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1話:無色な無職

 時はいにしえ

 魔法使いの時代。


 少年少女はみな15歳になると教会で魔力検査を受ける。

 そこで魔力の色を知り、魔法使いへの第一歩を踏みだすのだ。


 春一番が吹いたその日、

 15歳を迎えたオレ――アベルは検査を受けるため教会へと足を運んだ。


 ブラウンのハネッ毛をゆらしつつ、丸い目を希望で爛々(らんらん)とかがやかせる。

 オレも今日から魔法使いの階段をのぼる……はずだった。


「無色です」


「むしょ……え? それってどういう……」


「無色ですよ。ようするに『魔法の才能がない』ということです」


 女性神官は淡々と告げた。


 魔力には火水風雷土の属性があり、それを赤青緑黄茶の色で表すのだ。


「無色とはつまりそういうことですよ。薄かろうとだれしも色があるものなのですが、アベルさんにはまったくどの色も見られません」


 オレは愕然とした。

 あいた口がふさがらない。


「それでは検査は以上です。では次のかたー」


「いやいや勘弁してくださいよ! オレは魔法使いになりたくて!」


「魔法使いは魔力がなければまず難しいでしょうね。では次のかたー」


 必死にすがりつくオレを、女性神官は他人事としてあっさりとあしらった。

 立ちつくす背中をトンと押すようにして教会から追いだす。


 オレのなかで燃えさかっていた思いを冷やすかのように、

 冷たい風がひゅるりと吹きすさんだ。


『緑……風属性ですね』


『おーかっけぇ! やったぜ!』


 背後の教会内部から歓喜の声があがる。

 入れ違いに教会に入った同世代の少年が検査を受けたのだろう。


 彼は魔法使いとしての第一歩を踏みだしたのだ。

 オレはまるで現実を受けいれられずにそこに踏みとどまっている。


「……帰るか」


 オレは肩を落とし、その場をあとにする。

 トボトボと自宅へと歩を進め始めた。


「母さんや父さんにどう説明しよっかなぁ……。進路は魔法使いしか頭になかったし、ほかに候補をぜんぜん決めてなかった……うーん」


 オレは頭をかかえた。

 頭をかかえ、自分がどうして魔法使いになりたかったのかを思い返す。



 アベルが魔法使いにあこがれたのは、今よりずっと幼いころだった。

 森で迷って猛獣におそわれたアベルを、あるひとりの魔法使いが救ってくれたのだ。


 理由はただそれだけである。

 神秘のローブに身を包んだその頼りがいのある背中に、ただ猛烈にあこがれたのだ。



「……やっぱりダメだ。あきらめきれない」


 オレはすっくと立ちあがりその拳を握りしめた。

 落胆の色はもうオレの魔力色同様まっしろに消えうせた。


「才能がなかろうがなんだい! オレはあの人みたいな立派な魔法使いになるって決めたんだ! いまさらその信念曲げてたまるかよ! 気合いだ気合い!」


『気合いじゃどうにもならんことはあるぞぅアベルぅ』


 けらけらとからかう声が突如として耳に響いてきた。

 そのムジャキで甲高い声は毒舌というよりも純真無垢さをまとっている。


「またイヤミかよセイレーン」


 ポンという効果音とともにあらわれた、宙に浮く小人。

 これは妖精――はぐれ妖精のセイレーンである。


『向こう見ずなのは危険だぞぅ。向こうの水は甘い水でも、毒の水かもねぇ。甘い毒は怖いぞぅ。ときにはあきらめる勇気も必要必要~』


「あーもう、うっさいな! ちょっとはなぐさめるとか応援するとかできないのかよ! くっそぅ!」


『まーまーおちつけおちつけ』


 セイレーンはあの森で迷ったころからの長い付き合いだ。

 オレにとりつき、こうしてなにかとイジってくる。


 しかしイジり言葉も彼女なりの気づかいであることはわかっている。

 だから悪い気はしない。


『気合いバカはなんでも意地になるから大変ねぇ』


 ……前言撤回。

 悪い気はする。


「キミがどうこう言おうとオレはもう決めたからな! 無色だろうが無職だろうが、絶対に魔法使いになってやる!」


 オレはストレスを地面にぶつけるかのようにして、ずんずんと大股に歩き始める。


 ……セイレーンの言うこともわからなくはない。

 魔力がないのに魔法使いだなんてそもそも資格がありえないのだ。


 彼女に対するイライラではない。

 自分のふがいなさに対するイラつきなんだ。


『で、どうするの? あてはあるのかい?』


「魔石」


『魔石ぃ? 魔力の結晶石がどうしたのさ』


「前に父さんから聞いたことがあるんだ。超高濃度の魔石は願いを叶える力があるって」


『そんなの迷信だい』


「まあ願いを叶えるなんてのは無理でもさ。魔力の塊だぜ。魔法使いになるための足がかりにはなるかもしれない。だとしたら行き先は決まってる」


『というと?』


「冒険者ギルドだ」



「ってなわけで受付さん! オレにダンジョン探検の冒険者パーティを紹介してください!」


「お客様。ドゲザはおやめください」


 街の中心部にあるパーティ紹介所にて、

 戸惑う受付嬢をまえに、オレはもう床に穴をあけるぐらいの勢いで真剣さをアピールしていた。


「ですから無理なのです。冒険者の方はみな魔力をもつことが必須条件なのですよ。魔力はいわば戦力値を表すようなもの。それが無いということではどのパーティにもご紹介できません」


「そんなぁ……」


「登録はできますが、おそらくどのパーティからも指名はされないかと。なにかあなた様の強みなどがあればまだ可能性もありますが」


「強み……あ、やる気と気合いなら誰にも負けま――」


『しゃーないなぁ。わたしがいるよん』


 オレのやる気アピールにかぶる形でセイレーンが出現する。

 受付嬢はぴくりと目を見張った。


「おや妖精憑きフェアリーテイマーですか」


「いやそんな大層なもんじゃなくてただの友だ――」


『そうさこの人は我がご主人マスター! ひかえおろ~』


 セイレーンはオレに小さくウインクをした。

 自分をギルドへのアピールポイントにしろということだろう。

 彼女はなんだかんだいって本当に頼りになる小さな友人だ。

 今日の晩は大好物の花の蜜を腹いっぱい食わせてやろう。


「たしかに妖精憑きはめずらしいですが、それだけでは……」


「ウチならいいぜ」


 アベルのうしろ、

 テーブル席に座っていた男女2人組が声をかけてきた。

 

 金髪で端正な顔立ちの青年と、

 露出度の高い踊り子衣装を身につけた妖艶な女性の2人組だ。

 

「俺たちブロンズ級の冒険者パーティなんだけどさ。もしよかったら俺らとダンジョン探索に行かないか? ちょうどもう1枠さがしてたところなんだ」

 

「ほんとですか!? ぜひ!」

 

 オレは跳び起きて全身でよろこびを表現した。

 しかし受付嬢はおずおずと彼らに確認の言葉を投げかける。

 

「あの……みなさまがた、本当にこの方でよろしいのですか?」


「ちょうど妖精憑きのメンバーと組みたいと思ってたんだ」


「ですが、彼は新人の方ですし魔力のほうも……」


「ああ。さっき傍から聞かせてもらったよ。なに、初心者ダンジョンのさわり部分を見てまわるだけさ。ダメそうなら引き返してもらうよ。それに……」


「やる気なら! 気合いなら負けません!」


「彼ももうノリノリだしね」



 そうしてオレは初のギルド訪問で初パーティ入りを果たし、

 今まさに冒険への――いや、大冒険への第一歩を踏みだしたのだ!


「アベルくん。声でてるよ心の声が」


「あっすみませんっ!」


「あなたのご主人様ってなんか変わってるわね」


『いつものことですぅ。慣れましたぁ』



「ここがダンジョン……!」


 ダンジョンにもいろんな種類があるだろうが、

 ここは下へ下へと進んでゆくタイプの地下迷宮らしい。


「暗いから足もと気をつけなよ……って、今回は妖精がいるからその心配はないか」


『妖精光ってやつですよぅ。ぺかーっとね』


 普段は暗いであろうこの地下ダンジョンも、セイレーンの放つ薄緑の光によって明るく照らされていた。

 壁はゴツゴツとした岩肌がむきだしで、まるで鉱山の洞穴である。


「ダンジョンというと、モンスターは出たりするのでしょうか?」


「さすがに地下3階まで来るとね。……ほら」


 オレは青年剣士が指し示したほうを見る。

 そこには今まで見たことのないサイズの大ネズミがいた。


「噂をすればってやつね」


「うへ……犬ぐらい大きいじゃないですか」


「大丈夫。たいした敵じゃない。こういうときは……先手必勝!」


 青年剣士はそう言うと即座に斬りかかった。

 ためらいなくその長剣をふりおろし、敵を一刀両断する。


 その音を聞きつけて奥からさらに2匹の大ネズミが現れるが、

 踊り子の手から放たれた風の刃がそれを難なく切り裂いた。


 切り裂かれたネズミは霧と化し、その場に魔石を残す。

 モンスターは魔力の化身、厳密には生物ではない。


「おおすごい」


「雑魚モンスター相手だからね。これくらいできて当然よ」


「あなたは風属性の魔力ですか?」


「そうね。私が放出の風で、彼が強化の火属性」


 やっぱり魔法はカッコいいな。

 オレはため息とともにつぶやいた。


 実戦に使われる魔法を前にし、

 今日この冒険でなにか手がかりを掴まなくてはという気持ちがより一層強くなる。


『アベルうしろ!』


 なじみ深い甲高い声でオレは我に返った。

 背後をふりかえると、いつまにかもう1匹の大ネズミが横穴から這い出し、オレに飛びかかろうとしていたのだ。


「――ッ! セイレーンたのむ!」


『あいあいさー!』


 オレは腰から短剣を抜くと、セイレーンに頼みの一声をかける。

 するとセイレーンはそれに応えて赤い霧を発し、オレの短剣にまとわせた。


 そして敵を一刀両断……とまではできないが、ひるませることはできた。

 それに追撃する形で踊り子が風刃を放ち、ことなきを得る。


「ふぅ……。ありがとうございます」


「無事ならなによりよ。いいものも見れたしね」


「妖精の魔法は話には聞いていたが、見るのは初めてだ」


「まぁ見ての通り威力は補助レベルですけどね」


『こらぁアベルぅ! 恩人に対してなんたる言い草!』


「いててっ! いやいや感謝してるってセイレーン!」


 ポカポカとオレの頭を叩くセイレーン。

 それを傍目に、青年剣士はハハハと笑って件の横穴を指さした。


「どうやらそこが下層におりる階段みたいだね」


「え……あ、本当だ」


「アベルくんの初戦闘も終えたことだし、次の地下4階で一度探索を終えるとしようか」


「そうね。じゃあいざ4の階へ。お宝がたのしみだわ」

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