神に感謝を?!
死んだかと思われたジジイは、まだ生きていた。
「まさか‥‥わしが負けるとはのぉ」
「まだ生きていたのかジジイ。じゃあとっと殺っておくか」
俺はろくに魔力も残っていない生命力の消えそうなジジイに、とどめをさそうと腕を振り上げた。
「ちょっと待て‥‥わしを殺すと‥‥この世界がいずれ崩壊するぞ。貴様に勝利なぞ初めから無かったのじゃ‥‥」
はっ?何を言ってるんだこのジジイ。
相変わらず意味が分からんわ。
俺は有無をいわさず、顔面が潰れるくらい強烈なパンチを食らわせた。
「うぐっ‥‥」
あっけなくジジイは死んだ。
さて、俺が死体を見ていると、思った通り魂がでてきた。
やっぱそうだよな。
神様とはいえ、魂はあるようだ。
魂があるって事は生きているって事だ。
浄化された魂は天国に行ってしまうのかもしれないが、結局天国で生きているわけで、まだこの世界に魂があるのならこの世界に生きている。
生き返らせる事を、俺は『蘇生』だとか『リザレクション』だとか、ゲーム知識で言ってはいるが、正確に言うなら言葉の意味が少し違うのではないだろうか。
今いる世界に、肉体の器を確保する事に過ぎない。
まあでもそれを蘇生とかリザレクションとかいうのなら、それはそれで間違ってはいない。
「リザレクション!」
俺は蘇生魔法を発動した。
ジジイの潰れた顔は元に戻り、魂は体へと戻って行った。
「ジジイはこれからこの世界をずっと守っていけ!そして俺の望まない事はするな。それ以外は自由にしていい。これは命令だ!」
俺がそういうと、ジジイの額にあった従属の印が光り、そして見えなくなった。
これで俺の命令は、ずっとジジイを縛り続ける事になる。
ジジイが目を覚ました。
「なんて事をしてくれおるんじゃ。わしはようやく死ねたんじゃぞ?」
「この世界はジジイが作ったんだろ?だったら最後まで責任を持て。今までの罪もちゃんと償ってもらわないとな」
「この世界が崩壊するとは言ったがの、お前さんは既にこの世界を動かせるだけの力を持っておるのじゃぞ。どうとでもできたものを」
そんな事は、この力を手に入れた時に気づいていたさ。
でもなジジイ。
それを一人でやる辛さは、さっきまでのジジイが教えてくれていたじゃないか。
もしも俺一人でこの世界を支えて行ったとしたら、千年二千年後に、俺もお前みたいになるのかもしれない。
俺はそんな自分になりたくないんだよ。
だったらみんなで楽しくやった方がいいじゃねぇか。
嬢ちゃんだって、朝里ちゃんだって、もうすぐその域に達するだろう。
もうすぐと言っても、何百年とかかるかもしれないけれど、いずれはそうなる確信がある。
みんながいれば、死ぬまで生きるのも悪くねぇんじゃねぇかな。
「そっか。俺も神様か。じゃああっちの世界で死んでしまった可哀想な子を、みんなこっちの世界に呼んでやるかな」
「一日に何人が死んでおると思う。十万人以上じゃぞ?できるわけがなかろう」
「全員は無理か。じゃあ可愛い子だけに限定するか」
「それはわしも賛成じゃが、一々調べてられんわい」
今晩はなんかすげぇ体験をしてしまった気がするな。
一気に悟りをひらいてしまった気分だ。
「まあ何にしてもお前は命令通り好きにしろ。一度死んだんだから、この山からも出られるだろ?」
「気づいておったか」
「当たり前だ。それでもこの山が好きならこの山に残るもよし、セカラシカの町に来るもよし。ただし町に来るならこき使ってやるからな」
「それは面倒じゃの。ところで『俺の望まない事はするな』って命令じゃったが、そんなもんわしに分かる訳がなかろう」
「神様なんだろ?やればできるはずだ。やれ!」
「全く無茶な命令じゃ‥‥」
俺は倒れたままのジジイをその場に置いて、朝里ちゃんの元へと歩いた。
意識は回復していた。
「よ!大丈夫か」
「わたくしは大丈夫です。ところで私にも従属の印がついてしまいましたね。もしかして私はあなたにいやらしい命令をされてしまうのでしょうか」
朝里ちゃんはいつものいやらしい笑いをした。
此処はサッと流すに限る。
「いや?戻ったらすぐに解除してやるよ」
俺はそう言って朝里ちゃんを持ち上げお姫様だっこをした。
朝里ちゃんはちょっと残念そうな、しかしちょっと照れたような表情をした。
振り返りジジイにも声をかける。
「とりあえずついてこい!もう動けるだろ?」
「全く、老人はもっといたわるもんじゃぞ」
俺は立ち上がるジジイを確認して、町の方へと飛んだ。
町に着くと俺はギルドに寄った。
既に誰もいない時間だが、卑弥呼とミケは待っていた。
「おう、無事戻ったか。良かった良かった」
「お兄ちゃんおかえり!今日は地震が多かったのだ!」
ミケ、さっきの地震じゃなくて、きっと俺たちの戦闘で揺れてたんだよ。
俺はミケの頭を撫でた。
「ただいま」
俺は既に元気になっている朝里ちゃんを下した。
「ところで、嬢ちゃんはどうした?後ろにいる老人は誰じゃ?」
卑弥呼の質問に、俺はポケットから魂の入った魔法のカゴを取り出して見せた。
「嬢ちゃんは此処だ。ちょっと死んじまってな。まっ、これから蘇生するから安心してくれ」
「死におったのか?まさか嬢ちゃんが?誰にやられたんじゃ?もしかしてその老人か?」
「半分正解だが、細かい話は後だ。早く嬢ちゃんを元に戻してやりたい」
俺は適当に水晶から魔獣や動物の死体を取り出した。
人間を生成する為に必要な物質なんて俺には分からない。
まあこれだけ死体があればだいたい揃っているはずだろう。
「おにいちゃん、本体の無い人間を蘇生できるのだ?」
「昨日までの俺だと無理だったろうが、今ならきっとできるぞ」
俺は自分の魔力を半分ほど解放して見せた。
「うっ‥‥なんじゃこの禍々しい魔力は‥‥これは普通じゃないぞ‥‥苦しい‥‥」
「お兄ちゃんが悪魔みたいだよ‥‥」
実際は神様に与えられた魔力なんだけどな。
正確には、嬢ちゃんが神様に与えられた魔力が俺に与えられたわけだが。
でも実際の神様は清らかで清々しいオーラを身にまとっている。
なんか納得いかねぇ。
俺はジジイの頭を軽く小突いた。
「いて!何をするのじゃ!」
「いや、ジジイだけ清らかな魔力でむかついたから‥‥」
「仕方ないじゃろ。実際に人なんてほぼ殺しておらんし、逆に沢山の人を生まれさせてきたんじゃから」
なるほどなぁ。
この魔力の色は、自分の行為による命の増減で決まるのか。
つか他人を使って人を殺すのは除外なんかね。
おっといらん事をしている暇はなかった。
俺はまず嬢ちゃんの体の生成から始めた。
魔力を込め、コロポックルを作った時と同じように人の生成だ。
嬢ちゃんってどんな顔で、どんな体してたかな。
裸なんて見た事ないし、隠れていた所は正確には再現できない。
とりあえず想像で作ってみた。
「なんか、おっぱいの位置が少し下すぎやせんか?」
「しょうがねぇだろジジイ!実際に見た事ないんだから!」
「お主ら恋人にはなっておらんかったのか」
「どう見たら恋人に見えるんだ?」
「ほらこれ。この指輪を左手薬指にしとったではないか。お前からもろうたといっておったぞ」
ああなるほどね。
つか指輪はジジイが回収してくれていたのか。
ついでにブレスレットも。
忘れてたわ。
俺はジジイの手から指輪とブレスレットを奪った。
「これはそんなんじゃねぇよ。それよりもさっさと蘇生だ」
おれは水晶からスクロールを取り出した。
後は蘇生魔法と、この人の器を作る魔法を組み合わせ、スクロールに描く。
そして発動するだけだ。
「‥‥このまま魔法を発動すると、此処に嬢ちゃんが裸で復活する事になる。だから魔法は朝里ちゃんに頼むわ。ジジイ、俺たちは奥の部屋に行ってるぞ」
俺はそう言って朝里ちゃんにスクロールを渡し、魔法のカゴから魂を開放した。
すると朝里ちゃんは気にせず、すぐに魔力をスクロールに込め、魔法を発動した。
「ちょっ!おい!朝里ちゃん!俺たちがいなくなってから‥‥」
「すみません。うっかり発動しちゃいました」
朝里ちゃんはクスクスと笑っていた。
まさかこんな時までこんな事をするとか、従属の印を発動してでも命令しておくべきだったか!
そこにあった仮で作った嬢ちゃんの体は、光の中で少し変化し魂を取り込んだ。
まもなく蘇生魔法を完了した。
嬢ちゃんの体は、いきなり起き上がった。
「ただいま。なんか私‥‥体がチョッピリ‥‥成長している‥‥」
嬢ちゃんはそう言いながら、自分の胸を触っていた。
いや、今はそんな事を言っている場合じゃない。
なんか嬢ちゃんの魔力が以前にもまして禍々しく強大になってるんですが。
卑弥呼とミケは既に気絶していた。
「嬢ちゃん!ヤバいヤバい!さっさとこの指輪はめて!このままだと卑弥呼とミケが死んじゃう!」
俺は嬢ちゃんの左手薬指に指輪をはめた。
すると禍々しかったオーラは、一瞬にして清々しいオーラへと変わった。
「ふぅ~。危なかったのぉ。そうそう言い忘れておったが、嬢ちゃんは蘇生されるたびに魔力が十倍になる設定なんじゃ。だからそろそろ今回で確実に殺しておくつもりじゃったんじゃが‥‥今更言うても遅かったの」
マジかよ。
そんな設定つけてたのかよ。
このジジイ無茶苦茶やりやがるな。
こりゃもう嬢ちゃんには死なれないようにしてもらわないとヤバいぞ。
「質問です。わたくしも何やら魔力が増えている気がするのはどういう事でしょうか。しかも皆さん同様すごく嫌な感じの魔力なんですが」
そう言って朝里ちゃんは魔力を開放した。
すると以前の嬢ちゃんと同レベルの魔力が朝里ちゃんを覆っていた。
「朝里ちゃん!抑えて抑えて!死にはしないけど卑弥呼とミケが苦しむ」
「そうですか。もう少し見せびらかしたかったのですが‥‥」
朝里ちゃんは少し残念な表情を『作って』魔力を抑えた。
俺にはその表情の裏にある笑顔が見えた。
間違いなく嫌がらせだな。
「わしが魔力を与えてやったじゃろ。その状態で死んでおるから、魔力がそのまま残ったのやもしれんの」
「ジジイのせいかよ!」
俺はため息が出た。
まあ別に今更この程度の魔力を見ても、驚きもしないんだけどね。
「ところで‥‥ずっと私‥‥裸‥‥何か着るもの‥‥ないの?」
「おお!悪い悪い。とりあえず卑弥呼が着しているヤツ、一枚拝借しよう」
卑弥呼が上に着ている白い何かを剥がし、俺は嬢ちゃんに渡した。
嬢ちゃんは立ち上がり、それを上から羽織った。
それにしても‥‥
「やっぱり胸が少しだけ大きくなっていますね。それに身長も少し高くなったのではないでしょうか」
朝里ちゃんの云う通り、少し雰囲気から成長しているような気がした。
「もしかしたら魂に引かれて少し成長したのかもな」
或いは俺の魔法による追加効果かもしれない。
スクロールに描くと、少し効果がアップしたりしたからな。
「ところで、この蘇生の付属効果はなんじゃろな。その成長がそれとは思えんのじゃが」
確かにそうだ。
この世界の蘇生には付属効果が必ず付くと魔法書には書かれていたはずだ。
「たぶんそれ‥‥これだと‥‥思う‥‥」
嬢ちゃんはそういって、腕を一本胴体から外した。
「ええっ!」
「なんか色々‥‥とりはずし‥‥可能‥‥」
嬢ちゃんはそう言って手を元に戻してから、足と首を取り外した。
「こんな事も‥‥できるよー‥‥」
首だけがギルドのフロア内を飛び回っていた。
もうなんでもありだな。
そんな感じで、俺たちの長い夜は終わった。
その後の話。
セカラシカの町に、俺は神社を建てた。
そこにジジイを住まわせ、これからはこの世界の人々の為に働かせるのだ。
主な役割は、終身雇用制度からの解放。
いやね、本当はこんな設定無しにしようかと思っていたんだよ。
でもね、俺にとってはコレがあったからこそ、こんな愉快な仲間たちに出会えたわけで。
正直凄くありがたくて、『終身雇用最高』って思っちゃったんだよね。
そんなわけで終身雇用制度は継続だ。
ただ、それでもどうしても転職したい人ってのはいるわけで、それで死ぬなんてかわいそうすぎるでしょ。
そんな人には、この神社を訪れてもらって、神様の裁量によって解除できるようにした。
卑弥呼は神様から解放され、もう誰かを洗脳する事はできない。
不老の者を見分ける目だけを残し、領主とギルマスを続けている。
ミケは、神様から新しい必殺技を教わったとか。
ニャン斗聖剣だそうだ。
ギリギリセーフな名前だよな?
木刀であらゆるものを斬れるようになるとか。
まあでもミケには使い所は少ないだろうな。
朝里ちゃんに刻まれた従属の印は解除した。
どっかのアニメかなんかでは、そのまま残すような話もあったけど、こういう勘違いを生むようなものはとっとと解除しておくに限る。
別に何か繋がりが必要な関係ではないのだ。
何も無くても大丈夫だよな?
嬢ちゃんは、以前と全く変わらなかった。
魔力が十倍になってもやっている事は同じ。
時には優しく、時には冷たく、思うがままに生きている。
そして俺は、こんな仲間たちと、この世界でずっと生きていくわけだ。
いずれどこかで飽きてくるのかもしれない。
でもこの仲間たちがいれば、きっといつまでも面白おかしく生きていけそうな気がする。
こんな生活をプレゼントしてくれた神様に感謝だ。
そうか、俺は感謝していたから、あのジジイを生き返らせてしまったんだな。
「じゃあ嬢ちゃん、今日は魔王の城に酒を持っていくか」
「うん‥‥魔王さんと‥‥飲むの‥‥楽しい」
「遊びに行くんじゃないぞ?日頃迷惑をかけているお詫びだ」
俺はそういうと、結局両手に大量の酒を担いで魔王城へと向かうのだった。
まさか2部までこんなに早く書き上げるとは予定外です。
1部を書き終えた後、全く続きの話が思いついていませんでした。
とりあえず出だしだけ書いておこうと思い書くと、だんだんと話しが湧き上がってきて、この話のエンディングが見えてきました。
エンディングが見えてくると書き上げたくなってしまうんですよね。
私は、仲間が裏切ったり、ドロドロした話は嫌いです。
ラブコメみたいに女同士争うとかも嫌いです。
なるべく前向き、なるべく軽く、なるべくハッピーが大好きです。
この作品は凄く書きやすかったですね。
今までで一番楽でした。
これに味をしめて、次も少し似たような話を書こうかと思っています。
チートは再び主人公で。




