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9話:理不尽のゆき先

「死にぞこないがなにを調子乗ってやがる――」


 オレがかろうじて立ちあがり、

 青年剣士が罵り返そうとした直後――


 突如とつじょとして轟音が鳴りひびき、

 地面がおおきく揺れる。


「――っ!?」


 オレも青年剣士も思わぬ震動に、

 その脚をよろめかせた。


 ちくりと痛む脇腹に顔をしかめながらも、

 オレはあたりを見回して震動の源がなんであるかを探った。


 しかしオレは視る前に気づいた。

 最初に響いてきた轟音に聞き覚えがあることを――


「これは……“咆哮”だ……!」


「ぐあぁっ!」


 オレが声の正体に気づいた直後、

 悲鳴をあげたのは青年剣士だ。


 なにものかによる投石が、

 青年剣士を直撃した。


 コブシ大の岩石が右脚に直撃し、

 くずれるようにガクリと膝をついた。


 オレはハッとして、視線を動かす。

 通路奥、“絶大な脅威”が崩れおちた場所を見やった。


 そうだあいつは――超大型ネズミは、

 “消滅”していなかった――


「仕留めそこねていたのか……!」


 魔物は厳密には生物ではない。

 それは命尽きると同時に魔石を残して“消滅”する――


 超大型ネズミは生きていた。

 どてっぱらを斬られても生きていたのだ。


 今思えばオレは、アレが倒れ伏したあと、

 消滅したかどうかを見とどけなかったことに気づく。


 斬撃を放った直後に、オレ自身にも斬撃が襲い来たからだ。

 確認するヒマがなかった。


 ……今はそんな言い訳をしているヒマもない。


 咆哮による震動のせいか、

 なんらかの特殊能力によるものかはわからない。


 しかし原因がなんであろうと、

 目の前の現実は容赦なく突きつけられる。


 ――地下が崩れはじめた。


 超大型ネズミはさすがに力尽きたのか、

 ひとしきり鳴いたのち、砂の城が風化していくかのように消滅していった。


 しかしことの原因が消滅しようと、

 地下の崩落は止まらない。


 崩落しつつあるその場には、

 オレと、右脚を砕かれてうごけない青年騎士が残される。


 振り返って視線を移すと、

 すでに上層への昇降口へと向かう踊り子の姿があった。


 その腰にはキーホルダー――

 もとい、セイレーンを閉じ込めている妖精の檻がさげられている。


 幸いオレの傷のほうは浅い。

 どてっぱらを横一閃に斬られたのにもかかわらず、だ


 その理由をオレは、

 斬られた直後に気がついた。


 オレには青年剣士にない、

 “相棒の加護”があったんだ。


「セイレーン……おまえはいつでもオレを見守ってくれてたんだな……」


 彼女がオレのふところに忍ばせていたのは、

 妖精の魔力が込められた“お守り”。


 いつだったかオレがこっぴどくフラれたときに、

 “縁結びのお守りよぅ”なんて言って持たせてくれたやつだ。


 セイレーンの“やさしさ”が込められたソレは“赤い霧”を発し、

 青年剣士の斬撃が触れる寸前、オレの“衣服”を強化したのだ。


 そのおかげで敵意のこもった悪意ある一撃は、

 オレの脇腹をかすめるだけにとどまったらしい。


 ――オレは頼りになりっぱなしだ。

 セイレーンにも、エクスカリバーにも――



 オレはあらためて前を見え、

 うずくまっている青年剣士へと近づいた。


 長剣は被弾の際にすでに取り落としている。

 彼の腰には空のさやがさげられていた。


 オレはその鞘をぶんどり、自分の腰にさげる。

 抜き身のエクスカリバーをそこに収納した。


 不意の投石ダメージがよほど効いているのか、はたまた連戦ですでに疲弊しきっていたのか、

 青年剣士はオレの行為に対しほとんど抵抗しなかった。


「……敗者から根こそぎ奪おうってのか。いいご身分だな。そんな余裕はないはず――だっ!?」


 そしてオレは身動きできない青年剣士を抱え、

 背負いあげた。


 ちょうど病人を介抱し、

 動けないソレを運んであげるようなかたちだ。


「くそが……! こんなことをして恩でも売るつもりか!?」


「“いい子ちゃんぶって助ける”……そう思ったか?」


「ほかになにがある!?」


 ハハハとオレは、いつかの青年剣士のように鼻で笑った。

 青年剣士はオレのその様子を見て怪訝けげんな顔つきになる。


「悪いがオレは“いい子ちゃん”からはほど遠い人間なんだ」


「なにを言ってる……?」


「これからやることはただの……“八つ当たり”だよ」


 オレはそう言うと青年剣士の胸ぐらをがっちりとつかんだ。

 そしてボールを投げる要領で“ふりかぶる”。


「……ふっとべ」


 オレは標的――背を向けて走り去ろうとする踊り子へと、

 理不尽の権化たる青年剣士を“投球”したのだった。

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