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夏の日の思い出

夏の日の思い出 第二節 〜夢の中の神社〜

作者: nim

夢の中シリーズ第二話

「おーい なぎー はやくこいよー」



家から遠くない距離、わたし達が通う小学校の窓から、ちょっと遠くに青々と茂る木々の隙間に見える石の階段


わたしとだいちゃんが秘密基地と呼んでいる場所



「きょうは ひみつきちかー」


わたしが石の階段を見上げているうちに、だいちゃんは先に登っていってしまう



(だいちゃんは のぼるの はやいなぁ)



おかあさんに、あまり走っては駄目だと言われてるから、早く行きたい感情を抑えつつ、木々の間から漏れる木漏れ日が映る石段を、1段1段、サンダルで踏みしめるように上がる



木々の間をすり抜ける優しい風が近くで聴くセミの大合唱と合わさりとても心地よい



「だいちゃん まってよー」



上に行くにつれて、段々と薄暗く石段と、置いてけぼりにされた焦りで、気づけば少し早足で石段を登っていた



「はぁ・・ ふぅ・・」


おかあさんの言いつけを思い出したが少し急いでしまった

息が切れてしまったけど、なんとかだいちゃんのいる頂上にたどり着いた



「なぎ だいじょうぶかよ?

リュックのすいとう とってやるか?」



息が切れて、前かがみに休んでいるわたしのリュックに手を入れ

だいちゃんが水筒を取って渡してくれた



「なぁ ここじゃ あついからさ じんじゃの きのゆか のとこまでいこうぜ!」



そう得意気そうに、だいちゃんが言うと、息を整えたわたしを確認して手を引いて歩き出す



「きがいっぱいで すずしいねー」


わたしの声に反応して、だいちゃんは少し照れたように頭をかいている


「あついときはさ なぎとあそぶには すずしいこのじんじゃが いちばんだよな」


わたしの胸の病気の事、気遣ってくれた、だいちゃんのその言葉に、わたしは少し嬉しくなった





木々に囲まれた神社の縁側

わたしは水筒のむぎ茶をコップに入れ、両手で添えて、ちびちびと飲んでいる



どのくらい休んだだろう



だいちゃんは、虫が集まる木がそこにあるんだって言って、休むわたしを置いて、木々の間に入っていって久しい


「だいちゃん どこまでいっちゃったんだろ?」


短いわたしの髪の毛が優しく揺れる感触

火照ったわたしの身体を扇いでくれている



身体の熱も段々と引き、身体を抜けていく風がとても気持ちいい



わたしは、神社の縁側で足を垂らしながら仰向けになって、木々の間から見える空を見上げていた


(なんだかねむくなってきたなぁ・・)


自然とまぶたが閉じる


耳から入るヒグラシの声は、わたしを安心させる子守唄に聴こえた



暫くすると、だいちゃんが呼ぶ声がする



「なぁ? なぎ ねてるの? なぁ これみろよ!」



少しビクついて、開けたわたしの目に、いつの間にか戻ってきたニコニコ顔のだいちゃんがいた


ふと目線を落とすと、だいちゃんの左手にピントが合った


指でつままれたそれは、黒く、脚をゆっくりとバタつかせている



「うっ!ひぃぃ〜つっ!」



わたしは慌てて起き上がり、その物体から遠ざかる



「だっ だいちゃん!それ・・ それ!むし!キモチワルイ!」


さっきまで涼しかったのに、一瞬で臨戦態勢、サムイボ と 冷や汗が全身を覆っていくのがわかる


わたしが指を差して身構えたところに、だいちゃんが少し呆れ顔で寄ってくる



「べつになんにもしねぇって・・ これ カブトムシだぜ? なぎ

カッコいいだろ?」



(だいちゃんのカッコいいってよくわからない・・)



だいちゃんは事あることに、虫を拾ってくる


うちのおにーちゃんと遊ぶ時も、虫をお互いに拾ってきて、自慢しあっているのは知っている

けど、おにーちゃんが居ない時まで拾ってくるのは本当に止めてほしい


だいちゃんと遊んでいるから内心しょうがないと思う反面

こういう事は "男の子同士"でやってほしい



「だいちゃん! むし にがしてよー! わたしキライなの はなしたでしょー!!」



胸の病気など、どこ吹く風

おかあさんに言われたことも恐怖で忘れ、ありったけの大声で叫んだ



「そんなにおこらなくてもいいだろ? なぎ にはこのカッコよさがわからねーか?」


だいちゃんは、少し呆れ顔だ

暫くカブトムシをひとしきり触ると、手に持ったカブトムシを空中に放り投げそうな仕草をしている



「だいちゃん!なげないでよー!」



わたしが放った言葉と同時に、だいちゃんは ニヤッ といたずらっぽい表情をして、カブトムシを空中に放った


カブトムシの光沢のある身体に、木漏れ日が反射してキラキラして見える

投げた頂点に届きそうな時、木の影に同化して、カブトムシがどこにいるのかわからなくなった



    ブッ ブーン!



(きたっ!)



羽音が聴こえると、わたしは反射的にだいちゃんの後に隠れようと走っていた



   ブーン!ブーン!



わたしがだいちゃんの後ろまで来たところで羽音のする方を必死に探す



    ブーーーン!



カブトムシは旋回して下降し、わざわざ、わたしの避難した場所


その場に座り込んだ、わたしの耳の真横を通り抜けていった



嫌な羽音と通り抜けていった風の感触が恐怖を煽る



「あははっ! やっぱ なぎ はむしにすかれてるよなー!わざわざもどってきてさ なぎ んとこまで とゆでくんだもんなー!」



よっぽどだいちゃんは可笑しかったのか、お腹を抱えて笑っている



「ばか! だいちゃん! なげないでっていったじゃん!」



怒りと恥ずかしさでよくわからない表情になっている

それを思うと、また恥ずかしい



「ごめんな!なぎ ついせきミサイルひさしぶりにみたくてさ」



なぜかいつも、逃した虫がわたしのところに目掛けて飛んでくる


どこに避難しても飛んでくる・・


それを、だいちゃんは知っているから、大抵二人で遊ぶときはどこからともなく虫を捕まえて、わたしの見えるところで放つのだ


「だいちゃん いっつも そればっかじゃん!あほー!」


「ごめんていってるだろ?まぁわるかったよ

おわびといっちゃなんだけどさ ひみつきちに なぎ にみせたいもんあるんだ」



だいちゃんはそう言うと、さっきまでわたしが寝そべってた縁側の下まで行き、クルッと顔だけ私に向けてニヤッとして手招きする


(またなんかかんがえてる・・)


わたしは頭でそう思いつつも、一人は怖いので、だいちゃんについてく事にした




薄暗い縁側の下をくぐって、本殿下の手前までだいちゃんについていく


本殿の下は木製の基礎で、風を通す格子がいくつもならんでいる



何度かだいちゃんと来ている秘密基地


慣れた手付きで格子の1つを外すと、だいちゃんは躊躇せずに入っていった


わたしも四つん這いになって後を追って入っていく


(なんど きても しめっぽいし くさい・・・)


なれないニオイと薄暗さ、蜘蛛の巣が顔に纏わりついて身体がゾワゾワする


ふと 先程のカブトムシが飛んでくるのが頭をよぎって、思わず身震いしてしまった



「なぎ!これこれ!」



だいちゃんはカチャカチャと、何かを弄っている


スイッチを入れる音が鳴ると同時に、周囲が明るくなった



「みせたいものってでんき?

まえより なんか そうびがふえたねー」


灯りがついたことで、周りがよく見える

気付けば気持ち悪さも和らいでいる


天井からぶら下がる懐中電灯、どこで拾ってきたか、椅子やテーブルまである



「なっ!バージョンアップしたんだぜ! でもさ みせたいものはこれじゃなくて こっちな」


だいちゃんは古びた小さなテーブルの上のお菓子の缶を弄りだした


暫くするとわたしの前に、キラキラ綺麗な丸い緑の石を差し出した


「これ きれいだろ?なんかツヤツヤしてて ホウセキみたいだろ?なぎ にやるよ!」


だいちゃんは照れくさそうに、その石をわたしに手渡した


「きれい・・だいちゃんありがとう!」



ちょっと強引でいたずら好で虫好きのだいちゃん

でもやっぱり優しいだいちゃん

一緒に遊んでよかったなぁ



「そのいしさ じんじゃのウラのいけにあったんだぜ!さがしたらもっとピカピカのやつみつかるかもな!」


「ほんとに? わたしもさがすー!」











見ていた風景が眩い光で見えなくなる・・


また、あの男の子の名前忘れちゃうんだろうな・・

・・・ちゃん・・・

ここまで読んで頂きありがとうございます

次回もよろしくお願いいたします

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