彷徨える旅人は帰り道が分からないまま
記憶をなくした亡霊は、遺跡と化した町へたどり着きたい。
己を生んだ、ふるさとへたどり着きたいというのに。
何かの志半ばで、夢ついえた亡霊。
そんな亡霊でも、故郷で安らぐ権利はあるだろうからさ。
しかし、人ならざる身ではたどりつけないから。
決してふるさとにはたどりつけないから。
そこはそんな場所だったから。
亡霊は、人の体を手に入れようとしていた。
時を同じくして、瀕死の人間がいた。
心は尽き、気力はなくなり、死を待つばかりのその人物。
どうせ、無駄になくすなら。
誰かに活用してほしいと。
そんな思いが亡霊を引き寄せた。
体を手に入れた亡霊は、彷徨い歩く。
帰りたいその場所をめざして。
けれど、それは残酷な結果をもたらした。
帰る場所が思い出せない。
亡霊でなければ帰れるのだと信じていた。
人であれば、故郷を思い出せると妄信していた。
確かに子供の頃に読んだ絵本はそんな内容だったから。
けれど、そんな事実はどこにもなくて。
そんな結果はどこにも実らなくて
たどり着けない事に、ただ何かの理由をつけたかっただけで。
何も知らず彷徨っていた頃の方が幸せだったと気が付いた。
だから。
死した亡霊は、ただ生ける亡霊になっただけ。
これからも永遠に、たどり着けない場所を目指して、彷徨い続けるだけ。