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11話:アベルとセイレーン

 あの“初ダンジョン探険”から、

 ちょうど1日ほどが経過した。


「セイレーン、身体の具合はどうだい?」


『おかげさまでバッチリさ! すりキズひとつ負ってないよー!』


 オレとセイレーンは宿屋の一室で

 互いの無事を喜びあって談笑していた。


『どうもあの檻は“妖精をきれいな状態”でつかまえる意図があったんだね』


「ある意味、捕獲対象を保護する役目も果たしてたんだな。……よかった。一時はほんとうに心配したんだぜ?」


『そりゃこっちのセリフだい!』


 セイレーンは小さくほそい腕をぴょこぴょことふり、

 一生懸命、不平をアピールしている。


『檻のなかからぜんぶ見てたんだぞ! やつらに気づかれちゃいけないと思って声はかけなかったけど……ムチャしてからに!』


「ハハハ、ごめんごめん」


『聞きたいことは、い~っぱいあるんだからな。あんなことや、こんなことや……その剣のこともそうさ』


 セイレーンが指し示すのは、

 オレが地下で出会った“聖剣エクスカリバー”。


 “彼女”はあれからも、

 ほぼずっと沈黙している。


 ただひとこと寝言のように

 “すこし休むよワトソンくん”などと意味不明な言葉をつぶやいたきり、ふたたび眠りについた。


 彼女の言う“魔力の枯渇”は、

 そう簡単には癒えないらしい。


 それほどまでに時間を要する大切な魔力モノだったのなら、

 なおさら頭がさがる思いでいっぱいだ。


 彼女にもセイレーンと同様、

 しっかりとお礼しなければ。


「……ああ。剣のことも追々おいおい話すよ」


『まぁいろいろ聞きたいけど、なにより聞きたいのはさ……“あのふたり”のことさ』


「“あのふたり”……ね」


 ――“あのふたり”。

 セイレーンを捕らえ、オレを落としいれた彼ら。


 オレたちを――殺そうとしたやつら。


『あの青年剣士と踊り子を、なぜ“たすけた”んだい?』


 そうオレは崩れゆくダンジョンから、

 青年剣士と踊り子を背負って脱出した。


 セイレーンは目をさまして以降、

 ずっとそのことについて気にしている。


「ふしぎかい?」


『あたりまえさ! あれだけのことをしたやつらを……死んでいいとは言わないけどさ。たすける義理はなかったでしょう?』


「そうかな?」


『そうだよ!』


「まぁさすがに大の大人ふたりを背負うのは結構きつかったなハハハ」


『“きつかったなハハハ”で済ますんじゃないよぅ!』


「大丈夫大丈夫。普段からあれぐらいの砂袋かかえてトレーニングしてたし」


『そういう問題じゃ……』


 不服だ、理解できないといった様子のセイレーンを尻目に、

 オレはイスにすわり、ひといきついて語りはじめる。


「……“あのふたり”に今出会えたことは、オレにとってよかったことだと思ってるんだ」


『え?』


「オレは今回の冒険が意味のあるものだと思ってるんだよ。」


『……キミのその言い分が1番おどろきよ』


 そう、オレは、

 今回の冒険を後悔していない。


「もちろん、セイレーン――キミが無事だったからこその話なんだけどね」


『わたしはともかく、キミは死にかけたんだよ!』


「それでもさ」


『殺されかけたのに“よかった”と思えるの?』


「ああ」


 オレはセイレーンの疑念に対してすべてを肯定した。


「だけどあのふたりの行いすべてをゆるしたわけじゃあない」


『まぁ、そうだよね』


「そもそもキミを捕らえていた檻の解除方法がわからなかったからね。その方法を吐かせるためでもあったんだ」


 地下から脱出したオレはまず、

 青年剣士の首根っこをひっつかまえて“妖精の檻”を解除させた。


 超大型ネズミとの戦闘、オレとの戦闘、地下の崩落――

 たびかさなる不測の事態に神経をすり減らしきっていたからか、青年剣士はあっさりと解除した。


 ――もうおまえとかかわりたくない。

 感謝どころか怒りの言葉さえもぶつけてこずに、彼らはほうけていた。


 ギルドに身柄を引きわたす際も、

 なんの抵抗もなく管理員にしたがっていた。


「あんな姿見た時点で、復讐だなんだはバカらしくなったのさ」


『そういうもんかね』


「みんな無事ならそれで無問題! それに……オレはあいつらと同じにはなりたくなかったから」


『アベルはアベルじゃないか。わたしを見捨てることもしなかったし、やつら――強大な理不尽にもおくせず立ちむかっただろう?』


「あそこであのふたりを置きざりにして死なせてたら、それこそ同じことさ。私欲のためにオレを殺そうとしたあのふたりと同じ。だから、ああはなりたくなかった。だから背負った。それだけだ」


 オレはあのふたりを脱出させた心情について語った。


 セイレーンはまだどこか納得できない様子だったが、

 しばらくうんうんうなったのちに、


『まぁそれがアベルのイイトコだわね!』


 と納得して、頭をなでてくれた。


 なんだかむずがゆい気恥ずかしさがあるが、褒めてくれているのだろう。

 もちろん、悪い気はしなかった。


 しかしセイレーンは自分のほおに指をあて、

 なにやらまだ納得できないことがあるらしい様子をみせる。


「どうした? まだなにか気になるのか?」


『うーん、いやさね。気合いってすごいな~って』


「なんじゃそりゃ」


『だってさ、だってさ。最初の親玉ネズミを倒したチカラはその剣のチカラなんだろうな~ってわかるんだけど、ちょっとそれだけじゃ“ありえないこと”があったじゃない?』


「ああ、たしかに」


『ほら、首つかまれてたときとか……』


「そのことについてなんだが、気づいたことがあるんだよ」


 オレはそう言うと、地下内でのできごとを思いかえす。


 セイレーンの言う“オレが青年剣士に首根っこをつかまれ奈落に落とされかけていたとき”と、

 彼女は気を失っていたが“踊り子の風刃がオレに当たらなかったとき”のことを。


 おそらく、

 “エクスカリバーの言っていた障壁を通過できたこと”もかかわってくる話だろう。


「オレはたぶん――“魔力に対する耐性”をもっている」


『魔力に対する……耐性?』


「そうだ。しかもそれは外的がいてき要因ではなく、オレがもともともっている特性……」


『……ちょっとまって』


 オレの言葉をうけて、

 セイレーンはその意味を飲みこめないといったように首をふる。


『あなたはたしかに“無色”と――“魔力がない”、“魔法使いの才能がない”って診断されたのよね?』


「ああ、まちがいない」


『それがどうして“魔力に対する耐性をもってる”だなんて話になるのさ?』


「そうだな。たしかにそう不審に思うのが当然だ」


 オレ自身、自分で言ってて、

 突拍子もないことだとは自覚している。


「だけど、そうでもないと説明がつかないんだ」


『根拠はあるのかい?』


「根拠は……ない。だけど、偶然や奇跡で話を終わらせるにはもったいない仮説があるんだ」


 オレはセイレーンに向かって、

 オレのこのチカラについて説明をはじめる。


「魔力はオレを見失ってる」


 “誰々を攻撃しろ”という“誰々”に“無”を設定することはできないということ。

 “だれしも薄くとも魔力をもっている”と、オレを魔力検査した神官は言っていた。

 つまり魔法は――魔法使いはその攻撃の際の“目じるし”として“魔力”を対象としているのではないだろうか?


「だからオレは青年騎士の魔力鎧を透過して攻撃することができたし、踊り子の風刃にも当たらなかった」


 そして聖剣エクスカリバーを守っていた障壁もすり抜けることができたんだ。


 空気をふせぎきることはできないし、

 空気をなぐることもできない。


 ――魔力はオレを認識できない。


 つまりオレは――オレの“無色”は、

 “無”であり“空気”のような存在なんだ。


「――以上がオレの“仮説”だよ」


『ほぇー……なんかよくわっかんないぃ……』


 あっけにとられたセイレーンの表情に、

 神妙な顔つきで語っていたオレもつい吹きだしてしまう。


「……あっははは! オレもだよ!」


『なんかすっごいってことは伝わってきた』


「ははは……ああ、ありがとう」


 ひとしきり笑ったあと、

 オレはまたあらたまってセイレーンと向きあった。


 オレにとっては、ここからが本題――


「セイレーンオレ決めたよ」


『なにをだい?』


「オレはやっぱり魔法使いになる」


『あんなやつらを見てもかい?』


「あんなやつらを見たからこそさ」


 あんなやつら――

 私利私欲しりしよくのために弱者を平気でふみつぶす理不尽そのもの。


「オレはこのチカラを使って、たたかう」


 理不尽とたたかう。


「ああいう魔法使いをぶっとばしたい。誰も苦しまない世界……それがムリでも、目のまえの理不尽に立ちむかうだけなら出来るはずだと思うんだ」


 両親の命をうばった復讐のためだけではない。

 大切な存在をもう二度と奪われないために――


「先に進みたい。歩みを止めたくない」


 夢への歩み、その道をゆきたい。

 後悔したくないから――


「セイレーン。その道はたぶん、オレ自身はともかく、キミを危険にさらすことにもなりえるかもしれない。だからもしもキミがイヤなら――」


『ストップ!』


「むぐっ!?」


『わたしは好きでキミに憑いてるんだい! そのさきは言わせないし、言うんじゃないよっ』


 とがめつつもトゲのない叱り文句を言ったのち、

 ふぅと鼻を鳴らして、彼女はいつもの笑顔を見せる。


『キミがわたしに伝えるべき言葉は、もう決まってるでしょ?』


「……そうか……そうだな」


 いつもの調子で、

 いつものように、

 オレは彼女にこう言うべきなんだ。


「いくぜ相棒!」


『あたぼうよぅ!』

第1章、完。

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