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伝説の殺人鬼、異世界へ行く  作者: 千僧キクリ
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49話 抗う命

 



「ふーん、ちょっと落ち込んでるのはそう言う理由があったのね」


 隣りの巨人の顔を見上げながら、カムラは紅茶を啜る。


「…てかさ、カムラさんどこ行ってたの?」


 何事もなかったかのように紅茶を飲むカムラに、ジャオがズイッと顔を近づける。

 その口振りと眉には少し不満が浮かんでいた。


 が、カムラはそれに合わせて顔を寄せてくる。

 唇がつくかスレスレの距離だ。


「っと!? なにすんのさ!」


「んふっ。…ま、色々やらなきゃいけない事があんのよ、あたしは」


 悪びれるでもなく、カムラは紅茶を再び口にする。


「…ま、いいけどさ。チャーリーさんとカムラさんは、ベツジゲン…だっけ? からやってきたんだよね?」


「お、ようやく覚えてくれた?」


「何回も聞かされましたからねー」


「あはは…」


 向かいに座るヨルダの苦笑いに、側のアルレナもつられて笑っていた。


「チャーリーさんが、元殺人鬼…なんでしょ? で、カムラさんは人間じゃない」


「そう。…怖い?」


「……なんか、まあ、色々怖いけど……正直内容もだけど、そもそも二人ともぶっ飛んでるから実感わかない」


「あはは…ま、昔のあたしより今のあたしを見てって感じかな?」


 ニヤリと茶化すと、カムラは椅子の上を浅くかけるようにズルズルと滑っていく。


「そうですね。私にとってお二人は命の恩人ですし…今は大切な仲間だと思っています…」


「アルレナもだよ。チャーリーも、カムラも、ヨルダもジャオもみんな友達…」


 二人から発せられた純粋な言葉に、カムラが思わず身震いした。


「あぁ…君達はほんと可愛いなぁ…」


 だがそれを見たジャオはただ一人顔が引きつっていた。


「カムラさんほんと危ないよね…」


「それより」


 カムラがひょいっと椅子に再び深くかけなおす。


「……アルレナ。結界は間違いなく『破られた』んだよね?」


「? うん。外からの力で破られたんだと思う」


 アルレナの答えにカムラは頭をポリポリとかく。


「で、その教会の修道女が『草木を虫に変えた』と」


「はい…凄い魔力と…その、悍ましい力だったと言うか…」


 思い出しながら、ヨルダは少し顔を歪めた。


 ジャオは露骨に顔をしかめながら首をブンブンと横に振っている。


「そっか。人間てやつは……」


「え?」


「……祈りを捧げさえすれば許されるだなんて、そりゃ悪いやつばかりになるわけだ」


 カムラは肩を竦め自嘲気味に笑った。







「マリーナ様……」


 徒歩の帰途の最中、マリーナの側の黒装束がそっと耳打ちする。


「…ええ、どうやら森を出た頃からですね」


「どうしますか?」


「どのみちプリシラとシドニを抱えては距離をとる事は難しいでしょう。何者かわかりませんが…」


「まさかさっきのヨルダさん達…」


「ではないでしょうね。このような血生臭い殺気を発する方達ではなかったですから…野盗の類いか……」


 振り返らず、先頭を行くマリーナが修道女達に警戒を促す念波を送ろうとした、その時。


「…ここらでよろしいですかな? マリーナ殿」


「!?」


 山道に入ったところで、ブラウンのフードマントに身を包んだ集団がマリーナ達を取り囲んだ。


 木の陰から出て来たのは、つい数時間前に見た顔。


「………え?」


「ご機嫌麗しゅう」


「…レ、レイクラー卿? どうして…」


 思わず身構えるマリーナ。

 この殺気を放つ相手が兵団副団長であるという事実が、彼女を大きく混乱させた。


「……なかなか思い通りにいかないものですな」


「え?」


 言いながらガディアはぽいとなにかを放り投げる。


 ごろりとマリーナの足元に転がってくるその球体の正体に気付いた時、修道女達全員が息を呑んだ。


「!? 首…?」


 …それは切断面鮮やかな人間の首だった。


「その男に見覚えはありませんか? …そちらの斥候(スカウト)のお嬢さん方」


「…私たち?」


 短髪(プリシラ)長髪(シドニ)が互いの顔を見合わせる。


「…その傷を負わせた張本人ですよ」


「!?」


「ど、どういう事ですか!?」


 思わずマリーナの声が上擦る。


「……本当なら」


 ガディアがゆっくり、静かに近づいてくる。


 重厚な鎧を外したその足運びは、明らかに『騎士』のものではなかった。


 じりっ……


 不穏な殺気に修道女達を守るように後退るマリーナ。


「……あなた達二人には死んでもらう予定でした。そして激しい怒りに身を任せ、マリーナ殿にはあの仮面の男と戦っていただく予定だったのですが」


「なっ…!?」


「残念ながら不出来な部下がお二人を逃し、その上マリーナ殿は奴らに傷一つ負わせる事なく戦いを終えられてしまった…」


 小さくため息を吐き、ガディアは無表情でマリーナ達へと視線を向ける。


「だがイレギュラーを常に想定し、自分の手で解決して来たからこそ、私は今の地位まで登りつめることが出来た」


「…っ」


「その命、我が礎として使わせていただきます」


 ガディアがゆっくりと腰からサーベルを抜く。


 その所作にマリーナ達に電流の如く緊張感が走った。


「な、なぜ私たちを殺そうと言うのですか!?」


「化け物共に殺された可哀想な修道女達…それがあなた達の最期の役割です」


「なっ…!?」


「では、さようなら」


 周りのフードマント達もその剣を抜き、マリーナ達との距離を詰め始める。


「マリーナ様…っ!」


 修道女達がその殺気に著しく怯んでしまう。


 だがそんな彼女達の動揺をマリーナは喝を入れ立て直そうとする。


「戦いましょう! あなた達の事は私が守ってみせます!!」


「っ…はい!!」


 だが


 ザシュッ……


「え…」


 修道女達が、戦う意思に火を灯すより早く。


 第四兵団副団長の直属の兵達は、その圧倒的な速さの剣で少女達の身体を切り裂き始める。


「なっ…!!」


 思わず声を上げるマリーナ。


 修道女達は傷を負った仲間がいるとは言え、決して弱いわけではない。


 だが相手は兵団の副団長率いる精鋭達だ。


 その動き、経験、総合力には雲泥の差があった。


「大人しくしていれば、苦しまずにすみます」


 ガディアはその冷徹な眼で、ばたばたと倒れていく修道女達をただ見ていた。


 なんとか抵抗する為にプリシラとシドニを守りながら動き戦おうとする修道女達。


 だがガディアの兵達はそれを遥かに上回る速度で、次々と修道女達の身体を切り裂いていく。


 一人、また一人と、鮮やかな血潮を吹き上げながら。


「キャアッ!」

「ぐぅっ…」


「…やめてっ! もうやめてぇぇ!!」


 絶叫と共に、マリーナは自分の娘を守るべく、印を結ぶ。

 ヨルダ達と戦った時とは違い、無詠唱による速度重視の魔力連弾。


「…さすがはかつての教皇直属の魔導師。練度だけでも才能(センス)だけでもない、か」


 ゴオォォッ!!


 放たれる魔弾は、対象をどこまでも追いかける自動追尾型。

 確かな技量の持ち主でなければ扱えない。


「ぐぅっ!?」


 数名の『命』を嗅ぎつけた魔弾は容赦なく追尾し炸裂する。


「やった!」


 辛うじて守られているプリシラが思わず声をあげた。


「言ったでしょう! あなた達は私が守ります!!」


 マリーナが新たに魔弾を装填させるべく、その身体に魔力を蓄えようとした、その時。


「…惜しい」


 ボソッと呟くガディアが胸元から取り出したのは、ホワイトパールのネックレスだった。


 相変わらずの無表情のまま、ガディアはそのネックレスをゆっくりと天に掲げる。


 キィィィィィンッ!


「えっ?」


 その真珠から激しい白い光が放たれた時。



 ーーマリーナに蓄えられた魔力が一気に霧散し、枯渇してしまった。








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