力があるくらいであった。目が見えないので何かに対して、敵意等向ける事はないらしい。
僕はそんなスライムを手元に引き寄せて、胸元でぎゅっと抱きしめてみる。すると、抵抗することなく、スライムの体は弾けて、ぐにゃぐにゃと液体のようになって、胸元から落ちていった。
地面に落ちると、その液体は1箇所に集まって、またスライムの形に戻り、何処かへと行ってしまった。
僕はその様子をただ呆然と見つめて、スライム達がいる草原を抜けて行った。
少し歩くと、ぽつぽつと花が咲いていた。
オレンジ色の花だった。
匂いは金木犀に似ていたが、形はコスモスのようであった。
僕はその花を1輪ちぎって、まじまじと見る。風が吹いて、更に金木犀のような匂いが鼻に充満した。
はっとして、前を見るとそこは崖であった。
とは言っても、そこまで高くなくて、落ちても死にはしないだろう。下を見るとそこには集落があった。
民家がぽつりぽつりと並んでいるが、殆どが畑で黄緑の稲が風で揺れていた。田舎のような印象を受ける。
ここが多分、女神が言っていた村だろう。
僕はその場から村へ行こうと、辺りを見渡して、降りれそうな場所を探す。しかし周辺は花しか見えず、降りて行けそうな所はない。「あ、そうだ。」思いついて、僕は掌を空に上げて、ステータスを出す。
ステータス画面から、僕の能力の一覧を再確認する。女神の前で1度確認していたが、ざっとしか見れていなかったので、今回はじっくりと見てみた。
…なるほど、僕はワープというものが使えるのか。
それに千里眼も。これは便利だな。
僕はステータスを閉じると、「ワープ」と口に出してみる。
すると、目の前に女神が出していたような異空間が出現する。
僕は行きたい場所を思い浮かべながら、その異空間の中へ入った。少し歩いて、異空間を抜けると、村の中へと辿り着くことができた。
目の前に畑がある。稲が揺れていた。
僕は辺りを見渡しながら、ゆっくりと歩を進めて行った。
見ると、野菜等も植えられているのが見えた。
見る限り、茄子やきゅうり等、[地球]と変わりない食材が見られた。
少し行くと、人が見えた。麦わら帽子を被った農家の人だろうか、畑で野菜を収穫したり、稲を植えたりしている。
そんな人が数10人程居て、畑の外の土で出来た道には、日本の着物のような衣類に身を包んだ女性が畑にいる人達に何か話していた。その隣には小さい子供もいた。
衣類や村の様子を見ていると、日本にいるような感覚になるが、ただそこにいる人達の髪の色は。日本人と違って、緑の髪をしていた。ただ1人の女性だけは、さっき見た花のように綺麗なオレンジの髪をしていた。
オレンジの髪を肩まで伸ばした女性は農家たちに話終わると、その場にいた子供たちに向き直って、一言、二言何か言う。
言い終えると、前を向く。
その時、僕と目が合った。
緑の目だった。女性の緑の瞳に僕の姿が映る。僕は何も言い出せずその場に立ち尽くしてしまった。
…酷く汗が頬を伝った。
腹の底から湧いてくるような恐怖が僕の身体を満たしていく。
そういえば、僕は前世でこうやって人と対面する時は、大抵殴られるか、蹴られる時だったな。
1度それを考えてしまうと、前世での恐怖が思い出された。
怖くなって逃げたくなったが、女性の吸い込むような緑の目がそれを許さなかった。
目を逸らそうとしたが。彼女の姿に見惚れて目が離せない。
何か話さなければ…。
そう思った。しかし口から出るのは「ぁ…あ…」と嗚咽だけだった。それが更に恥ずかしく感じて、汗が止まらない。
女性が不思議そうに首を傾げる。
それと同時に目が回り始める。
辺りがぐるんぐるんと歪曲し、僕の身体がゆっくりと傾いていく。その時、感じた感覚はあの時飛び降りた時とは違う、気持ち悪いものであった。
そう思って、僕の意識は途絶えた。
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…………
………
額に冷たい何かが被さる。
じんわりと額から全身に冷たさが駆け巡り、心地よい感覚がした。ゆっくりと重たく閉じた瞼を開いていく。
暗闇に光が差し込んで、視界がぼやけた。徐々に光に慣れて視界があらわになった。
僕の目の前にはあのオレンジの髪の女性の顔があった。
僕は横になっているようで、彼女は覗き込むようにして、僕を見ていた。
「あ、気がついた?」
僕と目が合うと、女性は軽くはにかんで声を掛けてきた。
僕は何か言おうとするが、残念ながら、18年間まともに人と話した事がなかった為、上手く言葉が出ない。
そうだ。さっきはそれで焦り過ぎて、気を失ったんだった。
ここはどこだろうか?
僕は布団に横にされている。彼女が運んだのだろうか?
僕はゆっくりと状態を起こした。布団越しに膝に冷たく濡れたタオルが落ちた。額に被さっていた冷たい何かはこれだったのか。当たりを見渡す。まずは障子が見えた。障子にはあの草原で見たオレンジの花が描かれている。
反対側の障子は開いていて、外の景色が見えた。
壁には虎の絵が飾られていて、黄金色の屏風も飾られている。
どこまでも和風テイストであったが、床はフローリングで、違和感を感じた。
「君、村の中で倒れちゃったんだよ。びっくりしちゃった。村の人たちと一緒に私の家まで運んできたの。少し熱があるようだったから熱中症にでもなっちゃったのかな?」
辺りを見渡して、状況把握をしていた僕に不意打ちで彼女が話しかけてくる。
驚いて「ふぇ?!」と情けない声が出た。 そんな僕には構わず、女性は話を続けた。
「見かけない顔だよね?冒険者?それにしても装備が新しいよね。駆け出しかな?あ、村の特産物のカナデ羊羹が冷えてるの。良かったら食べ…」
彼女が話終わる前に、僕はいても立っても居られなくなり、膝に落ちたタオルを取って、勢いよく自分の首を絞めた。
「え?!?!?!?!?!?!??!?!?!?!?!?!」
「すみません!!!!!死にますーーー!!!!!!!」
女性が慌てて、タオルを締め上げる為に交差させた僕の腕を掴んできた。それでも僕は力を弱めない。
とにかく僕はパニックになっていた。人前で倒れただけでも許し難い事なのに、あまつさえ、意識を失って他人に他人の家まで運ばれて、ついでに綺麗な布団に横にされて、看病されてたなんて…。
「こんな僕がこんな事されていい訳ない…」
僕は呟いて、更に強い力で自分の首を絞めた。
だが、ただ苦しいだけであり、意識は遠のきそうにはなるが、死の予感は感じない。
そうこうしていると、「何事だーーー!?!?!?!」と大声を上げながら、男の老人が強く障子を開けて、中へと入ってきた。
老人は目を見開いて、僕の様子を凝視している。
一気に頭が真っ白になって力が抜けた。
女性も僕の両腕を掴んでいた手の力が抜けて、力なく、老人を「おじぃちゃぁん…」と呼ぶ。
目は微かに涙を貯めていた。
真っ白になった頭から血の気が引いて、どうしようも無く行きどころの無い感情が身体を埋めつくして、たまらなくなって、僕はタオルを首から落とすと静かにその場から立ち上がった。
そんな僕を見上げる形で女性は見ていた。
老人もその場に立ち尽くしたまま、僕を見ていた。
少しの間、沈黙が流れる。
僕は場で深呼吸を1回すると、外の景色が見えている側の開いてる障子の方に全力疾走した。
「ええぇ?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!」
老人と女性の腑抜けた声が響いた。
僕はそのまま走って、外に出ると、生垣の下に小さな池があるのを瞬時に確認すると、そのまま止まるとこなく、その池へ足から頭から飛び込んだ。
「っええええぇぇえええええ?!?!?!?!?!?!」
老人と女性が更に腑抜けた叫び声を出す。
僕は頭が水の中に入っていたので、見えなかったが、2人の足音が早足で僕まで近づいてくるのが分かった。
僕は水の中に浮かぶコケを眺めていた。
すると、両の足が引っ張られたて、僕は水飛沫と共に空へと引っ張りだされたのであった。
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続
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