少しずつ、交流を深める ①
「ペネ、こんにちは」
「ラト君、こんにちは」
ラト君は、時々私の働いている雑貨屋さんを訪れている。
――時々ラト君と一緒にご飯を食べにいったりもした。私は外でご飯を食べたりなんてほとんどしたことがなかったから、何だか不思議な気持ちだった。
両親や弟に帰るのが遅いと少し色々言われてしまったけれど、ごまかせたから良かった。
ラト君と一緒に話すのは楽しかった。
ラト君は魔物退治のためにこの地域にやってきているけれど、幸いにも怪我などはしていないらしい。
それにしてもラト君って、騎士団に所属しているということは強いってことかな。私は戦いのことが全く分からない。魔物との戦いなどがどれだけ壮絶なのかなど、想像も出来ない。
「ラト君は、騎士としての暮らしってどんな感じなの?」
「どんなって……訓練したり、魔物と戦ったり、後は盗賊捕縛したりとかだね」
「私、魔物ってあまり見た事ないからその魔物と普段から戦っているラト君ってすごいと思うわ。ラト君たちがそうやって魔物退治をしてくれているから私たちはこうやって過ごせるんだなって思うから、ありがとうって思うわ」
私は直接的に魔物の脅威にさらされたことはないけれども、それでも私の今の暮らしがあるのはそういう私たちの暮らしを守ってくれている人たちがいるからこそなのだ。
貴族の中には、騎士たちのことを馬鹿にしている人たちもいるけれど……結局そういう人たちが居なければ私たちの暮らしは成り立たないもの。
「ははっ、そう言ってもらえると嬉しいよ」
「魔物と戦うのって怖くないの?」
「俺の場合は魔物よりも両親の方が怖いと思うからな」
魔物より怖いご両親ってどんな方なのだろうか。
凄く強くて、自由に生きているのは知っているけれども……。それにしても結構子供のころからずっと、ラト君はそういう戦いの場にいたようだ。なんだろう、ご両親が戦える人だからこそ、英才教育をされているとか、そういった方なのだろうか。
「子供時代から魔物退治をしたりしていたってすごいわ」
「ペネは逆に子供時代はどうだったの?」
「私……? 私は普通に……両親の言うことを聞いて習い事をしたり、本を読んだりしながら過ごしていただけだわ」
ラト君に私が貴族の子女であることは伝えていないので、少しぼかしながら伝える。
ラト君は私が貴族の子女で、そして出戻りした存在だと知ったらどう思うだろうか。貴族としてみれば、貴族夫人として不適合とされ、出戻りした存在なんてどうしようもない存在である。
貴族の令嬢はよっぽど特異な点がない限り、誰かに嫁いで、貴族夫人になるものである。
そして貴族夫人として子を産み、貴族夫人として一生を終えるものである。
私はそもそも子を産めないとされて、こうして出戻りしたわけで……うん、ラト君がもし貴族と関係がある人だったらどんなふうに思われるのだろうかというそういう不安もあったから。
そういえば、雑貨屋さんで会話を交わしているわけだけどオレユさんはお客さんがいない間に私がラト君と話しているのを許してくれている。
寧ろ私が誰かと親しくしているのを見て嬉しそうにしていた。
オレユさんは私のことを大切にしてくれていて、そういうオレユさんにも私は自分の事を隠している。私が出戻りの令嬢で、家だと家族からも疎まれているなんて言ってもいない。
なんだろう、貴族令嬢としての自分も、ただのペネとしての自分も私なのだけれど……それでもどちらが本当の私なのだろうかってそういう気持ちになる。
「ペネ、どうしたの?」
「ちょっと考え事をしていたの。ラト君は、本を読んだりしている? 私は時々読んでいるのだけど……」
結構、歴史などの本なども読むのも好きだったりする。
でも前の夫には、そういう本を読んでいると嫌味を言われたっけ。というか思えば私のことをほとんど放っておいたのに、何かあるとすぐに色々言われたりしていた。自由に出来ることはあまりなかったけれど、監視は結構されていたから……。
「俺も結構読むよ。どちらかというと父さんが本を読むのが好きだから。母さんは全然勉強とかしない方だけど、父さんはそういう勉強も結構しているから」
……本当にラト君のお母様ってどういう方なのだろうか。どちらかというと、男性らしい面があるのだろうか?
それにラト君のお父様は、勉強も出来て、戦うことも出来るってことだろうか。なんていうハイスペックな方なのだろうか。
「私、結構色々読んでいて、裁縫の仕方とか、あとは《炎剣帝》様の本も見るの好きだわ」
「へぇー」
ラト君は少し何か考えるような仕草で頷いていた。
ラト君もやっぱり《炎剣帝》様に対してあこがれの気持ちなどもあったりするのだろうか?
英雄である《炎剣帝》様は、色んな方の憧れの存在だ。特に騎士などの戦う職業の人たちにとっては神様みたいなものだって聞いたこともある。




