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5話:超大型の脅威

「おいおい……なんだこりゃあ……!?」


 奈落の底から浮上してきたオレは、

 浮上しきる寸前で“声”を聞いた。


 声というより、轟音といったほうがいいぐらいの爆音。


 それは咆哮だった。

 熊のうなり声をさらに大音量にしたような重低音。


 それがまさかネズミの鳴き声だなんて、

 実際にその姿をみるまでは想像もできなかった。



 姿形だけみれば地下3階でたたかった個体と大差ない。

 しかしケタちがいなのはそのサイズ。


 その絶大な脅威に対して、

 必死に剣をふりまわす者と、風の刃を無数に放つ者がいた。


 剣は重い攻撃をなんとかうけながすのがやっとであり、

 風の刃にいたっては着弾しようとも、ネズミに気にすらされていない。


「くそっ! こんなデカいやつがいるなんて聞いてねぇっ!」


「魔法が効かないのよ!? もう逃げましょうよ!」


「こいつが出入口までの一本道をふさいでるんだぞ!? たおさなきゃ逃げられねぇんだよバカ女が!」


 青年剣士が大声で悪態をついた。

 当初の温和で頼りがいのあった姿勢はみられない。


 その圧倒的なチカラでオレを殴りふせていたときの余裕すら、

 今の彼の表情からは消えうせていた。


 彼らのあのあせりようをみるかぎり、

 どうやらあの超大型ネズミの出現は計算外だったらしい。


 以前の青年剣士の発言から察するに、

 彼らはここの洞穴のことを、地下3階でみた犬サイズネズミのみの巣穴だと予測していたようだ。


 遠くの岩かげから様子をうかがっているオレの目からみて、

 超大型ネズミは青年剣士らの身長を倍にしても足りないぐらいの巨大さだ。


 よくみると毛並みがすすけたり大きな古傷があったり、

 歴戦を生きぬいた強靭な個体であることもうかがいしれた。


「それに……なんだあの目……」


 真っ赤にたぎる強いまなざし――

 はたからみても強烈に感じるその憎悪。


「あんな目をする生き物……まるであのときの……!」


 オレは自分の幼少期を思いかえす。

 森に迷いこみ、猛獣に睨まれたときの記憶。


 それは“殺意”――


 獲物の息の根を止めたいと強く願う、捕食者の意思。


 たんなる肉食獣の狩猟本能か、

 ナワバリに無断で踏みこまれた怒りによるものか、


 超大型ネズミは目のまえの2人の侵入者に対し、

 ギラついたするどい視線をむけていた。


「……ていうかオレも侵入者なんだけどな」


 仮にオレがこの岩かげからでてアレにみつかったなら、

 オレも青年剣士らとおなじようにあの視線につらぬかれる。


 この予想外の状況で、

 まずなによりオレが優先すべきなのは――


『ちょっとアンタらぁ! わたしをここからだしなさいよぉ!』


 踊り子の腰にキーホルダーのようにさげられた小さな檻。

 そのなかから甲高い抗議の声がきこえてくる。


 オレが優先すべき彼女――

 助けだすべき大事な相棒がそこにいた。


「無事みたいだな……」


 いやこんな危機的状況なうえ檻に入っている状況で、

 無事だなんて言えないかもしれないが


『もう優先事項はネズミでしょぉ!? わたしは一刻もはやくアベルを助けなきゃならんのよ!』


「うるさいわね! だまりなさいよこの虫ガキ!」


『虫ィ!? わたしは妖精ぃ!!』


 いつもの威勢、

 いつものセイレーンだ。


 やつらに痛めつけられてるのではないか、

 このたたかいにまきこまれたんじゃないか、

 そんな心配をしていたのだが、彼女のいつもどおりの様子を見てひとまずは安心する。


 ……安心できる状況でもないのだが。


『さてどうするよ少年?』


 ふと頭のなかから声がした。

 オレの右手に握られた剣がおくるテレパシーだ。


 オレはやつらに気づかれないように音量をおとしつつも、

 芯の通ったハッキリした声で返答する。


「もう決まってる」


『状況は想定していたよりはるかに困難なようだぞ』


「かまうもんか」


 オレは剣を手に、

 迷いなく岩かげから一歩ふみだした。


「たたかって勝つ――だれが相手でも。……なにが相手でも」

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