私は出戻り令嬢である
「ペネローラ!! ぼさっとするのはやめなさい! 此処が汚れているじゃない!!」
お母様に怒鳴られて、私は「ごめんなさい」と口し、お母様に指摘された場所の掃除を開始する。
私の名前は、ペネローラ・スフィワネ。
スフィワネ子爵家の一人娘である。今年で二十三歳になる。
二十三歳で実家暮らしをしているものは珍しい話だ。よっぽどの事情がなければこんな年で、実家にいるのは珍しい。
「全く!! ただでさえ出戻りなんて恥をかく真似をしておきながら使えないんだから!!」
――私がこうして、実家で暮らしているのは私が所謂出戻り令嬢だからである。
私は十八歳の時に、身分が上の伯爵家の子息と結婚をした。
これは私の祖父の時代に、伯爵家に恩を売っていたかららしい。そういうわけで、婚姻を結ぶ約束をしていたんだとか。
祖父の時代には我が子爵家もそこそこ裕福だったらしい。それなりの生活は出来ていて、貴族としての体裁を保てていた。
しかし領地に起こった災害により、我が家は中々貧乏である。
伯爵家の子息との婚姻で持ち返すかと思われたのだが……、婚姻と同時に子爵家に渡されたお金に関しては両親が使い切ってしまったらしい。
私が伯爵家に嫁いだ時、両親も私を誇りだと言ってくれていた。そして弟も私に懐いてくれていた。
なのだけれども……三年経過後に私は離縁され、出戻りした。
それからは、両親も弟も私に冷たくなった。
……いえ、元から私のことを家族として愛したわけではなかったのだと思う。ただ価値のある娘だったから優しくしていただけだったのだろうというのが今では分かる。
第一、結婚生活中に伯爵家から支援はされていたのだ。
だけど両親はあるだけお金を使ってしまうような体質だったらしく、領地を盛り上げることは出来ないままにそれを使い切ってしまっていたらしい。私が伯爵家に嫁ぐまではそういう散財するようには見えなかったのだが、お金はやっぱり人を狂わせるのだなと思った。
私は子が産めない令嬢だなんて言われて、離縁された。
そして離縁された私のことを両親はまたどこかに嫁がせようとしていた。しかしである。普通に考えて、とくに目立ったところもなく、子が産めないと言われた傷物で、一度離縁されている子爵令嬢なんて相手なんぞ見つからないものだ。
私は何処にでもいるような茶色の髪と、瞳だ。見た目で騒がれるような華やかさもなく、地味である。
そして魔法の才能もそんなにない。そしてこれといった特徴などもない。
子が出来ないと言われているのは理由があるけれど……まぁ、格上の伯爵家が広めていることに対して、ただの子爵家が反論出来るはずもなく、その噂は真実として広まってしまっている。
貴族にとって、子をなすことはとても重要な事項だ。健康であることと、子が産めることはとても大事で、だからこそ私の子を産むことが出来ないと言う噂は致命的である。
あと年齢も。
既に離縁されてから二年経ち、二十三歳。
私はすっかりどこかに嫁ぐことは諦めている。
だれかの妻の席にまた座れることは……ほとんどないだろう。そういう可能性は少ない。
両親は私をどうにかどこかに嫁がせようと必死である。しかしその売込みも無駄になっている。
私はこの子爵家のお荷物として、屋敷の家事をほとんどやっている。それも散財しすぎて、使用人を雇えなくなってしまったからである。
すっかり街で買い出しなどもしている私のことを、貴族だと思うものはあまりいないだろう。
ちなみにご飯も家族と一緒に食べることはなくなってしまった。
私の顔を見ると嫌な気分になると、五歳年下で跡取りである弟に言われてしまったからだ。両親は弟を大変可愛がっている。私が嫁ぐ前はまだ懐いてくれていたのに、すっかり私のことを弟は邪険している。
嫁いでいる間に、一度も実家に帰ることが出来ていなかったからというのもあるだろう。
「……先のことを考えると、家を出た方がいいのかもしれないわ」
この頃、私は家を出た方がいいと考えている。
ただし世間知らずの貴族令嬢で、先立つものもないため、少しずつお金をためようとしている最中だ。
家のことをやらなければならないので、時間もないが、両親に内緒で少し仕事を始めている。私を雇ってくれている雑貨屋の夫婦は、私に何か事情があることを把握しているだろうが、何も聞かずにいてくれている。
……このお金も、両親や弟に知られたら奪われてしまうことだろう。
そう思うと、ばれないようにしないと! と私は必死である。
出戻り令嬢である私の未来は、決して明るくはない。
だけど、少しずつ自分の未来について考えて行こうとしているのだ。
一歩ずつでもいいから、将来のために動くことは無駄ではないはずだから。
※「戦争が終わって~」「冤罪をかけられ~」などと同じ世界観の物語です。