エピローグ
私は自分の家からラト君に連れ出されて、フロネア伯爵家の屋敷に一緒に連れて行ってもらった。
ラト君は私のことを好きだと言ってくれたけれど……、フロネア伯爵家っていう特別な家で私は受け入れられるのだろうかと思っていた。
でもそんなことはなかった。
私のことをフロネア伯爵家は受け入れてくれた。特に《炎剣帝》、マリアージュ・フロネア様は私を連れてきたことで、ラト君のことを褒めていた。
そしてラト君のご家族たちも、私のことを受け入れてくれた。
出戻りで、傷物で、評判がよくない私のことを特にラト君の家族は気にしていなかった。寧ろどうやら私を買おうとしていた伯爵はマリアージュ様が脅しておいたらしい。
もう二度と不幸な結婚をしないようにと、もしそれをするのならば許さないとそんな風に言ったらしい。
そもそもの話、フロネア伯爵家を敵に回そうと言う家はあまりいない。陛下とも親しくしていて、降嫁した元王女殿下とも親しくしている家だ。それでいて、伯爵家当主であるマリアージュ・フロネア様も、その夫であるグラン・フロネア様もこの国の英雄と言える存在である。
その英雄の息子であるラト君とこういう仲になるなんて人生分からないものだと思う。もちろん、私はラト君がラト君だから好きだと思ったわけだけど……何だか今でも夢を見ているようなそんな気持ちになっている。
ラト君のお姉様二人は、普段は王都にいるらしいが私に会いに屋敷にやってきてくれた。
ラト君の弟で次男であるソル君とその奥様であるケーシィさんは、娘であるシィルネちゃんと一緒に屋敷に留まっている。
ラト君の弟の三男のマヒーユ君は、今年十三歳で魔法騎士団に所属しようとしているんだとか。四男のガジュ君は十歳で、まだ未来のことを思考錯誤している最中らしい。
一番下の末っ子のヤージュちゃんは、一番マリアージュ様に似ているらしく、八歳なのに驚くほど魔法や剣を使いこなしていた。
全員が簡単に私を受け入れたのは、ラト君が私を連れて帰ってきたかららしい。ラト君のことを信頼しているからこそ、ラト君が連れてきた私のことを受け入れるんだって。
そういう家族って素敵だなって呟いたら、「もうペネも家族の一員だから」と言われて嬉しくて泣きそうになった。
一度目の結婚相手であった元夫も立場が徐々に悪くなっているらしい。というのも私はフロネア伯爵家にやってきてから、ラト君たちの力を借りてだけど久しぶりに社交界に顔を出している。
昔の……、結婚する前に親しくしていた令嬢……今は結婚して夫人になっている人たちとも交流をまた再開した。
マリアージュ様が「久しぶりの社交界って話だから、私が一緒に行く!」って言ってくれて隣にいるので、私に対して何か言ってくる人は少なかった。
中には子供が出来ない不良品って、そういう風に面と向かって言ってくる人もいたけれど、なんかマリアージュ様が「ペネと元夫は白い結婚だもの。それで色々言うのおかしくない? そもそも子供が出来ないからってそういうこと言うとか時代遅れだと思うし。私の未来の義理の娘に何言ってんの?」って怒ったらすぐにそういう声もなくなっていった。
マリアージュ様が堂々とそういうことを言っていることや、久しぶりのパーティーでの評価で少しずつ私の悪い噂もなくなっている。元夫との結婚生活は仮面夫婦だったけれど、それでも伯爵家の夫人としての教育は受けさせてはもらっていたから、それが役に立っていた。
――そんなこんなで、元夫が言っている私が子供が出来ないから離縁しただとか、元夫と今の妻の仲を邪魔していただとか、そういう噂は信じられなくなってきている。
マリアージュ様は「これでラトと子供が出来れば完璧ね!」なんて言っていた。
なんか、元夫たちを仕留めにかかろうとしている……?
そして実家も結構大変らしい。フロネア伯爵家を敵に回したと噂になっているらしく、大変なことになっているんだとか……。
「ねぇ、ラト君。何だかこうして此処で過ごしているのが私、夢みたいだわ」
思わずフロネア伯爵家の屋敷で、ラト君とお茶をしながらそんなことを呟いてしまった。
そう夢みたい。
あの家から抜け出して一人で生きていこうとしていた私が、こういった形であの家から出て……そして好きな人が傍に居てくれるなんて。
「夢じゃないよ。というか、もうすぐ結婚するんだから夢とか言われたら俺が悲しい」
「分かっているけど、こう、ちょっと実感が湧かなくて。そうよね。結婚式の準備をしているものね。私がラト君のお嫁さんなんて釣り合わないって言われるかもだけど、頑張るわ!」
「別に頑張らなくてもそのままでいいよ。どうせ母さんは殺そうとしても死なないような人間だし、伯爵家自体は誰が継いでもいいし。何も気負う必要はないから。それに俺がペネと結婚したいって言っているんだから、何か言う人は黙らせるし」
何だかんだラト君もやっぱりフロネア伯爵家なんだなぁって、一緒に過ごす時間が増えて思った。
何だろう、自分のやりたいことややりたいもののために妥協しない人。それでいて自分の大切な人に手を出されるのを許さない人。
……その大切な人の中に、私が入っていることが嬉しい。
ラト君が私を好きだと言ってくれて、一緒に居れることが嬉しい。
「ふふ、ラト君らしいわ。私、ラト君に会えたことが奇跡だと思うの。貴方に会えた奇跡に感謝しているの。ラト君のことが好きだから、出来ることから頑張るわ」
私の言葉に、ラト君が嬉しそうに笑った。
少しずつ、私が出来ることからやっていこう。
あくまで私がラト君に会えたことも、ラト君と思いが通じ合ったことも奇跡的なことなのだ。
慢心なんてせずに、自分が出来ることをコツコツやっていこう。
ラト君の隣で。ラト君と一緒に。
私はラト君が隣にいてくれるからとっても幸せだ。
完
これで終わりです。
『戦争が終わって美少年を育てた結果』のマリアージュとグランの長男の物語になります。
『冤罪をかけられ国外追放を言い渡されたので、自由に生きます。』(次男のソル君が出てくる話)でもちらっと出ていたラト君です。そちらで恋人いることにしていたのを、ちゃんとラト君の話もストーリー書きたいなとそちらの文章を修正しました。
時系列的に、戦争が終わって~、冤罪をかけられ~、伯爵令嬢は騎士様に恋してる。(長女のマリッサの話)と来てこの『出戻り令嬢は、恋をする。』になります。
離縁されて出戻り令嬢になり、子供が出来ないなんて噂されて家族からも不当に扱われているけれど、自分の将来のために行動をしようとしていたペネローラが主人公です。
さらっと書いていますが、マリアージュはペネローラをお金で娶ろうとしていた存在をとっちめてます。これ以上不幸な目に遭う人がいないように完全に脅しつけているので、これ以上悪いことはしないでしょう。
ラト君は長男ですが、マリアージュとグランががいつまでも元気で現役気味なのもあり、伯爵家は継ぐなら継ぐでいいし、継がないなら継がないでいいと思っています。
残り四人の兄妹分も書く気満々なので、良かったら読んでもらえたら嬉しいです。
ではここまでお読みいただきありがとうございました。少しでも読んで何か感じてくれたら嬉しいです。感想もいただけたら嬉しいです。
2022年3月27日 池中織奈