決められた未来と、自覚した気持ち ①
3/26 二話目
「はぁ……」
私は思わずため息を吐いた。
あの日、ラト君は私の弟ではないと気づいて、家に帰宅した。その後から私は外に出ないようにと閉じ込められている。
何でそうなったかといえば、私の未来が決められてしまったからだ。
私の両親や弟は、出戻りの私を恥ずかしいと思っていて、私の事を使えないと思っている。傷物で使い物にもならないと。
……だけど、そんな私にも両親や弟にとっての使える機会がきてしまったらしい。
――私は、父親ほど年の離れた伯爵に嫁がされるそうだ。
両親や弟が自信満々に言っていた。
私に価値が出来たのだと。出戻りで、誰にも求められない、傷物で、子供が出来ないと言われている私にようやく価値が出来たのだと。
……その伯爵は、娘ほどの年の私を進んで娶ろうとするところを見るにろくでもないと思う。それに私を嫁がせる代わりに多額のお金を支払ったらしい。
私は貴族社会から離れているからその人の最近のことは知らないけれど、確か私が嫁ぐ前――、社交界にまだいた頃に噂を聞いたことがある。若い女性を妻にしたがる方で、事故とされているけれど私が知っている段階で一人亡くなっていて、それで新しい奥さんがいたはず。
……その奥さんが亡くなったということだろうか? それとも第二夫人とかそういう感じなのだろうか。
そのあたりはちゃんと聞いていないけれど、逃げ出したいと思っていたのに、このまま部屋に閉じ込められていたら私はどうしようも出来ない。
私には魔法の才能もなく、閉じ込められてしまったらどうしたらいいかもわからない。
私を嫁がせるためにと、伯爵家がお金を支払った代わりにスフィワネ子爵家は久しぶりに侍女を雇うことになった。その侍女の女性は、私に対して強く当たってくる。私が両親や弟から蔑ろにされていることが分かるからだろう。
「此処に置いておきますから」
それだけ言って部屋の中にご飯を置いていく。そのご飯に関しても、両親や弟の残り物のようなものである。どうやら伯爵から私に贈り物も届けられているらしいが、そのうちいくつかをこの侍女は着服しているように思えた。
……あと両親と弟は、私が街に出て働いていたことや、ラト君と仲よくしていたことをいつの間にか知っていた。
伯爵の元へ嫁ぐ話が出たから、調べられてしまったのだ。
それで思いっきり殴られてしまった。
伯爵家に嫁ぐのだから、そういう誰とも知れない男と仲よくしてはいけないみたいな、今まで私に関心がなかったくせに、急にそういう話が出てきたからって知ったからって。
「……お金もとられちゃったしなぁ」
私がこっそり溜めていた雑貨屋で働いたお金もとられてしまった。
前向きに、自分のために動こうって、この環境から抜け出して一人で生きていけたら――ってそう思っていたけれど、やっぱり私は無力なんだと実感させられた。
私よりもうんと年上の伯爵と結婚したとしても、幸せにはなれないだろう。……もしかしたら噂が間違っていて良い人かもしれない可能性もあるけれども、そんなに楽観的に考えられない。
一度目の結婚生活のような、そんな感じになるのかな。ううん、一度目の時より酷いのかもしれない。
私の一度目の結婚生活は、まさしく仮面夫婦だった。
前の夫には私以外に愛する人がいて、私のことがお気に召さなくて……だから夫婦としての関係もなかった。だからこそ、子供が出来なかったことも当然だった。私と前の夫は白い結婚だったのだから。
でも前の夫が言ったことが真実として広まっているから、私は子供が出来ない貴族としては駄目な女というレッテルで見られているんだよね。そもそも外面が良かった前の夫は私よりも貴族社会に発言力があったし。
私と離縁した後は、元から愛し合っていた女性と結婚したらしいと聞いている。それでもう子供も出来ているらしい。それは純愛だと言われていて私は思いっきり悪者というか、彼らを盛り上げるための当て馬みたいなそんな感じにされていた。
その一度目の結婚生活も色々と平穏とは言い難かったけれど……二度目の結婚を年上の伯爵とすることになれば、もっとひどい目に遭うかもしれない。
一度目はまだ、相手が私に無関心だったから、そこまで酷いことはなかった。いや、閉じ込められて放置されるって十分酷い目に遭っているかもしれないけれど……でも暴力を振るわれたり、乱暴をされることはなかった。
でも今回の結婚は、わざわざ娘ほどの年の私のことを娶ろうとしているのならば……、ろくなことじゃないと思う。弟に見せられた肖像画も……正直言って好ましくない見た目をしていた。
雇われたばかりの侍女もその伯爵についてのことを色々言ってくる。貴族令嬢でありながら、そういう立場である私のことをとても見下していて、それで優越感に浸っている様子だった。
何だか、先のことを思うと泣き出しそうになる。
決められた未来を、私は覆す力がない。
私はベッドの上で膝を抱える。
――そして泣き出しそうな中で思い起こしたのはラト君のことだった。