表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伝説の殺人鬼、異世界へ行く  作者: 千僧キクリ
162/228

162話 神皇の昂り

 





 物々しいらしくない雰囲気を醸しながら、玉座の間から白ケープ達が足早に出て行く。

 かと思いきや、再び別の白ケープの男が玉座の間に駆け込んで来る。

 普段は物音を立てぬよう動くのが常である教会使徒らが、この日ばかりは違っていた。


 玉座の教皇ココは凛と背を正し、それを出迎える。

 その顔には穏やかな笑みを浮かべつつも、「緩み」はない。


「ではそのように……」

「はっ! 失礼します……」

「神の御加護を」


 そしてその白ケープの男もまた先程の男と同様に、忙しなく玉座の間から出て行った。



 今、王都中が張り詰めた空気で覆われていた。

 教会使徒らはもちろん、王都の民らもまた、その緊張感に怯えていた。

 それはまさに、この国が()()()である事を示していた。


 そして壁際に並ぶ使徒らも、言葉こそ発しないもののどこか落ち着かない様子だった。


 その彼らに、教皇ココはゆっくりと。落ち着き静かに、声をかけた。


「……改めて…………間も無く、総帥アレクシア・アッヘンヴァルを筆頭に騎士団がこの王都に攻め入るだろう。だが、皇帝陛下亡き今、彼らは王都に弓引く逆賊に過ぎない」


 座ったまま、ココは使徒らの顔を一人一人見つめながら、優しく続ける。


「今、この王都に住まうすべての人間の命が危険に晒されている……

 だが、憂うなかれ。あなた達は常に神により守られている。信じなさい。祈りなさい。あなた方の神を。

 神は常にあなたと共に在ります。信仰と崇拝に応え、祝福を授ける為に。

 何者よりも。皇帝であれ、王であれ……あなたは神を信じるのです。さすれば、あなたの信仰は死すら乗り越える事でしょう」


 最後に、ココはにこりと笑った。

 向けられた笑みに、思わず身震いする使徒たち。その心根には『教皇猊下の為なら命をも惜しまぬ』という、苛烈な信仰心が根差していた。


 その命すら捧げても構わぬ相手へと一礼すると、使徒らもまたいそいそと部屋を出て行った。


 そんな彼らの後ろ姿を見送り、教皇は伸ばしていた背を背もたれに預けるとボソリと呟いた。


「……さて。いよいよか」

「うん! ついに一大決戦だねっ」

「……そう、ね」


 同時に玉座の背後からひょっこりと姿を見せる、双子のアダとツィラ。


「恐らく今回の戦場に……ありとあらゆる『力』が集まるだろう。まさに、最後の決戦、というわけだ」

「騎士団の残りと……例の仮面の男とそのお友達、だね」

「……チャーリー、か」


 ややはしゃぎがちなアダと、対照的に少し暗いツィラ。

 教皇ココはそんな二人を優しく抱きしめる。


「大丈夫さ。今の君達なら、総帥閣下(アレクシア)だろうと仮面の男(チャーリー)だろうと、負けやしない。何より、君達はもし死んだとしても……」

「……転生する、でしょ!」

「ふふ……」


 アダが『転生』という言葉に、いよいよ目を輝かせる。

 興奮しているのか、ふーふーと少し鼻息も荒くなっていた。


 だが、そんなアダとはやはり逆に。


「…………転生……か」

「どうかしたかい? ツィラ」


 銀髪の妹の方の表情はやはり暗いままだった。

 その暗い顔のまま、ツィラは真剣な目をココへと向ける。


「なぁ、ココ。ココはどうやって……うちらを創ったん?」

「ん? …………秘密さ」

「なら、……()()()()うちらを創ったん?」

「……ツィラ?」


 銀髪の死神と呼ばれ、教会に……否、教皇ココに仇なす数多の者たちを葬ってきたツィラ。それも、嬉々として、持ちたる力と恐怖を存分にばら撒きながら。

 そんな恐怖の死神がーーこれまでにない、表情を見せた。


「ねぇココ。あたしらって、なんなん? 転生って? なんでそんな事が出来るのん? ココは……一体、なんなん?」


 胸の中から見上げる視線に、ココはふふっと声を出して笑った。



 戦闘狂として創造したはずの双子の片割れが、自らの存在に疑問を抱いた。


 それはーー成長していく子を持つ、親の気持ちそのもの。




 あの日。


 教皇の座に就いたあの日。

 突如、ココ・ヴェレノレファルムの頭にーー『偉大なる英知』が流れ込んで来た。


 なんの前触れもなく……常人では耐えられぬほどの、膨大な量が。

 それは大声を出さずにはいられない、気が触れてしまいそうなほどの波濤。


 だが『天才』であるココは、その波を乗り切ってしまった。

 狂う事なく、ただ静かに、己の心を見つめ続けて。


 結果、ココは森羅万象を知る神の知恵を手にした。


 そして、ココは自覚する。



 ーー己が身に、神が降りたのだ



 そしてその知恵を使い、ココは次々と『神の奇跡』を起こしていく。


研究室(ラボ)』による新たな魔導の創造、完全なる人心掌握、秘術の設計図(ア・プラン)……そしてーーアダとツィラ。


 二人は、元々いた浮浪児などではない。

 ココが創造した、人造人間なのだ。


 それは魔導生命体ヨハンの魔奴創造(セルウスクレアーレ)などではなくーー完全なる生命の創造(オリジンクレアーレ)


 さらに、ココはその英知により、知り得ることが出来た。


 ()()()()()()()()()()()()、その断片を。


 その欠片で。ココはアダとツィラを創ったのだ。


 世界を、何度も体験することの出来るというーー影法師(シルエット)という存在。


 ()()()()()()()




(ふふ……思い、考え、感じ、悩む、か……成長、だね)


 ツィラの頭を優しく撫でながら、ココは心の中で笑った。

 いよいよ、彼の気持ちは昂っていた。

 自分が創ったのは人形でもモンスターでもない。成長する『人間』なのだ。


 つまり彼は『人間』を創り出せた。


 それはーー『神』と呼ばずして、なんと呼ぶのか?




「……安心しなさい、私も君たちもただの人間さ。()()()()()()、ね」


 ココは、心からの笑顔を我が子らに向けた。

 心優しき慈愛に満ち溢れた、純真な笑顔を。


 その笑顔に、ツィラはそれ以上は何も言わなかった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ