4話:浮上いざ地下4階
地下?階、
地底湖の中心部、祭壇――
「あの……剣さん?」
オレは地面から引きぬいた剣を手に、
その剣にむかって問いかけた。
『“エクスカリバー”とよびたまえ』
剣は――エクスカリバーは自分のことを“剣”と呼ばれることに不服なようだ。
即座に訂正してきた。
その声が女性であることからして、
まるで女らしさを気にしている恥じらいの態度のようだ。
もっとも、その凛とした声に恥じらいなど微塵もないのだが。
「……願いを叶えてくれるんでしたよね?」
『そんなこと言っとらん』
「え」
『我はおぬしの望みをきいただけだ。チカラを貸すとも言ったが、願いを叶えるなんぞヒトコトも言っとらん』
「えぇっ!?」
『そもそも我は満願成就のチカラなぞもちあわせとらんし』
「えぇ……」
しかしたしかに思い返してみると、
ただ脈絡もなくオレの願いを聞いてきただけな気がする。
オレが“これはそういうこと――お約束か”と勝手に納得しただけだ。
“それを叶えてやる”なんて言ってなかったような気も……
「じゃあなぜ願いなんか聞いたんですか……?」
『興味本位』
「まぎらわしい……」
オレはハァと溜息をつき、
あらためてあたりを見回した。
「……すいません。わかりました。あとはオレがなんとかします」
『ほう。なかなかに聞きわけがいいじゃあないか』
「もともとこれはオレ個人の問題でしたから。オレが乗りこえなきゃならない」
『はっは! やはりおぬしはおもしろいのう!』
凛としたり脅してきたりおごそかになったり笑ったり、
刀剣なのにずいぶんと人らしい表情を見せてくる。
なんなんだろうこの人――
いや、この人間臭い剣は……
『我には願いを叶えるチカラはない。だが無力とは言わんぞ』
「どういうことです?」
『我は“勝利の剣”。その二つ名の意味を考えてみよ』
「……わかりません」
『かんたんなことだ』
エクスカリバーは自慢げに言うと、
うれしそうに刃先をきらめかせた。
『ものすごく、ものすごいのだよ』
きがつけばオレは剣の柄をにぎり、
またたく流星のように宙を駆けていた。
“跳ぶ”ではなく“飛行”している。
空を――奈落の穴をさかのぼるように飛んでいた。
「~~~~~ッッッ!!」
オレは猛烈な風を全身にうけ、
ふりおとされないようただ耐えることしかできなかった。
不平を漏らすこともできないし、
叫び声をあげるスキすらない。
『これが我だ! 勝利の剣だ! その脳裏に焼きつけたまえ!』
あいもかわらずエクスカリバーは、
オレの脳内に堂々たるテレパシーをおくってくる。
虹の光をはなつ聖剣。
テレパシー。
空を飛ぶという摩訶不思議な現象……
どれもこれも今まで味わったことのない経験だ。
オレは圧倒されつつも、どこか心おどっていた。
このさきに立ちふさがっているであろう脅威、
そして囚われているセイレーンのことを考えれば不謹慎とも言える感情だ。
たのしむ余裕などないはずである。
しかしオレは鼓動の高鳴りをおさえられない。
これは好奇心によるものか、
あるいは理不尽を打破できるであろう予測からか、
はたまたべつのなにかか――
いや、今はこんなことどうだっていい。
考えるのはよそう。
オレは今目の前のことだけを考えるんだ。
青年剣士と踊り子――
オレを陥れ、奈落に落としいれたふたりの魔法使いを倒し、
セイレーンをとりもどす。
むずかしく考えるな。
単純なことだ。
たたかって勝つ――それだけだ。
◆
単純な――はずだった。
「くそっ! くそがぁっ!!」
「こないで……こないでよぉっ!」
しかしいまオレの目の前には、
まったく予想外の光景がひろがっている。
大ネズミとふたりの魔法使い。
――いやちがう。
地下3階でたたかった個体とはまるでちがう、
ケタはずれにバカでかいネズミ。
超大型ネズミが2匹の虫けらを蹂躙している――
単純からはほどとおい光景だった。




