まさかの再会
この日も俺は、嬢ちゃんと外回りにでていた。
姐さん曰く『国の周りの事をちゃんと把握する為』だそうだ。
仕事のアドバイスなんかは、実際に見ておかないと分からない事もあるのだろう。
北の森は危険だと聞いているが、どう危険なのかは分からない。
南には村が点々としていて、農地や牧場が沢山あるけれど、その辺りの事も良く知らない。
他の町へ行くまでの道のり、どんな魔獣が出るのかも知っておく必要がある。
まだまだ俺は研修期間と言った感じで、現場を見て回るのが仕事となっていた。
バカな冒険者の相手は、朝里ちゃんがかなり吹っ切って対応している。
既に『冒険ギルドの受付嬢はヤバい』という噂も広まり、でかい口を叩くバカは減ってきていた。
それでもバカがいた時は、朝里ちゃんが少し魔力を開放し、冷たい目で見ればそれで収まるとの事だった。
あの目、マジで怖いからなぁ‥‥
それで今日は、先日ドラゴンに頼まれていた猪鹿魔獣の肉の事もあるので、北の森へと来ていた。
北の森は、セカラシカの町から北へ少し入った辺りは、そんなにヤバい森でもない。
他の森と比べると、毒だと麻痺だの状態異常を起こすような魔物や魔獣が多いので、面倒と言えば面倒だけど、そこそこの強さがあれば薬草集めなどの仕事はできる。
しかし、そこから更に北に行けば、霧に包まれ迷いの森と化し、西に行けばドラゴン以上に強い魔物も多く、東に行けば高レベルのアンデットがあふれている。
つまり、この森深くに入った冒険者は、その多くが帰っては来ない。
そんな森だった。
その森の、まずは西側へ俺達は向かった。
猪鹿魔獣を狩る為だ。
徐々に強いモンスターに出会う中、俺のテンションは上がってきていた。
「これぞ冒険!俺はこういうのを求めていたんだよ!」
既にドラゴンクラスに近い魔獣が次々と襲ってくる。
話なんてできる相手ではない事は雰囲気からも分かるので、俺たちは容赦なく倒しまくった。
倒したら当然魔石は回収するが、素材は面倒なので魔獣そのものを水晶に入れて持って帰る事にしていた。
ちなみに水晶に入れられるモノにはルールがある。
まず、生きてない事。
ただし植物は別。
そしてそれが生き物の手や体に触れていない事。
これも植物や小さいモノは除く。
そして自分が触れているモノ。
この条件を満たして初めて水晶に入れておく事ができた。
さて実際に戦ってみて分かったのだが、どうやら俺は戦闘向きではなさそうだった。
このクラスの魔物が相手となると、決め手となる攻撃手段が極端に減った。
まだこの世界にきて、なんの魔法も覚えていないし、開発もしていない。
ただデフォルト設定にあった魔法が使えるだけなのだが、それは攻撃魔法以外に偏っていた。
身体能力はそれなりに高いので、戦えないという事はない。
殴り飛ばせば大抵は倒せる。
でも物理攻撃が効かないような相手だと、手頃な魔法が無くて困る状態だった。
「あいつも魔法だけか」
決して倒せる魔法が無いわけではない。
でも魔力消費の多い無駄に強いのしかなかったりする。
この辺りの改善は、今後の課題として見えてきていた。
ただその代わりと言ってはなんだが、守りに関しては最強だった。
物理攻撃魔法攻撃両方に耐えられ、各種状態異常への耐性はほぼ百パーセント。
精霊魔術にある各種属性に対してのレジストも完璧、倒せなくても負けない体を持っていると言えた。
一方嬢ちゃんは、何においても完璧だった。
当たり前の事だけど、攻撃も防御も隙はない。
あえて弱点を言うなら、体が小さい事くらいだった。
それが利点になる事もあるだろうけれどね。
俺達はドンドン森の奥深くへと入って行った。
ドラゴンですら入るのをためらうエリアだ。
猪鹿魔獣はここに居る。
近寄ってくる魔獣を倒しながら、目的の魔獣を探した。
「あれじゃね?」
「うん‥‥群れでいるね‥‥」
俺たちは茂みに身を潜め、気づかれないようにしていた。
池というか湖というか、水辺で猪鹿魔獣と思われるヤツらをとうとう見つけた。
さてどう料理するか。
肉が必要だから、炎系や電撃系の魔法で倒すのはNG。
爆裂系も肉が飛び散りそうで止めた方がいいだろう。
だったら残るは、魔法ならコールド系。
或いは殴り倒すのがいいだろう。
一応剣も持ってきてはいるが、これもできるだけ避けたい。
ちなみに俺も嬢ちゃんもナイフを二本だけの装備だ。
まあいざとなれば、水晶の中にドラゴンからもらったものがいっぱい入っているので、それを使えば問題ない。
伝説の剣クラスのモノもいくつかあるしね。
「じゃあ俺が殴り飛ばすから、嬢ちゃんはそれを一体ずつ凍らせて水晶にしまっていってくれ」
「分かった‥‥」
正直一体や二体なら役割は逆の方がいいのだろうが、何百と狩ろうと思っているから俺の魔力が心配なのだ。
大丈夫だとは思うけど、帰りに他のエリアも下見に行くし、此処で魔力を使い切るわけにはいかなかった。
俺は茂みから飛び出すと、一気に数体を殴り飛ばす。
直ぐに嬢ちゃんが反応し凍らせていた。
連携して戦うのは初めてだが、ここまで一緒に戦ってきたので息はピッタリだった。
嬢ちゃんが合わせてくれているかもしれないけれどね。
俺は次々に殴り飛ばす。
だんだん急所が分かってきて、確実に一撃でしとめられる場所も把握できた。
ペースはドンドン上がって行った。
流石に力の差を察したのか、猪鹿魔獣が逃げ始める。
だが逃がしはしない。
この群れは全部狩らせていただくのだ。
魔獣がどうやって増えるのか、何処から生まれてくるのか、この世界ではよく分かっていない。
いくら狩っても確実に増えてくるヤツもいる。
相手は魔獣だし、狩れる時に狩りたいだけ狩る事は、この世界では許可されていた。
十分ほどで、この群れのおおよそ五百体は全て狩れた。
今嬢ちゃんが最後の一体を水晶へとしまった。
「これだけ獲れればドラゴンたちも喜んでくれるだろう」
「うん‥‥冷凍して‥‥あるし‥‥新鮮」
嬢ちゃんは嬉しそうだった。
「じゃあ本業の方もやらないといけないから、次は北の方に行ってみるか」
「分かった‥‥」
俺たちはこれから霧のかかる森へ向かう。
普通の冒険者が此処に入って戻ってこられる可能性はほとんどない。
幻影睡眠麻痺毒呪い、色々な状態異常が襲ってきて思考を混乱させる。
視界がほとんど見通せないのも怖い。
同じ所をずっとぐるぐる回って死んでいく者も多い。
そんなヤバい森だけど、俺には各種耐性が揃っているし、マッピング魔法なんかも使えるから全く問題はなかった。
ちなみに嬢ちゃんは言わずもがな、当然問題はない。
何度もここには入っており、本人曰く『庭みたいなもの』だからね。
さて北の森へ進もうとしたら、目の前に一匹の猫魔獣が現れた。
猫魔獣は、東のこのエリアでは壱弐を争う強力な魔獣だ。
あのドラゴンを凌ぐ数少ない魔獣の一つでもある。
ドラゴンがこのエリアに来ない理由でもある。
今目の前には一匹しかいないが、偶に群れを成していて、そうなると手が付けられない。
知能も高く人間と同等で、群れは連携して襲ってくる。
そして最もヤバいのが、人型へと変化する事だ。
変化して人間用の武器を持てば、一対一でもドラゴンを超える戦闘力を持ってしまう。
ただ今目の前にいるのはどうやら幼生で、単独で行動しているようだった。
嬢ちゃんはすぐに攻撃をしようとする。
だが俺はすぐにそれを止めた。
「待ってくれ!これは俺に任せてもらえないか」
「うん‥‥分かった」
俺は、猫が好きなのだ。
たとえそれが魔獣であっても、殺したくはない。
話ができる相手には見えないが、知能は人間並みと聞いている。
何とか意思疎通を図ってみせるのだ。
俺はゆっくりと近づいた。
向こうもこちらの力量が分かっているのか、警戒しつつ横へ距離を取る。
まずはどうにかして動きを封じる。
そしたらなんとかなるだろう。
俺は一気に距離を詰めた。
猫魔獣は距離をとらず向かってくる。
なかなか気の強い猫魔獣だ。
俺は猫魔獣の攻撃をかわす事もせず、がっちりと胴体をホールドした。
「よーしよし。怖くない怖くない」
俺はホールドしたまま頭をなでる。
猫魔獣は逃げようと猫パンチを繰り出してくる。
その威力は砲丸投げの玉をぶつけられているような重い攻撃だったが、俺は耐えて尚も猫魔獣をなで続けた。
「大丈夫。怖くないよ。怯えているだけなんだよね」
そんなやり取りを続けていると、猫魔獣は徐々におとなしくなっていった。
そして気が付いたら、殴った俺の顔をペロペロと舐め始めた。
俺はホールドしていた体を離した。
「おおーいい子だねぇ~」
俺は尚も撫で続けた。
猫魔獣の目には、先ほどまでの殺気はまるでなく、綺麗なクリクリの目で俺を見ていた。
可愛すぎる。
一緒に来てくれないかな。
俺は心からそう思った。
すると猫魔獣が急に光だした。
「なんだ?!」
そして次の瞬間、小さな可愛い女の子の姿へと変わっていた。
「おお!可愛い!可愛すぎるぞ!猫耳最高!」
俺は抱きしめた。
頬ずりした。
頭をわしゃわしゃして可愛がった。
「お兄ちゃん、だよね。私、ダンプカーにひかれそうになった所を助けてもらった子猫だよ」
「えっ?」
驚きだった。
あの時の猫が転生したというのだろうか。
いや間違いない。
あの時の事を知っているのだから、少なくとも転生者である事は間違いなかった。
「そうだよ!また会えるなんて超嬉しいぞ!」
ちょっと涙がでてきた。
転生してこの世界に来た事は、正直嫌ではないしむしろ楽しい。
でも自分だけってのは寂しいと思っていた。
猫とはいえ、転生前の事を語れる相手がいたのだ。
俺はとにかく嬉しかった。
「お兄ちゃんくすぐったいよ」
ニャンコもなんだか嬉しそうだった。
俺たちのじゃれ合いを見ていた嬢ちゃんも、いつの間にかそこに加わっていた。
俺はニャンコに紹介した。
「この子は俺の友達で、嬢ちゃんっていうんだ。仲良くしてやってくれよな」
「分かったよお兄ちゃん。よろしくね、嬢ちゃん」
ニャンコがそう言うと、嬢ちゃんも嬉しそうだった。
「こちら‥‥こそ‥‥仲良くしてね‥‥」
そこで嬢ちゃんの動きが止まった。
どうしたのだろうか。
そんな顔で俺とニャンコは嬢ちゃんを見つめた。
嬢ちゃんは再び動き出し言った。
「名前‥‥なんていうの?」
そういえば名前を知らなかった。
俺もニャンコを見つめた。
「名前?無いからお兄ちゃん付けて」
期待の目で俺を見つめてきた。
これは良い名前を付けて上げないと駄目な所だ。
冗談なんて言ってはいけない。
俺は頭のCPUを熱暴走しそうなくらいにフル稼働した。
ニャンコの見た目は、人型バージョンだとあの『キャッツなんとか』って言うアレの格好を小さくしたような感じで、少しクノイチっぽい感じでもある。
木刀のようなものを腰に差していて、身長は嬢ちゃんよりも十五センチくらい低めの百三十センチ前後。
小学三年生くらいの猫獣人といった感じだが、獣人と違って尻尾は無かった。
でも名前を付けるのなら、猫好きの俺としては先ほどまで見ていた元の姿のイメージから考えたい。
額に魔石がついている事と、尻尾が九本ある以外は普通の猫だ。
大きさは、雌にしてはやや大きめか。
色は馬でいう青毛だろう。
黒すぎて毛が青く光っていた。
此処から導きだされる名前は‥‥
「じゃあお前は今日から『三毛』だ。上杉三毛だ!」
黒猫なのに三毛とか、全然導きだせてねぇー!
仕方がないのだ。
だって転生前子猫だった頃は三毛猫だったから。
俺にはそっちの印象の方が強く頭に残っていた。
「わーい!ありがとうお兄ちゃん!私は今日からミケだね!」
「ミケちゃん‥‥よろしくね‥‥」
こうして俺たちに新たな仲間が加わった。
猫魔獣ミケ。
人型に変身すれば、見た目は獣人と変わらないし、人間の町で生活する事もできるだろう。
俺は家にミケを連れ帰る事に決めた。
この後俺たちは、ミケの仲間の猫魔獣に会い、なんとか敵意のない事を伝えて話を聞いてもらった。
ミケの説得もあり、俺も嬢ちゃんも猫魔獣たちと仲良くなれたと思う。
それで人間が来た時の対処方法とか、人間を殺さないで欲しいという事も伝えた。
対処方法は、主に『逃げろ』か『人型に変化してお話しよう』というものだ。
それでも襲ってくるような人間は、もうどうにもならないので好きにしてもらってもいい。
その代わり、俺たちの町で『猫魔獣は襲ってこないから仲よくしよう』という話を広めるという事で交換条件は成立となった。
帰りは北の森の霧の中を通り、東のゾンビたちとも遊んでから帰った。
東の森は気持ち悪いから、もう二度と行きたくないと思った。
さて帰ってきた俺達は、姐さんと朝里ちゃんにミケを紹介した。
「今日から一緒に暮らしたいんだけど、良いかな?」
俺や嬢ちゃんなら問題ないが、おそらく姐さんよりも強いわけで、魔獣と一緒に暮らすのは不安だろう。
だから一応確認を取る必要があった。
でもそれは余計な心配だったようだ。
「まあ可愛い~!ねぇ!この子頂戴!可愛すぎる~!ミケちゃんっていうのね。お姉さんの所に来ない?」
「私はお兄ちゃんが大好きだから、お兄ちゃんと一緒にいるのぉ~」
可愛い事言ってくれるなぁ。
でも流石に女の子と一緒の部屋もまずいだろうし、ミケには俺の部屋の向かいの部屋を使ってもらう事にした。
二階の部屋は全部で八部屋ある。
俺の隣の部屋には朝里ちゃん、その隣が嬢ちゃん、その隣が姐さんといった感じで埋まっている。
その向かいの部屋は全て空き部屋だったが、俺の向かいがこれで埋まる事になった。
ただこの日だけは、俺とミケは一緒のベッドで寝た。
猫に戻ったミケを抱きしめて布団に入った。
ちなみにこの日狩りまくった猪鹿魔獣は、次の日ドラゴンに届けた。
ドラゴンにはかなり好評で、俺たちも食べるよう勧められたが、俺は遠慮しておいた。
嬢ちゃんはあまり気にしない性格なので、一応焼いてはいたが食べたようだ。
美味いと言っていたので、今度機会があれば挑戦するかもしれない。
猫魔獣が安全な魔獣で、仲良くするべきであるという事も、次の日からギルドの掲示板に張り出しておいた。
あくまで東の森の猫魔獣だけだけどね。
東の森へ行く冒険者には、その辺り毎回説明する事になる。
そして猫魔獣討伐のクエストは、説明して全て却下させた。
ギルドとしては痛手かもしれないが、この依頼を成し遂げられる冒険者も皆無なので、依頼手数料が取れないくらいの損失だ。
それ以上に猫魔獣が襲ってこないメリットの方が大きいだろう。
更にミケがギルドにいる事で、バカ冒険者の対応も楽になった。
こんな子供に負けたら、流石に自分がバカだったことに気づくというものだ。
ミケは俺と一緒にいるから、ギルドの手伝いも喜んでしてくれた。
おかげで職場が明るく和む場所へと変わった。
ミケと出会えて本当に良かった。




