まるで、王子様のように ①
閉じ込められてから早一週間ほど経つ。
私は一か月ほど先に、伯爵に嫁がされるらしい。
――本当にこの状況に絶望しているのならば、自害するという手もある。でも私はそんな勇気はなかった。
自分の命を自分で絶つなんて、そういう恐ろしい真似は私には出来なかった。
かといって、この場から自力で抜け出すような力はない。
……でも伯爵に嫁ぐのは嫌だななんて、思ってしまう。
私は中途半端だなと自分で、自分が嫌になる。
貴族の令嬢であるならば、親の決めた結婚相手に嫁ぐことは仕方がないことなのに。
一度は自由を夢見てしまったから。
夢見てしまった自由を、私は諦めきれなくなってしまっている。
ずっと泣いていても仕方がないと、私はこれからどうにか出来ないかと考える。でも正直この状況の打開策なんて私には思いつかない。
――私に何の力もないから、私には両親や弟たちを説得するだけの言葉もない。
私の未来は確定している。
――両親や弟の決めた縁談は、私の力では覆すことは不可能だ。
私は周りの人を巻き込みたくないと思っている。
それでもこのままは嫌だと思っているので、私はどうにか部屋から抜け出せないだろうかと考える。お金がなくても、誰も頼れる人がいなくても――無謀だって言われても、逃げてどうにか出来ないだろうかと。例え逃げた先で、私の命が尽きたとしてもそれは私が自由を求めた結果なのだからそれでもいいとさえ思う。
何もしなくて、ただこの状況を享受するなんて私は嫌だったから。
さて、私が今閉じ込められている部屋は二階だ。私が窓から抜け出す可能性とかも考えていないのか、窓は開く。とはいえ、二階からの高さを降りるなんて普通に考えて難しい。
幸いにも私の家では、庭師も雇われていないから、両親と弟と、そして最近やとわれた侍女に見られないようにすれば……抜け出せないこともないとは思うけれど。
とはいえ、どうしよう?
カーテンをたらして、それをつたって降りる?
両親や弟が寝ている夜のうちにならば、降りられないこともないとは思うけれど、どうだろう。
でも夜のうちだと、真っ暗で危険なのよね。とはいっても危険だからやらないなんて言ってられないけれど。
そもそも運動神経も正直良くない私が、窓から抜け出すなんて出来るだろうかという不安もある。世間知らずで、特に得意なこともないどこにでもいる貴族令嬢である私が抜け出そうとしているなんて両親や弟は思っていないと思う。
――だから、その油断に勝機がある。
出よう、この場所から。そして私は自由を掴みたい。
そう思って窓を開く。地面を見下ろす。結構高くて怖くなる。でも扉は塞がれているし、窓からしか私は抜け出すことは出来ないのだから。
そう思いながら下を見ていたら、
「ペネ」
聞こえるはずのないラト君の声が聞こえた。
私は驚いてそちらを見る。ラト君がいた。……忍び込んだのだろうか、私と目が合うと、近くの木によじ登る。軽い身のこなしに驚いた。魔法が使えるからこの位簡単なのだろうか。
――それにどうして、ラト君が此処にいるのだろうか。
思わず「ラト君」と声をあげそうになった私にラト君は唇に一指し指をあててしーっという仕草をする。私はそれを見て思わず口を押える。
「ラト君……どうしてここに?」
「どうしてって、ペネが突然街に来なくなったから。オレユさんたちも心配していたよ」
「……オレユさんたちが」
「うん。ペネは約束をしていたのに何も言わずに来なくなる子じゃないから、きっと何かあったはずだって」
ラト君の言葉に、何だかじんわりとした気持ちになって泣きそうになった。
「それにしてもペネはスフィワネ子爵家の令嬢だったんだな」
「……ええ」
ラト君は、此処に来たということは私が離縁された傷物だってわかっているのだと思う。ラト君はそんな私を知ってどう思っているのだろうか。
――私はラト君がこうして此処に来てくれたことが嬉しい。
ラト君にまた会えたことが嬉しい。
また会えたことが嬉しくて、仕方がなかった。
だけど、はっとする。
「ラト君、此処にいたら駄目よ。お父様たちに知られたら、ラト君が、大変なことになってしまうから」
「ペネは自分が大変な目に遭っているのに、俺のことを心配しているの? もっと自分のことを考えた方がいいよ」
「……私は、大丈夫よ。私はラト君に何かあるのが嫌だもの」
私がそう言ったらラト君は少しだけ不満そうな顔をしていった。
「前も言ったじゃんか。自分一人で抱え込むことなんてせずに、周りに助けを求めればいいって。どうしてペネは一人で抱え込もうとしているの?」
「……どうしてって。私が、貴族だから。それに私のお父様たちは、容赦をするような人じゃないから。駄目だよ、ラト君。貴族を敵に回したら大変なのよ。私の結婚相手になっている伯爵だって結構力を持っているし……、私は大丈夫だから、もう帰って」
会えたのは嬉しいけれど、巻き込まない方がきっといいから。
だけど、そんな風に言った私の強がりはラト君には通用しない。
「ペネ、そういうのは気にしなくていいよ。ただ、助けてって言えばいいんだよ」
――ラト君は、私が貴族だと知ってもそんなことを言う。