まるで、王子様のように ②
3/27 二話目
ラト君は簡単に、助けてって言えばいいと言う。
何も気にしなくていいと、だから本音を言えばいいと、そんな風に優しく笑う。
甘えてしまいそうになる。
縋ってしまいそうになる。
「……だって、そんなことをしたらラト君が、大変だわ」
「そういうのはいいんだって。ペネがどう思っているか、助けてほしいかだよ。第一、俺も貴族の出だし、子爵家にどうにかされるほど軟じゃないし」
「……でも」
「でもじゃなくて、大丈夫だよ。ペネが助けてっていうなら俺が全部どうにかする」
ラト君がさらっと貴族の出だと言ったことには驚いたけれど、貴族の出だったとしてもただの貴族の息子ならば、当主であるお父様や結婚相手の伯爵をどうにか出来るのだろうか。
そういう気持ちもあったけれど、あまりにもラト君が……自信満々に笑うから。大丈夫だって、ラト君に任せれば何でも上手くいくって。そんな風にすんっと心に落ちてくる。そんな風に簡単に信じさせてくれる。
ラト君は、やっぱり凄いなぁ。
「……ラト君、そんな風に言われたら私、ラト君に甘えてしまうよ。縋って、ラト君が嫌だって言っても……私、ラト君から離れられなくなるかも」
甘えて、縋って――そしてラト君で心がいっぱいになったら、ますますラト君に夢中になってしまう。ラト君は今は結婚していなくても、誰かとラト君が結婚することになっても、私はラト君の側から離れたくないって思ってしまうかもしれない。
……私ってこんなに面倒だっただろうか。こんなに誰かを好きになる人間だったのだろうか。
一度目の結婚も親に決められての結婚で、誰かに恋なんてしてこなかった。でも、今、すっかり私はラト君に夢中になっている。
「いいよ。ずっとペネは俺の傍に居ればいい。だから、助けてって一言言って?」
「……ふふ、それじゃあ、ラト君が誰とも結婚出来ないじゃない」
「ペネは結構鈍いね? ペネが俺と結婚すればいいじゃん。ペネがいいならだけど」
「え」
「俺、ペネのこと連れて帰りたいなって思うぐらい好きだよ。あ、でもペネが嫌ならちゃんと助けた後に解放するけど」
「嫌なんてそんなこと、ない。……私も、ラト君の事、好きだと思うから」
これは夢だろうか、と思いながら私はそんなことを口にする。
……それにしても、ラト君が私のことを好きだなんて。いつからなのだろうか? いつからそういうことを思っていてくれたのだろうか。それに私がもし嫌ならって無理強いもしないって、ラト君は本当に優しいんだなと思った。
私の言葉にラト君は嬉しそうに笑っていた。
「うん。じゃあ、俺はペネを連れて帰るから。助けてって、言ってね」
「うん……ラト君、私のこと、助けて。それで連れて行って」
もしかしたらこうして甘えて、縋った結果。大変なことになるかもしれない。
ラト君は助けてくれる助けてくれるって言うけれど、それが成功しないかもしれない。
――だけどそういう不安も、ラト君の笑顔が吹き飛ばしてくれる。
自信に満ち溢れていて、まるで私をこの場から連れ出すのなんて簡単だと言うほどに笑っている。
私はラト君を信じようと思った。
「ラト君って、やっぱり凄いね。どうしたいいんだろうとか、これからどうなるんだろうとかそういう不安、全部吹き飛んだんだよ。そうやって全部吹き飛ばして、ラト君を信じていれば上手くいくってそう思わせてくれて……凄いなって思う」
「ペネだってすごいだろ」
「私が?」
「ああ。一度目の結婚が失敗して離縁して、それでも前を向いているのはある意味強さだろう。そういうことがあればもっと後ろ向きになって、前を向けないものだろ。でもペネはちゃんと前を向いて、このままじゃいけないからって自分の意志で未来を切り開きたいって街に出てたんだろう。箱入りの貴族の令嬢が働こうとすることも、新しい世界を切り開こうとすることも勇気がいることだろう」
「……そうかな? お金もとられちゃったし、結局自分の力では未来なんて切り開けもしないけれど。今だってラト君に助けてもらおうとしているし」
「そうやって俺が助けようって思ったのは、ペネがそうやって自分の未来のために行動していたからだよ。自分のことで大変でも周りを気にかける優しさを持ってて、未来を切り開こうとする強さを持っているペネだから好きだなって、助けようって思ったんだから」
ラ、ラト君って、自分の気持ちを言うのが躊躇いが無さすぎない?
私は真っ直ぐに綺麗な瞳に見つめられてそんなことを言われて恥ずかしくて仕方がないよ。
でもそうやって私がやってきたことが無駄じゃなかったって、そんな風に言われたことも嬉しかった。
「そ、それよりた、助けてくれるってどうするの?」
ラト君は私を助けてくれるって言ったけれど、どうするつもりなんだろうか。
「正面突破だよ。ちゃんと正当法でペネのこと攫うから、ちょっと待っててね」
――ラト君は私の言葉に軽い調子でそう言った。