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チートな冒険者ギルドの受付嬢  作者: 秋華(秋山 華道)
チートな冒険者ギルドの受付嬢
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魔王城と悪魔たち

みんなと一緒に住む事になったので、今日からはパンツ一丁で部屋を出て歩くわけにもいかなかった。

歯を磨き顔を洗うと、俺は服を着る。

俺の持っている服はどれも似たようなものばかりだ。

なんせギルドで働く人は、ある程度着る服が指定されているからだ。

男性は『一見したところ執事服のような』女性は『一見したところメイド服のような』恰好をしなければならない。

これは、冒険者が一目で『ギルドの職員だと分かる』ようにする為だ。

俺は特に服装にこだわりはない。

前世では高校生時代、ファストフードでアルバイトをしていたが、店の制服を普段着同様に着て遊びに行ったりもしていたくらいだ。

制服で出歩くのにも抵抗はないのだ。

だから俺は、指定されたような服ばかりを揃えておいた。

身だしなみを確認し、俺は部屋を出た。

するとそこには、朝里ちゃんが眠そうな目をこすりながら立っていた。

「って朝里ちゃん、そんな恰好で廊下に出てきちゃ駄目でしょ!」

朝里ちゃんは下着姿のままだった。

おそらく寝ぼけているに違いなかった。

「ん?おはようございます南さん。良い朝ですね」

普通に挨拶を返されてしまった。

普通なら『キャー痴漢!』とか言われて適当な物を投げつけられるようなシーンではあるが、朝里ちゃんは普通に部屋へと戻って行った。

トイレに出ていたのだろうか。

しかしトイレは部屋にもあって、特に廊下に出る必要はない。

共用トイレもあるわけだが、もしかしたらまだギルドの部屋での生活が抜けていないのかもしれない。

俺はそう思い込んで、とりあえずは見なかった事にした。

階段を下りて一階へと来た。

ギルド側を魔改造した際、ギルドとは二階と一階両方で繋げた。

だから通勤は一階からの方が楽だ。

俺はそのままギルドへ行こうとしたが、何やらいい匂いが漂ってきて足を止めた。

そして匂いにつられるまま、俺は食堂へと歩いていった。

食堂には、四人分の朝食が並んでいた。

「おはよ、南」

姐さんだった。

「おはようございます。この朝食どうしたんですか?」

俺は素直に疑問を口にした。

「どうしたって、私が作ったに決まってるでしょ。部屋を貸してくれてるお礼に、朝食だけは私が作ってあげるわ」

少し照れ臭そうな顔が、少し可愛らしいと思った。

「あ、ありがとうございます。それにしても凄いですね」

これも素直な感想だ。

俺が今まで生きてきた中で、これほどの朝食は見た事がないというくらい豪華に見えた。

俺には前世の頃から両親がいない。

生まれてすぐに亡くなったようなのだ。

それでばあちゃんに育てられたのだが、ばあちゃんは忙しくて朝食を作るような人ではなかった。

そんなばあちゃんもついこの前に亡くなって、少しの遺産を引き継いでお金に困るって事は無かったけれど、結局生まれてこの方まともな朝食を食べた覚えはない。

ばあちゃんと一緒に暮らしている時でも、せいぜいトースト2枚といったくらいだ。

だから今目の前にある朝食を改めて見て、俺は少し涙が出てきた。

「何‥‥泣いてる‥‥の?」

嬢ちゃんが俺の顔を覗き込んできた。

「おはよう。いやね、こんなに豪華は朝食を見るのは初めてでね。嬉しくなったんだよ」

そういうと、姐さんは少し嬉しそうだった。


朝は四人揃っての朝食だった。

本当は出勤時間も近いしゆっくりしている時間は無いのだが、昨日の俺の仕事ぶりから、まだ大丈夫と姐さんは判断していた。

「今更なんですが、このギルド、俺がいなくてもなんとかなったんじゃないですか?」

なんとなくそんな事を思って俺は声にだしていた。

姐さんもそれなりに強いし、朝里ちゃんはかなり強い。

あんなバカ冒険者くらいなら、余裕でなんとかできるレベルに見えた。

嬢ちゃんは言わずもがなだ。

「昨日聞くまで知らなかったのよ。嬢ちゃんがそんなに強いなんて」

まあ魔力を見て強さを知っていたら、恐怖で動けない人がほとんどだろう。

だから知らなくて当然だとは思うが、朝里ちゃんはもう二年もギルドで一緒に働いているわけで、その辺り知らないのは謎である。

「でも朝里ちゃんもかなり強い‥‥」

俺がそこまで言った時、朝里ちゃんの顔が般若のように怖いものに変わっていた。

もしかして、強さを隠すにはよっぽどの理由があるのだろうか。

人のプライバシーは大切にしなければいけないよな。

うん。

俺はごまかした。

「強い事はないかもだけど、ギルドで働くくらいだから、多少は戦えるんだよね?」

ふぅ~

なんとかごまかせただろう。

俺は心の中で汗をぬぐった。

「そりゃ朝里ちゃんだってギルド職員の採用試験で合格しているわけだしさ、そこそこやれる事は知ってるわ。でも昨日みたいな冒険者が来たら、流石にねぇ‥‥」

朝里ちゃんはどうやら採用試験では手を抜いていたようだな。

きっと合格ギリギリのラインを調べて、それに合わせたに違いない。

「朝里ちゃん‥‥昨日の‥‥冒険者なら‥‥小指だけでも‥‥勝てる‥‥よね‥‥」

空気を読まない嬢ちゃんキター!

この話を俺が出してしまった時点で、もう隠し通せる話ではなくなっていたのだ。

「いえ‥‥わたくし‥‥あの‥‥その‥‥」

朝里ちゃんが嬢ちゃんのように話していた。

ゴメンね朝里ちゃん。

「私も‥‥今日から‥‥ガツンとやるから‥‥朝里ちゃんも‥‥一緒に‥‥やろうね‥‥」

もうごまかせないと朝里ちゃんも諦めたようだ。

素直に頷いていた。

「朝里ちゃん、そんなに強かったの?」

「多少、剣術と魔法には心得があるだけです。あの冒険者の百倍程度の強さなら問題ないですが、本当に多少ですので、期待はしないでください」

そういう朝里ちゃんは何故か俺を睨んでいた。

つか百倍程度とかもう全ての冒険者に対応できるんじゃないかな。

それに何故そこまで隠す必要があるのだろうか。

食事の後、朝里ちゃんは俺とすれ違いざまに『貰い手が無い時は責任とってくださいね』と耳打ちしてきた。

全身に鳥肌が立った。

な、なるほど。

おそらく過去に、その強さ故男から恐れられたり避けられたり逃げられたりしたのだろう。

でもそれ、性格が一番の問題だったんじゃないだろうか。

まだこの世界の強さのレベルってのは分かっていないけれど、少なくとも昨日ギルドに来た冒険者の誰よりも朝里ちゃんの方が強そうだ。

このセカラシカの町に来る冒険者はレベルが高いと言われているわけだし、そう考えると朝里ちゃんも規格外の強さと言えるのかもしれない。

何にしても、朝里ちゃんにいい相手が見つからない時は、黙って責任を取ろうと思った。


ギルドに行くと、併設されている酒屋のおやっさんが話しかけてきた。

「いやぁ~!いきなりこんな事になるなんて思ってなかったわ!」

「ですよねぇ」

いきなりこんな魔改造されるとは、流石に思っていなくて当然だ。

昨日の夜に許可をもらって、閉店後すぐだもんなぁ。

俺も驚いたわけだし。

「でも厨房も二階の寮も全部最新設備になったし、建物自体魔力によって頑丈になってる。冒険者が暴れてもこれなら大丈夫そうだ。ありがとよ!」

「いえいえ、礼なら嬢ちゃんに言ってやってください」

「おおそうか。嬢ちゃん!ありがとよ!」

嬢ちゃんは照れた顔で頷いていた。

それにこれだけの魔改造は、魔法が使えてもできる事ではない。

魔法は無から何かを生み出すものではないのだ。

魔改造に必要な原材料は必要だし、魔力によって制御するのも、常に魔力を供給できるだけの魔石が必要になってくる。

魔石は転生前の世界の蓄電池みたいなもので、魔力をためておく事で使う事ができる。

ここから供給される魔力によってすべてが制御されているわけで、飲み屋の厨房ともなれば、そこそこ数も必要になってくるのだ。

それを全部無償でプレゼントしてくれたようなもので、嬢ちゃんには感謝してもし足りないくらいだろう。

ちなみに魔石の中の魔力がなくなると、再び魔力を供給するか、魔力の入った魔石と交換する必要がでてくる。

一般家庭の人たちは、当然交換して使う人の方が圧倒的に多いが、飲み屋のおやっさんは冒険者相手の商売をしているだけあってかなり強い。

だから自分で魔力供給はできるだろうから、魔改造にデメリットは全く無かった。


開店準備も終わり、二日目の仕事のスタートだ。

仕事が忙しいのは、正直朝のこの時間だけである。

後はぽつぽつとやってくる冒険者を相手するだけ。

それだけで普通の一般住民が得られる収入の倍以上の報酬が貰えるのだから、仕事としては全く不満はなかった。

これもある程度の能力あってのものだろうが、ちょっとおいしすぎる。

だいたい依頼料の三割がギルドに入ってくるとか、ぼったくりレベルだとも思う。

でも割と経営がギリギリなのは、この地の仕事のレベルはやはり高くて、ちゃんとクエストを完了できる割合が低いからだ。

集まってくる冒険者は確かに他よりはレベルが高いだろうが、少し高い程度でこなせるほど、この町のギルドに集まる依頼は甘くなかった。


そんなわけで本日午後からは、嬢ちゃんと二人で外回りに出る事になった。

外回りとは、自ら素材や魔石集めをする事である。

「冒険ができるぜー!」

俺は冒険者気分が味わえる外回りに出るという事でテンションが上がっていた。

「そんなに‥‥冒険‥‥したかった‥‥の?」

「あたぼうよ!俺が何のために転生‥‥もとい!この世界に生まれてきたか。それは冒険する為なのだよ!」

横で何故か嬢ちゃんが拍手していた。

でも悪い気分ではない。

気分はますます盛り上がってきた。

「じゃあ‥‥これ‥‥持ってくれる?」

嬢ちゃんに指示されたのは、酒樽が六個も入った箱を持てという事だった。

いやね、俺だから持てるのは持てるけど、普通こんなの持てないだろ。

そんな事を思いながら、俺は軽く片手でそれを持ちあげた。

「流石‥‥南ちゃん‥‥これを‥‥そんなに軽々と持ち上げた‥‥人‥‥見た事‥‥なかった‥‥」

そりゃそうでしょうとも。

これ、四斗の樽だから、総重量五百四十キロにもなる。

相撲取りを二人片手で担ぐようなものだ。

この世界には魔力があるから、持てる人はそれなりにいるとは思うが、決して軽いものではない。

「今日は‥‥魔王城に‥‥行くから‥‥」

「えっ?」

今なんてった?

魔王城?

これってもしかして二人で魔王を討伐に行くって事だよね。

嬢ちゃんがいるから大丈夫だとは思うが、俺はドキドキしてきた。

でもなんでこれだけの酒がいるんだろうか。

トラップに使うのだろうか。

或いはこれを魔王城にぶっかけて燃やすのだろうか。

何にしても俺は、酒を持って付いていくしかなかった。

「つか!ついていくのがやっとなんだけどー!こんな酒もってついてこいとか、無茶苦茶だー!」

そう言いながらも俺は必死に嬢ちゃんについていった。

魔力を使って、とにかく猛スピードで走っている感じだ。

時速百キロは超えているのではないだろうか。

マジでヤバい。

嬢ちゃんの頭がヤバい。

でもそれについていけている俺も大概ヤバかった。

そんなスピードで一時間、魔王城が見えてきた。

かなり大きかった。

嬢ちゃんに色々聞きたいのだが、このスピードで走る中では流石に喋れなかった。

「じょ、じょ、嬢ちゃーん!」

結局、魔王城の入り口まできてしまった。

遠くから見た時は『城があるなぁ』くらいの感想だったが、とにかくでかい。

この城自体がどうやら悪魔たちの町になっているようだ。

「嬢ちゃん、こんな真正面から堂々と‥‥どうすんの?見つかったらヤバくね?」

俺は見つかりそうで気が気じゃなかった。

「ん?見つかってる‥‥よ?」

えっ?

もしかして堂々と正面突破っすか?

嬢ちゃんならアリかもだけど、俺はどうしたらいいんでしょうか。

心の中の言葉が敬語になっていた。

「魔王ちゃーん!‥‥開けてー!」

嬢ちゃんとは思えない大きな声だった。

「って、何やってんの嬢ちゃん!」

俺はもうだいたい分かってきていたが、それでも心臓に悪かった。

ゆっくりと門が開いてゆく。

そして中から沢山の悪魔と思われる人たちが出てきた。

「嬢ちゃん!久しぶり!」

「おっ!今日はボーイフレンドも一緒かい!」

「酒を持ってきてくれたんだね。いつもありがとうよ」

悪魔たちが嬢ちゃんにフレンドリーに接していた。

つまり、嬢ちゃんは悪魔たちとお友達という事だろうか。

それで悪魔は討伐対象じゃないとか言っていたのか。

魔王討伐の依頼がないのも納得できた。

これなら悪魔が町に悪さしにくる事もないだろう。

悪魔たちは皆、良いヤツに見えた。


俺たちは中へと案内され、宴会場のような所へ通された。

「みんな‥‥いつも人間が‥‥迷惑かけて‥‥ごめんね‥‥」

「良いって事よ。嬢ちゃんが本気になれば、わしらなんて瞬殺されるんだしさ。生かしてもらっていると思えばどうってことねぇ」

確かに悪魔たちの言う事も頷ける。

悪魔たちはみんな強いし、魔王はかなりのものだが、嬢ちゃんに比べればアリンコレベルだった。

「そんな事‥‥しない‥‥みんな‥‥友達‥‥」

「嬉しい事言ってくれるな。俺も嬢ちゃんと友達になれて嬉しいよ」

こいつが魔王か。

噂に聞くのとまったく違う。

角は生えてるし羽もあるけど、気の良い人間の兄ちゃんと大して違いはない。

そして何より、嬢ちゃんと本当に友達だという事が伝わってきた。

「おら、嬢ちゃんの彼氏も飲みなよ」

悪魔の一人が、俺になれなれしく接してきた。

肩を組んで酒を煽っている。

確かこっちの世界では、酒は十五歳以上だったな。

俺は遠慮なく出された酒を煽った。

「カー!うめぇ!」

やたらと美味い酒だった。

こいつらとなら、なんだか仲良くなれそうな気がした。


二時間ほど飲んで騒いだ後、俺たちは帰る事にした。

「またきてくれよ!」

「ああ。おまえら最高だぜ!困った事があったら俺も手助けしてやるから、なんでも言って来いよ!」

すっかり俺もマブダチ気分だった。

「じゃあね‥‥みんな元気で‥‥ね」

「嬢ちゃん、コレ、持ってってくれ」

魔王が嬢ちゃんに渡した物は、大きな魔石だった。

「これは亡くなった同胞から取った魔石だ。こいつらも嬢ちゃんに使ってもらえるなら喜ぶだろうから、貰ってはくれないか」

悪魔の魔石。

それはとにかくメチャメチャ高価だ。

レアな魔物や魔獣を除いて、最も大きな魔石はドラゴンである。

だからドラゴンの魔石はとても高価だ。

しかし質としては悪魔の魔石が一番で、最も高い値段で取引されている。

「うん‥‥ありがと‥‥大事に‥‥使わせてもらう‥‥よ」

「こちらこそありがとう」

形見とも遺骨とも言える魔石を、嬢ちゃんに使ってもらう事が幸せとか、ちょっと泣けてくるじゃねぇか。

「じゃあな嬢ちゃん!」

「バイバイ‥‥」

俺たちは分かれを惜しみながら、魔王城を後にした。

少し日が傾き始めていたので、俺達は全速で帰った。

酔っていて少しヤバかった。

だけど嬢ちゃんは全く平気そうだった。

どうやらメチャメチャ酒に強いのな。

ギャップに少し笑みがこぼれた。

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