6話:光放つ剣(つるぎ)
オレは気づく。
――光っていない、と。
岩かげから出ようとしたところで違和感を感じた。
地底湖であれだけ煌々とかがやいていた聖剣――エクスカリバーが光を放っていないではないかと。
ふと気になりオレは剣へと視線を向ける。
よく見ると完全に消えているわけではなく、その刀身はわずかに微弱な光をまとっていた。
オレが右手にもつ聖剣――エクスカリバーは、地底湖で放っていた光をしっかりと抑えている。
――敵に気づかれないよう配慮して、光を消してくれたのか?
あの奈落の底のようなだだっ広い空間さえ、くまなく照らしだすほどの強い光だ。
ここでそれを出してはあのネズミに気づかれないわけがない。
「……配慮いただき、ありがとうございます」
オレは剣に口もとを近づけ、
ささやくように小さい声で感謝を述べた。
『いや魔力がなくなっただけだぞ』
「え?」
『光が弱くなったのは魔力を使いはたしたからだ』
「なぁんだ。気をつかってくれたわけじゃないんですね」
『そうだぞ。我はそんな気配りはできん』
「……ちょっと待ってください。魔力がなくなったって……え?」
『ん? むずかしいことは言っとらんぞ。飛行するのに魔力を使いきってしもうた。ちょいとは残っとるがな。ほぼない』
「勝利とは……! 勝利をもたらすとは……!?」
『しかたあるまい。どんな強者にも休息は必要なのだ』
「わかりますけども!」
『そもそも我は千年も封印されていたのだ。その影響で魔力が枯渇していてね。ここまで飛べたことも奇跡と言ってもいい』
「途中で落下してた可能性もあったってことっすね……とんだランデブーだ」
『あと我と会話するときは声を出さなくていい。我とそれをもつ者同士は互いに心で意思疎通ができる。黙ったまま心で念じよ』
「そういうことも最初に言ってくださいよ……!」
オレは小声のまま、つい語気がつよくなる。
よくもわるくもこの剣はじつにマイペースだ。
圧倒的強者ゆえの余裕。そんなかんじがする。
しかしこのかんじ……
悪い気がしないのはなぜだろう?
『尽きたと言ったがゼロではない』
――というと?
オレはさきほど彼女が言ったとおり、心で会話をしてみることにした。
するとどうやら難なく通じたようで、頭のなかに返答のテレパシーが送られてくる。
『“飛ぶ斬撃”の一発分程度だ』
――飛ぶ斬撃!? それってどういう……
『言葉通りのワザさ。その一発分をおぬしに託そう』
――でも待ってください。それを使ったら今ある魔力はなくなるんでしょう?
『そうだな』
――そんな大事なものをオレが使っていいんですか? オレはさっき出会ったばかりの……
『期間じゃあない。大事なのは直感だ』
――直感?
『迷いなくしっかりと前を見すえるおぬしを見て、我は粋だとおもった』
――粋?
『信用するに値する……簡単にいえば“かっこいい”って思ったのさ』
剣は――彼女の声はどこか照れたような、
そんな笑みをこぼしながらオレをほめた。
“悪い気がしない”その理由が今わかった。
彼女は似ているのだ。
オレの相棒――セイレーンに。
――エクスカリバーさん、ひょっとしてあなたは……
『おしゃべりはおわりだ。さあいくぞ』
意図したものか偶然かはわからないが、
彼女はオレの言葉をさえぎるようにして急かした。
オレは吐きだしかけた言葉を胸にしまいこみ、
通路の向こうにいる特大の脅威へと目を向けなおす。
“心で意思疎通ができる”
その本質にも気づかぬまま、オレは当面の課題へと挑むのだった。
オレは目のまえの脅威――超大型ネズミの背後にしずかに立った。
そして剣をかまえる。
その構えは居合い斬り。
ぎこちないながらも眼前の目標へ、視線をまっすぐに向ける。
しずかな敵意を巨大な背中へとぶつけた。
――こんなマネするのはちょっとシャクだけど。
「……先手必勝」
オレはしずかにボソリとつぶやき、
地下は光で満たされた――




