39話 みんな一緒に
「さ、これで全部片付いた……って言いたいとこだけど」
カムラの目には紅い光は灯っていないが、その言葉には少し熱がこもっていた。
「……おそらくあの子にはアレの力が混じっている。ともすれば、具現化した力を行使するつもりなのかも知れない」
「知ってると思うけど、あたしは決められたルールを守れない奴が大嫌い。アレは既にルール違反を侵している」
「ホントならこれでもうアウト。ただ、君の事があるし、一応長い目で見るつもりだったけど…」
静かに淡々と事実と怒りを織り交ぜ並べるカムラに、チャーリーはやはり動かずに応じた。
「だからあの子には悪いけど死んでもらうしかない。構わないね?」
ピシャリとぶつけられた言葉だがチャーリーは首を横に振った。
……ふぅぅと、さも面倒そうに肩を落とすカムラ。
「……じゃあどうすんの? あたしはこれ以上のルール違反を許すつもりはない。あの子の管理を出来ない以上…って、え?」
「……」
カムラが目をパチクリさせると、チャーリーは力強く頷いた。
「……本気?」
「…………」
「マジかぁぁ……それ…マジかぁぁぁ……」
崩れ落ち四つん這いで頭を垂れるカムラかを、チャーリーは優しくポンポンと撫でた。
「やめろや! ダサマスクやめろや!!」
カムラはその手を勢いよく振り払った。
翌朝アナンとアルレナを伴った一行は、彼女の住処を確保すべく森へと向かった。
「アナンさん、ありがとう。アルレナの事よろしくお願いします」
ヨルダの言葉にアルレナは少し俯いていた。
「あ、ああ! まあ色々あったけど、こいつも正気じゃなかったってのはわかったし…村の連中にもしこりはあるだろうけど、時間かけていくよ。アルレナ、よろしくな!」
ヨルダの笑顔に少し照れながらもアナンが手を差し出すと、アルレナは少し困った顔でその手をそっと握った。
「…ん?」
最後尾を歩いていたジャオがその表情に気を止めた。
「ねぇカムラさん」
「なんだいジャオ君」
「…この子、これから一人で森に住むの?」
そしてその言葉に一同が脚を止めた。
「うん? どうしてだい?」
「いや、仲間がいなくなって、ずっと独りぼっちって言ってたじゃん。まあこのアナンのにいちゃんや村の連中と交流持つのは良いことだけど…ずっと一緒ってわけじゃないんでしょ?」
薄々気づいていた『これから』に、ヨルダは少し胸を詰まらせた。
そう。
彼女はこれから護り人としてまた一人で森に住むのだ。
本当は一緒に連れて行きたいが、エルフの森を完全に放置するわけにもいかない。
狙われている自分達と一緒に行動させるのも危険だ。
アナンや村人達が協力的なのは頼もしいが寝食ともに過ごすわけではない。
幼いアルレナにとって、『仕方ない』で済ますには些か厳しい現実だった。
「わたし、大丈夫…村の人達と協力して、森を守って行くから…」
その笑顔にはやはり寂しげな雰囲気が漂う。
「アルレナ、オレ達も出来るだけ森の様子見に来るから…」
「うん、ありがとうアナン…」
「私達も、たまにはここにアルレナの顔を見に来るから…ね?」
「うん…ヨルダお姉ちゃん、待ってる…」
この子は元々聡い子なんだろう、とヨルダは思った。
心配かけまいと言葉を選び表情を選びしている様が、不憫にも感じられた。
なんとかしてあげたい…でも、彼女の身の安全を考えたら…
「……はいはいはいはい、わかってるわよ! …みんな考えてる事、おんなじなんでしょ? はぁぁ〜〜」
「え?」
突然のカムラの嘆くような叫びに、一同は目を丸くした。
「……そこ、嬉しそうな顔すんな」
ビシッと指差した先には仮面が無表情で立っている。
「わかったわよ……えっとね、どこから言えばいいかな…」
「「?」」
「まずヨルダちゃん。あたし達、これから…というか、今後はどうしようか?」
「え?」
急に会話を向けられたヨルダは少しビクっとしながらも、しっかりとカムラの目に応じた。
「…私はこのまま逃げ回るわけにはいかないって思ってます。今の歪んだ世界をなんとかしたいから…」
「ふむ…」
「だから、いろんな人達と話をして、お互いもっと分かり合えるようにしたい。時には戦わなきゃいけないから、もっともっと強くなって…強くなって、この世界を変えたい、って……」
次第に熱と真剣みを帯びていくその言葉に、一行はまじまじと聞き入った。
それに気づき、すこし恥ずかしくなるヨルダ。
「! あ、す、すいません…」
「ううん、さすがヨルダちゃん」
「…うん、あたいも。そんなヨルダさんと一緒に戦っていきたい」
カムラとジャオ、そしてチャーリーもその言葉にしっかりと頷いていた。
「あ、あんたら…そんな事考えたのか…」
アナンだけは少し引いていたが、すぐに退がった心を押し返した。
「でも…うん、そうだよな。命の恩人達を金に換えて、それで幸せになるなんてオレには出来ない。今の皇帝陛下がやってる事は人間だけには都合良いけど、それは間違ってるって、オレだってわかるよ」
アナンの視線の先にはおずおずと話を聞くアルレナの姿があった。
この少女の現状を作ったのは、オレ達人間なんだーー
その心には贖罪だけではなく、弱者を守ろうという勇気がしっかりと根付いていた。
それを見て、ふふっと笑うカムラはどことなく嬉しそうだった。
「……ま、そんなみんなに、相談があります」
「相談?」
「あたし達、そもそも最初追われるヨルダちゃんが落ち着けるような場所を探してたんだけどね。まあ今は少し事情が変わってきたけど…だからここにその居場所を作ろうと思います」
全員、カムラの言葉にきょとんとなった。
「? どういう…」
「この森は幸いエルフ達がいただけあって、魔力が漂う強い力場になってる。いなくなって時間が大分経ってるから、澱んでモンスターも集まりやすいけどね」
「…」
「つまり、その澱みを取っ払って、魔力場を利用した『結界』を敷く。あたし達は、今後ここを拠点にして行動していく。ま、期間限定だけど」
「! それって…」
カムラの視線がチャーリーへと向く。
それは忌々しげで恨めしそうな怨念じみた目だった。
「……そ。しばらくこの子と一緒にここで暮らす。もちろんいずれあたし達はここを出て行くけど、それまでにここに住んでもいいって言うこの子の同族…エルフも探してくる、って感じかねぇ…はぁ……」
「!!」
カムラのしかめ面とは対照的に、ヨルダとジャオは飛び上がらんばかりに手と手を絡ませ喜んだ。
そして二人の間に挟むようにアルレナを抱き締める。
「やった! アルレナ、一緒に居られるってさ!」
「良かった……アルレナ…よろしくね!」
二人に目一杯抱きしめられてアルレナは困りながらも、その顔は今までに見た事のないような笑顔だった。
「うん……うん…! わたしも、一緒に居たかった!」
「良かったなぁ…アルレナ、良かったなぁ…」
三人を見て涙ぐむアナン。
そしてチャーリーも一人力強く頷いていたのだった。
カムラは舌打ちすると、こっそりチャーリーに悪態をついた。
「……キミ、自分で言ったんだからね……責任とって面倒見てよ」
「……」
「いつ爆発するかわかんない爆弾みたいなもんなんだからね……は〜……面倒だわ……」
うなだれ溜め息をつくカムラの頭を、やはりポンポンと優しく叩くチャーリーだった。
「もう好きにせぇや……」




