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ラト君は、弟ではない ②


「俺も働いているから兄妹と常に一緒に居るわけではないけれど、会った時には模擬戦をしたり、魔法の研究をしたり、あとはピクニックにいったりとかそんな感じだね。あとは下の弟と妹がやりたがっていることを一緒にやったりとか。実家に帰ったら両親も含めて遊ぶことが多いから」

「年が離れていても、そうやって仲が良いのが素敵だと思うわ。それにしてもご両親も一緒に遊んでいるのね」

「うん。特に母さんが一緒に遊びたがるから。父さんはそれにつられて一緒に混ざっているんだよ」




 子供と一緒になって、楽しく遊ぶ。

 そういう人がラト君のお母様のようだ。



 私の両親はどうだろうかと考えると、私の両親は子供と一緒になって遊ぶなんてしない。それは貴族らしい貴族である証であると言えるけれども。

 でもそういう家族仲が希薄な家族の中でも、ちゃんと家族としての愛情がある方もあるのよね。



 ……私が結婚して、離婚してとかのその間でやり取りすることもなくなったけれども、昔関わっていた友人たちの家はもっと家族が仲良かった気もする。

 そういえばそういった友人たちにも今はもう連絡を取る手段がない。手紙を子爵令嬢として出すことは、家族の目があるから出来ないし、ただのペネとして私が手紙を出しても貴族である友人だった人たちが受け取ってくれるかもわからない。



 彼女たちとは結婚した際に縁が切れてしまっているから、もう彼女たちも私のことも忘れている可能性の方が高い。

 貴族社会なんて新しいものがどんどん入ってくるものだ。それで流行を取り入れないと置いて行かれるようなものだから。

 ……私はそういう貴族社会からすっかり外れた位置にいるけれども、私も一応貴族なんだなと考えていて思い出した。





 ――ラト君は、家族たちと沢山の思い出を作っている。どこかに行く度にお土産を購入して、それを家族に渡して――そういうところでも家族仲が良いことが分かる。

 私はこの街の外に行くことなんてほとんどないから、そうやって他の街に沢山行っていて、沢山の経験をしているラト君が眩しく感じられる。




「ラト君は本当に家族のことが大好きだよね」

「まぁ、嫌いではないかな。大事な家族だから。ペネは俺が家族の話をすると嬉しそうだね」

「ええ。家族仲が良いんだなって楽しい気持ちになるから」

「それに俺と話しているのも楽しそうだし」

「……こんなことを言ったらラト君の気分を害してしまうかもしれないけれど、私ね、弟がいるの。だけどその弟とあまり仲よく出来ていなくて……、だからこそラト君と一緒に一緒に過ごしていると弟と出来なかったことが出来ているようなそんな気持ちになってしまっていて……」




 すっかり両親からの影響を受けていて、私の事を疎ましく思っている弟。私のことを家族なんて思っていなくて、私のことを疎ましく思っている。

 冷たい視線しか、私は最近向けられていない。昔どんなふうに弟が私を慕ってくれていたかも思い出せないぐらいになっている。


 ――でもラト君と過ごしていると、ラト君は弟と同年代でも弟とは違うなとは思う。けれどもラト君とお喋りをしていると、まるで弟と仲良くできているようなそんな気持ちにもなっているのよね。





 ラト君は私の言葉に一瞬なんとも言えない表情を浮かべる。やっぱり少し嫌な気持ちにさせてしまったかしら。



「あ。ごめんね。ラト君。誰かと混同しているなんて言い方、ラト君に失礼だったよね……」

「ああ、いいよ別に。ただ、ペネ」



 ラト君は笑って、向かいに座っている私に手を伸ばす。私の髪にラト君の手が触れる。こうやって誰かにそういう風に髪を触れられることは初めてで、私は少しドキリとする。



「ペネ、俺は弟じゃないよ」

「……うん、わかっているわ」




 そうだよね。弟だったのならば、こんなにドキドキしないもの。――そうよね、ラト君は弟なんかじゃなくて、一人の男の子なんだよね。



 ……それを実感したら急に何だか恥ずかしくなった。私って、一度結婚しているけれど……男性と親しくなったことって全然ない。寧ろ前の夫とはほとんど関わってもいなくて、一緒に食事なんてもほぼしていなくて……食事をしたにしても無言だった記憶しかない。



 そう考えるとこうして男の子と一緒に二人で会っていることを、食事をしていることを実感すると急に何だか落ち着かなくなった。




「え、えっと、ラト君、お金置いていくから、ま、またね」



 恥ずかしくなって、ラト君の顔を見れなくって、私は自分の分のお金を置いて、そのままそのお店を後にしてしまった。





 ――ラト君は、弟じゃなくて一人の男の子なんだなって、ちゃんと実感するまでこんなに時間がかかっていたのだ。



 次に会った時に、私はラト君にどんな顔をして会えばいいのだろうか。どんな風な態度をすればいいのだろうか。




 私はそんな気持ちでいっぱいになっていた。





 だけど――その後家に帰宅した私は、その後、街に出させてはもらえなくなってしまった。






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