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首を狙った赤髪男の一撃を、上体を仰け反らせる事でかわす。かわしがてら足で奴の事を蹴りあげる。普段は尻尾を使って行うサマーソルトだが足でやっても変わるまい。
顎を砕くつもりで狙ったのだが奴は槍の柄で防いだようだ。槍を突き出してからの引き戻しが速いな。
「当たらねぇ上に反撃してくるとか、どんな反射神経してやがる!」
「貴様の能力は奇襲するにはもってこいだが、初回で我を仕留められなかった時点でその有用性は半減以下だ」
影から攻めてくるとわかっていれば対処も対応も可能だからな。尻尾だけ元に戻して対応する、とかな。まぁ、飛竜が出ただけでこの騒ぎだ。我が人化を解けば今以上の騒ぎになるのは間違いあるまい。
「ジベル!いい加減にしろ!」
我と赤髪男が膠着状態になったところで眼帯男が動いた。ジベルと言うのはこの赤髪男の名前だろう。
「グレイさん!俺はこいつを殺さなきゃならない!」
「このまま続ければ町にいられなくなるとしてもか?」
「ぐ、それは・・・」
「お前のいきさつなど俺は知らん。しかしトゥーレという得たいの知れない生き物も含めて面倒を見てやる代わりにお前はギルドに入ったはずだ」
「あぁ・・・」
「俺のように受け入れてくれるところが早々あると思うなよ?お前自身でさえ出自が不明なんだ。その上化け物まで一緒ではな」
「トゥーレは化け物なんがじゃない!」
「ふん、それはお前の意見だ。大多数の人間から見れば化け物でしかないさ」
「くそ、わかった、引く」
グレイと呼ばれた眼帯男に説得される形でジベルは槍を下ろした。しかし渋々であることは間違いなく、我を見つめるその視線は隙あらば殺してやるという殺気にまみれたものだった。
「そうか、お前の腕は信用しているんだ。腕前だけでなく全てを信頼出来るようにしてくれ」
そうジベルに話しかけながら去ろうとしたグレイだったが、ふと立ち止まると我に向かって話しかけてきた。
「そうそう、あなたとジベルになんの因果があるのかは知りませんがあなたが強いことはわかりました。もしサルバジオンに不満があればいつでも我がハイドラへお越し下さい。ジベル以外皆で歓迎いたしましょう。それでは」
きっちりとした服を着こなし、見た目は若そうでありながら灰色の髪と、落ち着きがありながらも野心に溢れたその目はまるで、我のいた世界でその世界を手中に納めようとしていた、自称竜王の事を思い出させたのだった。