2話:奈落の穴
ダンジョン地下4階。
「ずいぶん広いところに出ましたね……」
地下3階までの洞穴状とはまたちがう、
かなり広い空間がそこにはあった。
広い空間のなかに、一本道。
3人が十分に歩ける幅ではあるが、なんとも違和感を感じる造りだ。
「気をつけてね。道の端は奈落よ」
「奈落……?」
「地獄の穴ってことよ」
「地獄って……」
『うわぁすっごーいよアベルぅ。底が見えないぃ』
セイレーンがフワフワと道の端をのぞきこむ。
それを聞いただけでオレは端に寄る気が失せた。
「ここはもともと鉱山だったんだけど、モンスターが棲みついてイジったり、自然に変形してダンジョンになったんだ。その穴も地下水に削られてできたんだよ」
「へぇ~なるほど」
「さぁ目的地だ」
気づけばオレたちは通路の端、目的地についていた。
なにやら先ほどの一本道よりも幅が広くとってあるようだ。
なにやら柱木や机だったものの残骸など、
人工物だったものがいたるところに散乱している。
「ここは……?」
「ここは元・鉱山だとさっき言ったろう。ここで昔の人々は高濃度の魔石を発掘してたのさ。今日の目的はそれなんだよ」
「魔石……!」
ついにきた!
オレはこのためにダンジョン探索に来たんだ……!
やっぱりこのパーティに入って大正解だ。
初の冒険で初の成果なんてオレはなんてツイてるんだろう。
「……そう、今日の目的は魔石……それをエサに“キミをここにおびきだすこと”」
「え、今なんて……?」
青年剣士の発した言葉の意図がわからず、オレは思わず聞き返す。
しかし質問に返答はない。
そのかわりに返ってきたのは、
いたって冷淡な“敵意”であった。
「魔道具発動」
『うひゃっ!?』
「――っ!? セイレーン!」
突然青年剣士が何かを取り出し、セイレーンに投げつける。
セイレーンは小さな悲鳴をあげ、小さな檻に閉じこめられた。
「あなたいったいなにを……っ!?」
「これは妖精の檻。妖精を捕らえることだけに特化した魔法道具だ。かなりめずらしい1点物なんだよ」
「そんなことを聞いてるんじゃあないっ!」
オレは青年剣士に対する敬意もわすれ、声を荒らげた。
閉じこめられたセイレーンを救おうと走り寄ろうとするも、無慈悲な鉄拳によって阻まれる。
「ぐがっ!」
「させるかよ」
『アベル! くっそぅこんな檻なんて……』
セイレーンが檻の鉄柵に触れた直後、閃光が走る。
『痛ぁっ!!』
「妖精の魔力にだけ反応するバリアさ。ウチの先祖が妖精狩りやっててね。実家の蔵から持ちだしたもんなんだけど、まさか今になって役立つとはねえ」
不敵な笑みを浮かべる青年剣士。
その表情にさきほどまでの頼りがいある面影は残っていない。
「最初からセイレーンが狙いで……!?」
「ああそうさ。ジョーシキで考えてみろよ。おまえから妖精を引いたらなにが残る? 魔力ゼロの能ナシだろ!」
「こんなことギルドがゆるすわけがない!」
「『能ナシはしっぽまいて逃げちまった』って言えばいいんだよ! 普通の冒険者相手だったら疑われるかもしれねぇが、魔力ゼロの能ナシだぜ? 逃げないほうが不自然なほどだっての!」
青年剣士はぎゃははとイヤらしい笑い声を響かせる。
「そもそもここはただの“ネズミの巣穴”だからなぁ。もう魔石は採りつくされ踏破されつくして、ダンジョンですらねぇのよ!」
「そんな……」
オレはあらゆる反論の芽をつぶされた。
自分とセイレーンの状況が絶望的である事実がつきつけられる。
『アベル! キミだけでも逃げろ!』
「ムリだね。あきらめろ」
「いやだ」
「あ?」
「わるい、セイレーン。オレはキミを置いて逃げるなんて絶対にしない」
『アベル……!』
「なによりこいつらに心底ムカつく……! 負けてたまるかよ!」
「……なーんて。気合いでなんとかなると思ったかよ?」
強化の火属性である魔法使いに魔力ゼロ人間が敵うはずもなく、
オレは奈落の穴の淵で、首根っこをつかまれ宙ぶらりん状態になっていた。
「事後調査でバレる危険性がある。できるだけ痕跡は残したくない」
「がはっ……!」
「さっさと落ちて消えてくれ。底辺クン」
「負けて……たまるか……!」
オレが落ちたらセイレーンはどうなる?
それを思うと、あきらめるという選択肢はありえなかった。
青年剣士の腕をつかみ、思い切り力を入れる。
「ははは。だから魔力ゼロの腕力なんかじゃ俺には――」
青年剣士の顔から余裕が消える。
「なんだこの馬鹿力は……!」
「へへっ……オレの気合い、思った以上に効いたみたいだな……」
オレは不敵に笑ってみせるが、
直後、衝撃が襲い来る。
「がっ……!」
「さっさと落ちやがれ……」
青年剣士はあいたほうの腕で、
怒りのままにオレのどてっぱらへと拳をめりこませた。
オレの記憶はここまでである。
そこで意識がほぼなくなった。
全身を浮遊感が襲い、
重力にしか意識が向かなかった。
そのままオレは落ちていった。
深く……ただただ底辺以下へと堕ちていった。
◆
「ねぇ……やばくない?」
「なんだと? いまさら殺人におじけづいたのか?」
「そんなのお宝のためならどうだっていいわよ! ……そっちじゃなくてさっきのアンタ。腕をつかまれて『馬鹿力』」とか言ってたでしょ?」
「死に際のあがきにちょっとおどろいただけだ」
「……おどろいちゃだめなのよ」
「はっ! たいしたことねぇよ。不意を突かれただけで――」
「『強化の火属性であるアンタ』が『魔力ゼロの能ナシの腕力』におどろくなんて、あっちゃだめなのよ……!」




