家族の家
夕方、俺は受付をしていた。
「ドクトカゲ用薬草壱キロ、はい。確かにありますね。こちらが報酬になります。こちらがギルドカードです。お疲れ様でした」
薬草は袋に入れて、とりあえず此処に置いておけばいいかな。
「次お待ちの方、どうぞ」
次に待っていたのは、午前中嬢ちゃんが洗脳して追い返した男だった。
全くめんどくせえなぁ。
「まだ魔王討伐依頼は入ってねぇのか?ちゃんと調べてねぇんじゃないのか?」
「いえ、そんな事はありません」
確かに冒険者としては、そういった仕事はチャレンジしてみたいものだとは思う。
でも不思議な事にそんな依頼は全くないんだよね。
このギルドで取り扱っている依頼の中で九割は北の森でやるものばかり。
薬草集めはその中心で、後はモンスターから取れる素材集めと害獣の駆除、魔石集めで占めている。
害獣駆除は、その魔物や魔獣に付いている魔石を持ちかえる事で数が確認される。
他は要人警護や他の町に行くまでの護衛、雑用諸々である。
ちなみに素材や魔石は買取も行っているので、めぼしいクエストが無い時は、とりあえず狩りに行くのも冒険者の仕事となっていた。
「ふざけるなよ!俺はその為にこの町にきたんだ。既に1週間いるが、一向に依頼が入らないとはどういう事だ?」
男はまた、俺の胸倉を掴んできた。
「そんな事を言われましてもねぇ。それとこの手、放してもらえませんか。ギルド職員は治安維持の為、状況に応じて警察権限が与えられています。これ以上すれば逮捕させていただきますよ」
俺がそういうと、男はニヤリと笑った。
まあ俺は魔力を隠しているから、弱いと見られているのだろう。
でもギルド職員がそんなに弱いわけないじゃないか。
嬢ちゃんや朝里ちゃんは、そこそこの魔力を見せながら抑えているらしいが、俺はほぼ一般人レベルまで抑えている。
だからバカにされているのだろうが、普通ならそこで逆に変だと思う所だろ?
俺にこんな事してくるヤツってのは、バカの中のバカって事なんだよね。
「やれるもんならやってみろやー!」
男はいきなり殴りかかってきた。
既に俺は自分の強さを理解している。
楽勝で止めてやってもいいのだが‥‥
俺は黙ってパンチを顔面にくらってやった。
男はニヤリと笑ったが、次の瞬間驚いていた。
俺が全くノーダメージであるという事が分かったからんだ。
「気が済みましたかお客さん。そもそもあなたのようなレベルの冒険者では、魔王討伐なんて無理だと思いますよ。北の森に入っただけでも生きて帰ってこられるかどうか。悪い事はいいません。別の町でもっと簡単なお仕事をお探しする事をお勧めします」
俺がそういうと、男は顔を真っ赤にして怒っているようだった。
近くででこのやり取りを見ていた者は、クスクスと笑い始めた。
どうやら他の冒険者は分かっているようだった。
この男はまあそれなりには強いが、魔王を倒せるようなレベルではないという事を。
「くそ!覚えてろよ!」
男は俺の胸倉から手を放し、そのままギルドを出て行った。
ギルド内に拍手が湧き上がっていた。
あいつ、他の冒険者からも嫌われてるんだな。
今日の仕事は終わった。
長い一日と感じる所も有ったが、特に疲れてはいなかった。
「お疲れさま。所で南、ちょっと話があるんだけどいいか?」
「なんすか?」
初日の仕事だったし、駄目だしでもされるのだろうか。
「朝里ちゃんと嬢ちゃんの事なんだがな。二人ともこのギルドで寝泊まりしているのは知ってるな」
『知ってるな』とか言われても、それ初耳なんですが。
「いや知りませんでしたが‥‥それがどうかしたんですか?」
とりあえず言いたい事が分からないので聞いてみた。
姐さんは少し言いにくそうにしていたが、直ぐに笑顔になって俺の肩に手を乗せた。
「このギルドにはそもそも人が住めるスペースはない。私だけでも無茶していたりする。だから二人には物置で寝泊まりしてもらっているんだ」
へぇ、そんな事になっていたんだ。
「だからどうしたんですか?」
俺は嫌な予感が少ししていたが、まだ言いたい事がハッキリと分からないので更に聞いてみた。
「おまえ、このギルドの裏の家に住んでるんだよな。一人で。いい家だよなぁ」
なんとなく話が見えてきた。
俺はこれ以上聞いてはいけない気がして、さっさと帰る事にした。
しかし俺の体の動きは、肩に乗せられた手によって阻まれていた。
「この二人、一緒に住まわせる事はできないか?部屋は余ってるよな。あんなでかい家だもんな」
おいおいこの姐さん、何をおっしゃっているのだろうか。
確かに部屋が余っているのだから、そこを使わせてくれというのは分かる。
しかし俺は年頃の男で、二人は年頃の女の子だ。
俺が許しても、きっとそこにいるお前らは許さないだろう。
「ただとは言わん。ちゃんと給料に、チョッピリだけは上乗せする。私も今のままだと申し訳ないのだ」
「そんな事を言われても‥‥」
さてどうしたものか。
部屋は余っている。
女の子二人とは言え、そもそもアパートのように作られた建物だから、トイレや風呂など部屋ごとに有ったりもするわけで、その辺りは問題ないだろう。
それにそもそもこの家は、転生後デフォルトで手に入れたものだ。
設定によると、飲み屋を受け継いだ俺が、飲み屋を売って、そのお金で買ったという事になっている。
でもそれは事実ではない。
この世界では真実だが、ぶっちゃけ俺の家だという感覚はないのだ。
おそらくそうなるように最初から決まっていたようにも思う。
アパートのように部屋が分けられているわけだからね。
まあお金も出すって言っているし、良いかなと思った。
「分かりましたよ。好きにしてください」
俺の言葉に、姐さんは本当に助かったと言わんばかりの表情をして嬉しそうだった。
「そういうわけだ。おまえたち、これからはようやく普通の部屋で生活ができるぞ!」
姐さんがそういうと、朝里ちゃんも嬢ちゃんも割と嬉しそうにしているように見えた。
そんなわけで、俺は二人を連れて家に帰ってきた。
帰ってきたと言っても裏だ。
道を少し大回りする事になるが、一分ほどしかかからない。
俺は家のドアを開けて中に入った。
「ココ玄関ね。俺は二階の奥の部屋使ってるから、他に空いている部屋は好きに使っていいよ」
俺はそれだけ言って部屋に戻ろうとした。
すると嬢ちゃんが俺の袖を掴んでその場に留めた。
「ん?どうした嬢ちゃん?」
「あの‥‥お礼に‥‥この家‥‥もっといい感じに‥‥改造して‥‥あげる‥‥いい?」
どういう事だろうか。
確かにこの家はいい家だと思うが、少し古いし多少不便な所も有ったりする。
部屋にトイレと風呂があるくせに、何故か調理場が無くて共通だったり、水は自力のくみ上げ式だ。
最近の家は魔法制御されていて、前世に近い快適な家も多いらしい。
見た事はなく、追記された記憶による話だけどね。
ちなみにギルドも古いままのタイプである。
「まあ、いい感じにしてくれるなら、好きにしていいよ」
工事するにしても急には無理だろうし、細かい事は後日相談すれば問題ないだろう。
さてそろそろ部屋に戻ってゆっくりするか。
そう思った時、建物が大きく揺れた。
「えっ?何してんの?」
嬢ちゃんから魔力があふれ出していた。
魔法で何かをしようとしているのは分かる。
だがそんな事したら、この家がどうなるのか。
「魔法で‥‥この家を‥‥改造‥‥」
嬢ちゃんの魔法が発動した。
辺りは光に包まれ、建物の振動は大きくなり、しばらくその状態が続いた。
「大丈夫か!?朝里ちゃん!」
俺は咄嗟に朝里ちゃんをかばった。
「ええ、大丈夫です。しかしこれは一体‥‥」
朝里ちゃんは知らなかった。
嬢ちゃんが凄い魔力を持っている事を。
驚くのも無理はない。
とにかく俺は朝里ちゃんをかばいつつ、状況が落ち着くのを待った。
しばらくして揺れは収まり、ゆっくりと視界も戻ってきた。
「これは‥‥」
そこは、今までと全く違う家の中になっていた。
「南ちゃんの‥‥部屋の中は‥‥なるべくそのままに‥‥しておいたよ」
「そう、それはありがとう‥‥」
しばらく俺は呆然と建物内を眺めていた。
その後俺は、建物内がどう変わったのか調べていった。
俺の部屋の中はだいたい同じだったが、トイレや風呂は現代風に、魔力制御された物へと変わっていた。
小さなキッチンも追加されていた。
他の部屋からは風呂が無くなり、少し部屋が小さくなっていた。
と言っても二十畳くらいはある広い部屋だ。
こちらもキッチンが追加されている。
そして部屋を削ったスペースを合わせて、大きな風呂が作られていた。
当然全て魔力制御してある立派なものだった。
一階の台所も現代風にバージョンアップし、応接室、客室、食堂、なども綺麗になっていた。
そして最も変わっていたのが‥‥
「これ大丈夫かな?」
「これで‥‥すぐに‥‥ギルドに‥‥行ける‥‥」
嬢ちゃんは、ギルドの元々自分が住んでいた部屋と、この建物を繋げていた。
ドアを開ければ、そこからギルドへと行く事ができた。
向こうから、慌てた姐さんがやってきた。
「誰?ここは‥‥」
姐さんと目があった。
そりゃ驚いて走ってくるよね。
誰もいないはずのギルドの二階で人の喋り声が聞こえてくれば。
「何してんのこれ?」
「あー‥‥嬢ちゃんに聞いてください」
俺は嬢ちゃんに全て投げた。
「ギルド‥‥すぐに行ける‥‥姐さんも‥‥こっちに住んだら‥‥いいと思う‥‥」
嬢ちゃんが俺に同意を求める視線を向けてきた。
朝里ちゃんは笑顔で答えてくれるだけだった。
「まあ、姐さんがこっちに住みたいなら、一緒でもいいんじゃね?」
こうして俺達は、嬢ちゃんによって魔改造された家に住む家族となった。
ちなみに嬢ちゃんんが作った家なので、セキュリティは万全だった。
この後更に飲み屋にも許可を得て、ギルド側の建物も魔改造された。




