サインボード
つまらない話ですが、少しの間お付き合いください。
F1実況といえば、この人ニヤケさん。以後【ニヤケ】
【ニヤケ】「現在15周目を迎えました、イタリアグランプリ。最終コーナーから深紅のマシンがストレートを駆け上がります。」
F1解説といえば、他の追随を許さないイヤミヤさん。以後【イヤミヤ】
【イヤミヤ】「このモンツァ(注、イタリアグランプリの開催サーキット名、フェラーリのお膝元)の雰囲気がたまりませんね。スタンドがティフォジ(注、熱狂的なフェラーリファン)で真っ赤です。」
【ニヤケ】「もの凄い声援で、自分の声もよく聞こえません。まあ、ティフォジの気持ちも分かりますけどね。」
【イヤミヤ】「そうですね。今日フェラーリが勝てば、あの【皇帝】以来ですから、応援にも力が入るのも、無理はないですね。」
新進気鋭のF1パイロット、名門復活の鍵を握る、イタリア期待の新星パオロ・メアッツア。以後【メアッツア】
【メアッツア】「おい……、おい!」
若手の大抜擢など大胆な手法でF1覇権を狙うフェラーリの智将ヴィットーリオ・アントニウス。以後【アントニウス】
【アントニウス】「あん?サインボードが見えなかったのか?5.6アンダー(注、2位と5.6秒のリードを保っているということ)だ。」
【メアッツア】「NO!その下だ。あの変な記号は何なんだ!」
【アントニウス】「WOW!お前あれが見えたのか?」
【メアッツア】「だから何だ!」
【アントニウス】「あれはな、視力検査の記号だ。」
【メアッツア】「は?普通アルファベットだろ?」
【アントニウス】「うちらは、な。だが、日本ではあのCの口が開いてる方向を指さして測るらしい。」
【メアッツア】「日本……、メカニックのウエノか?あいつが書いたのか?あの野郎!」
【アントニウス】「そう、怒るな。あいつは、ようやっているからのう。時速300km近くで走ってちゃあ、口が開いている方向までは分からんだろ?分かるかどうか、ピットでも意見が分かれててな……、まあ、いい。悪かったな。今はレースに集中してくれ。」
【ニヤケ】「さあ、ホームストレートにトップをひた走りますフェラーリが帰って来ました。ここでオンボードカメラの映像を見てみましょう。」
(オンボードカメラの映像、音声入らず。)
【ニヤケ】「……、左……、ですかね……。盛んに左の方を指さしているように見えましたが……。」
【イヤミヤ】「そうですね。操縦系統のマシントラブルかな。左にアンダー(注、アンダーステアリングの略、ステアリングの操作量よりもマシンの曲がり量が少ないこと。その反対は、オーバーステアリング)が出ているかも知れませんが、ちょっと分からないですね。」
【ニヤケ】「おーっと、トラブルだとしたら、フェラーリ陣営に動きがあるかも知れませんよ。ピットレポーターのカアイちゃん、どうですか?」
F1ピットレポーターといえばこの人。F1の知識量でこの男の右に出る者なし。人気女優と結婚したことのある、ピットレポーターのカアイちゃん。以後【カアイちゃん】
【カアイちゃん】「はい、カアイなんですが……、オンボードカメラの映像を見て、ピットの半分位のクルーがちょっと拍手したり、ハイタッチしたぐらいで……、特に動きはなかったな~。下からメアッツアの走り見てるけど、トラブルがあるようには見えないな~。」
【イヤミヤ】「そうだね。私もカアイちゃんの言う通りだと思う。」
【ニヤケ】「じゃあ、カアイちゃん、何か動きがあればリポートお願いします。」
【カアイちゃん】「分かりました~。」
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【ニヤケ】「さあ、レースも中盤にさしかかりました。トップは相変わらずフェラーリのメアッツア。初勝利を目指して快調に飛ばします。」
【メアッツア】「おい……、おーい!」
【アントニウス】「何だ、ボード見たろ。13.5アンダーだ。油断するな。」
【メアッツア】「NO!そのボードの下のあれは、何だ!あれは!」
【アントニウス】「あれって、何だ?」
【メアッツア】「√2のことだ!どうしても目に入っちまう!」
【アントニウス】「WOW!やっぱり見えてたのか。さっきも(視力検査記号の口が開いている方向が)分かってたもんな。やっぱりお前はたいしたもんだよ。でもな、動体視力は凄くても、記憶力はどうなんだってな。日本では、中学校レベルの問題らしい。」
【メアッツア】「×□▲◎!(伊語で卑猥な意味を表す言葉)また、ウエノか!アイツをクビにしてくれ!」
【アントニウス】「そう言うな。アイツがいるとピットが明るくなるしのう。出来るかどうか、ピットで意見が分かれててな……。まあ、いい。確かにこのスピードでは危険だからな。悪かったな。今はレースに集中してくれ。」
【ニヤケ】「さあ、ホームストレートにトップのフェラーリが帰って来ました。ここでオンボードカメラを見てみましょう。」
(カメラ映像入らず、音声のみ)
【Meazza】「……………………?(英語)」
【Antonius】「…………………….(英語)」
【ニヤケ】「メアッツアの「1.41421386か?」という質問に、「違う。1.41421356だ。」と、ピットが答えていた様でしたが………。」
【イヤミヤ】「はい。そんな感じでしたが、1.414……?カアイちゃん分かる?」
【カアイちゃん】「う~ん……。ダウンフォース?μ?さっきから何のことかな~。」
【ニヤケ】「ピットに動きは……?」
【カアイちゃん】「ないんです……。ないんだよな~、これが。さっきみたいにクルーの半分位が騒いだだけでした。」
【ニヤケ】「……、何かありましたらリポートお願いします。」
【カアイちゃん】「……、分かりました……。」
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【ニヤケ】「さあレースは終盤、トップは独走フェラーリのメアッツア、ここまで来たらもう負けられない。モンツァの砂塵を、ティフォジの熱狂を、その赤い機体にまとわせ栄光へと突き進みます。」
【メアッツア】「おい、……おーい!」
【アントニウス】「何だ、ボードはセーフティ(注、2位との差は歴然なので、リタイアしない程度で走れ。という意味)だぞ。」
【メアッツア】「NO!そのボードの下のあれは何だ!」
【アントニウス】「あれって、何だ?」
【メアッツア】「パンはパンでも、食べられないパンはな~んだ?って何だ!□☆▲×!(英語で卑猥な行為を意味する言葉)読だらダメだって分かっているのに、3周もかけて読んじまった!」
【アントニウス】「WOW!やっぱり分かったか。文章も読めるとは、恐れ入った。さすがにこの状況じゃあ、√2はキツかったな。今度は思考の柔軟性を試す問題でな、なんでも日本じゃあ幼児教育の教材や絵本によく使われているらしい。」
【メアッツア】「□☆▲×!(英語で卑猥な行為を意味する言葉)また……、またしてもウエノか!シチリアの祖父の名に懸け、奴を倒す!」
【アントニウス】「落ち着け。アイツがおらんと、お前のマシンセッティングが決まらんでのう。解けるかどうか、ピットで意見が分かれててな……。まあ、いい。確かに、初勝利の懸かった大事な場面だ。悪かったな。今はレースに集中してくれ。」
【メアッツア】「パン、パン、パン、パン…………。」
【アントニウス】「ちなみにヒントを言うと、だ。ほら、台所にあって、料理によ~く使うやつがあるだろう。あれだ、あれ。」
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【ニヤケ】「あーーっと!メアッツアコースアウト~~ッ!スピンしながらサンドバリアに捕まったー!いやー、これはどうしたことだ!ほんの数周先にあった栄光が、ティフォジの熱狂が、モンツァの砂塵に消え失せた~~!イヤミヤさん、何が起きたんですか?」
【イヤミヤ】「はい、ホームストレートに入る前の最終コーナーだったんですが……、難しいコーナーではないので……、やっぱりマシントラブルを抱えて、我慢して、我慢して……、最後はマシンが保たなかった……ってことでしょうか?でも、ピットが動いてなかったんで、リスク管理とピットワークが、これからの課題になりますね。いずれにしても残念です。」
【ニヤケ】「ところで、そのピットの様子は、どうでしょう?」
【カアイちゃん】「こちらピットなんですが、モニターにコースアウトの映像が写った瞬間、メカニックの一人がクルー全員からボコボコされていました。完膚なきまでにやられていましたね。よく分からなかったけど、やられていたのウエノさんじゃないかな~。どうしたのかな~?以上ピットでした。」
【ニヤケ】「チーム内にフラストレーションが溜まっていたということでしょうか?ここでコースアウト直前のオンボードカメラの映像が来たみたいなので見てみましょう。」
【Meazza】「……………?(英語)」
【Antonius】「…………….(英語)」
(カメラ映像)
【ニヤケ】「ノイズが入ってよく聞こえなかったんですが……、メアッツアが「それは固くなってカビの生えたライ麦パンのことか?」と質問して……。ピットから……、何でしょう。「それは違う。答えは……、」ここからがよく聞こえませんでしたが……。」
【イヤミヤ】「そうですね。フラ何とかって言ってたような気もしますが……。どんな暗号なのか、ちょっと分かりません。」
【ニヤケ】「そしてその後、メアッツアがステアリングを大きく左に切ってスピンしてますね。切るっていうより、左肩から崩れ落ちたようにも見えましたが……。」
【イヤミヤ】「メアッツアのフィジカルに問題があったのか、無線の内容にガックリしたのか。これは本人に聞いてみたいところですね。ここでフェラーリが勝つのを久しぶりに見たかったんですが、本当に残念です。」
【ニヤケ】「F1グランプリ第14戦イタリアグランプリは、フェラーリのメアッツア初勝利ならずということになりました。」(CM)了
読んで頂きありがとうございました。