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休暇  作者: 風音沙矢
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休暇 01

他の作品とは違い、鉄道旅の話となっています。結局は、家族を、妻を愛していると言うお話ですので、オタク要素も入りつつの、ホームドラマかな?と、思います。

よろしくお願いします。

 羽田空港から飛び立った旅客機は、順調に、たんちょう釧路空港へ向かっている。窓から見える澄み切った青空が、俺たちを歓迎してくれているようだ。やっと妻と二人で北海道に来ることができた。マイホームパパを自任している俺だから、子育て中は、旅行と言えば子供たちも一緒だった。下の息子が大学生になり、夫婦で外出もできるようになっていたのに、あの時は、二人で旅行と考えなかった。それで3年前失敗した。今回は、その時の罪滅ぼしの旅行なのだ。今、となりの席で、道東のガイドブックを機嫌良く見ている妻をみて、その時のことを思い出していた。


 東京駅で、ハヤブサに乗った。進行方向左窓際の席。今日は良い天気なので、うまくすると、阿武隈山地あぶくまさんち岩手山いわてさんが見えるだろう。バッグの中には、読みたかった本を3冊ほど入れてきたが、できれば車窓を楽しみたい。何にしようか迷って選んだ駅弁とビールをテーブルに出した頃、発車のベルが鳴り、ハヤブサは、滑らかに走り出した。


 リフレッシュ休暇を取って、北海道気ままなひとり旅。本来なら、心浮かれて車窓を眺めているはずだったのに、家を出るとき、不機嫌そうだった妻を思うと、少し憂鬱になった。結婚して25年。息子たちは、大学生になっていた。あとひと踏ん張りだ。ひと月前の結婚記念日、銀婚式を意識して、妻が一度行きたいと話していたレストランで、奮発してフルコースを二人で食べた。指輪だって用意した。うれしそうに左手の薬指を見ていたじゃないか。妻は、下の息子が大学に入ったころから、友人たちと旅行に出かけていた。私も、妻が楽しそうにしていることに満足していた。だからこそ、このリフレッシュ休暇は、ずっと家族を思い頑張ってきた自分へのご褒美と決めていたんだ。


 たしかに妻には改めて話はしなかったが、特別反対されるとは思っていなかったので、狼狽えた。少し前から、この10日間をどう使うかを考えてきた。妻もリフレッシュ休暇が今年あることは知っていて、妻には妻の計画があったようだ。うかつだった。でも、もう、遅い。会社にも休暇願を出して受理されている。今日から10日間。

ごめん、確かに伝えるのが遅かった。でも、君の予定は無いことは確認済みだったから、良いと思っていたんだよ。


 学生時代、よく一人で旅に出ていたので、久しぶりの一人旅の計画は、楽しい時間だった。最近は購入しなくなった、分厚い時刻表とにらめっこ。学生の時と比べると路線がかなり少なくなっているし、本数も少なくなっていて、なかなか思うような計画が立てられないが、それさえも楽しみながら、この半年、ずっと、待っていたんだ。正直、まさか、あんなに不機嫌になるとは思わなかった。

「あー、家に戻るの、気が重いなあ。」


 それでも、阿武隈山地や岩手山が見えて、読みたかった本を読んで、新函館北斗しんはこだてほくとに着くころには、これからの旅の楽しみに、ワクワクしてきて、あまり妻のことに煩わされることもなくなっていた。廃止が予定されている路線を優先しコースを決めていた。とにかく、一気に留萌駅るもいを目指す。長万部おしゃまんべ苫小牧とまこまい、札幌、深川ふかがわ、さあ、留萌本線に乗り換えだ。2両編成のディーゼルカーが3番線ホームで待っている。二度と見ることができないかもしれない、車窓に釘付けだ。


 途中、NHKの朝ドラの舞台となった明日萌駅あしもい、本来の駅名は恵比島駅えびしまを車窓から眺め、終点、留萌駅へ到着。今日は、ここで宿泊だ。

「あーあ、ちょっと前までは,増毛駅ましけまで行っていたんだけどなあ。」

まだ、増毛へのレールは残っているから、より、未練が残る。そのまま、増毛へ向かって走り出しそうな列車を横目でみながら、留萌駅で下車。


 2日目。少し残念なことに雨模様。今日は、恵比島駅で途中下車して、ドラマでは、便所(失礼な)としてドラマの駅舎の横に映っていた、確かに粗末な待合室に入ってみる。本来無人駅なので改札は無いのだが、ドラマで使用した駅舎のセットがそのまま残っているので、昭和の初めの頃の雰囲気が味わえる。駅長室には、鉄道王国時代の路線図が貼ってあり、サハリンまでつながった路線図は圧巻だ。さあ、深川行きの列車が、小雨にぬれてやって来た。


 深川で乗り換え、音威子府駅おといねっぷへ。ここには、昔、蒸気機関車の転車台があったっけ。学生の時は途中下車してそれを見たんだよなあ。今はもう、無いのだろう。特急サロベツに乗り、最北端の駅、稚内へ向かう。今日は、そこで宿泊だ。


 3日目、今日は、レンタカーを借りて、道北を回るプラン。はじめは、当然、宗谷岬。風が強い。運が良いとサハリンが見えると言うが、じっと目を凝らしても見えなかった。

「宗谷岬の唄ってないのかなあ。」

独り言が口をついて出た。津軽半島の竜飛埼に家族で行ったとき、津軽海峡冬景色の歌碑があって、大きな赤いボタンがあって、妻が何気に押したらとんでもない大音量で、音楽が鳴りだして、妻が1メートルは飛び上がったのではと言うほど驚いていたし、私は止めなければと慌てたが、止める方法はなくて諦めていると、息子二人が妻の驚いた姿と、慌てふためいている私の姿が面白いと言って腹を抱えて笑っていた。あの後、何かにつけその話題になり、夫婦で苦笑したっけ。楽しいエピソードを思い出して一人で笑った。


 さあ、次は、紅や原生花園べにやげんせいかえんへ向かう。どこまでも、まっすぐに伸びた道を運転しながら、のんびりと草をはむ牛たちを眺め、大空を気持ちよさそうに飛ぶオオワシを眺める。すれ違う車も、ないからこそできることなのだが、こんなドライブも良いなあとほくそ笑む。カーナビに入力したのに、なかなかたどり着けずもたもたしたが、なんとかたどり着いた。初夏の道北は、花が見ごろを迎え自然の贈り物を満喫した。


 目の前には、オホーツクの海が見える。想像していたよりも穏やかな海だ。花が咲いていることは判るし、可憐な花が美しいとも感じるが、情けないことに花の名前が判らず、入り口でもらったパンフレットと見比べながら、写真を撮った。LINEで送ってやろうかなと思ったが、「自分だけ」と責められる材料を増やすだけかと途中でやめた。

妻は、花が好きで、当然いろんな花の名前を知っている。一緒に来ていれば、

「これはね、とても貴重な花なのよ。」

「これは、本州にもあるわね。」

なんて、話してくれるのだろう。少し、後悔した。パンフレットをもらった入り口の店に、かわいらしい花々が描かれている小石を妻への土産に購入。


 そこから、一気に日本海へ向かう。つぎは、サロベツ原生花園だ。こちらは、ほんとうに広い。見晴るかす原野だ。その中に黄色のエゾキスゲが一面に咲いていた。さすがに、これは覚えた。そして、鮮やかなピンクのハマナス。ここでも、花たちの写真を撮った。まあ、少し嫌味を言われるだろうが、やっぱり妻へ花の写真を送った。まあ、返信が来ないことは覚悟していたが、すこし、落ち込む。


 レストランで昼食をとり、日本海側を北上した。左手には、利尻富士りしりふじがぼやけているが見えてきた。少し行くと、礼文島れぶんとうもかすかに見える。今日は、日本海も穏やかだ。ノシャップ岬を回り、レンタカーを返し、夕方、スーパー宗谷で旭川へ向かう。今日は、旭川で宿泊だ。


最後まで、お読みいただきまして ありがとうございました。

よろしければ、「休暇」の朗読をお聞きいただけませんか?

涼音色 ~音ノ葉 言ノ葉~ 第12回 休暇 と検索してください。

声優 岡部涼音が朗読しています。

よろしくお願いします。


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