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フレイについて入った部屋の中には、暗い青色の髪を肩より長く伸ばし、それを後ろで括った男が手を組み、目を閉じて座っていた。この男がザルドだろう。
「さて、初めて見る顔も居ることだし、軽く紹介をしておこう」
フレイが声を発し、それに応えるようにザルドが目を開けた。
「僕の名はザルド」
それだけ言うとまた目を閉じ、動く様子はない。もう紹介は済んだと言うことだろう。
「もう少し真面目に対応した方が良いと思うがな。・・・もしかしたらジュネの話していた女神の使者かも知れん」
フレイがザルドに向かってそう言うと、今まで立ち上がりもしなかったザルドが急に立ち上がり、食い入るようにこちらを見てきた。
「女神様の使者!?派手な格好をしているだけにしか見えないが、いや確かに実力はあるのだろうけど、こんな男が?こいつが使者様に選ばれるのなら僕が選ばれても良いんじゃないのか?いや、そもそもお前、本当に女神様にお会いになったのか?いやいやいや、絶対ただのホラに決まっている。あぁそうだ。全く、女神様にお会いしたなど大言壮語も甚だしい」
そこまで捲し立てるとまた席に座り、何事もなかったかのように目を閉じた。なんだこいつは?一人で板に水を流すように喋ったかと思えば、一人で勝手に納得したようだ。
「ザルドは本当に女神が好きだなぁ。引くわー」
ウィドが笑っているような呆れているような声でそう呟いた。
「まぁ平常運転と言うことだろう。私はフレイ。このギルド、サルバジオンのリーダーをしている。そしてさっきまで喋っていたザルド。彼はこのギルドのナンバー2だ」
そこまでフレイがこちらに向かって言った後、彼はウィドの方を向いて続けた。
「ウィド、君もきちんとした自己紹介をするべきだ」
どうせ商人としか言っていないのだろう?その言葉にウィドは苦笑いしながらフレイに向かって歩き、彼の横に立つとこちらに向かって口を開いた。
「あはは、商人が本業のつもりなんだけどなぁ。ディスター、別に騙してた訳じゃないからな、怒るなよ?」
別に我はウィドが何者でも気にしないのだが前置きが長いやつだ。
「一応有事の時だけギルドのナンバー3をしてるウィドだ。改めてよろしく。ディスターの兄さん」
やけにギルドのリーダーと気軽に話すと思っていれば、身内だったか。それならば納得だな。
「そうか。別に気にしてなどいない。我も改めて名乗ろうか。ディスター、竜だ」
折角なので我も正体を明かしてやったのだが、想定よりも反応が薄い。どうしたものかと思えば二人(ザルドは無反応)は首を傾げていた。
「リュウ?リュウってなんだ?フレイ知ってるか?」
「いや、私も聞いたことがない。何かの役職とかではないか?」
なるほど、竜を知らぬのか。知らぬものに驚くことは出来ぬな。しかし竜を知らぬとは。この世界の竜は随分大人しいのだな。
「わからぬなら構わん。別に困る事など無いのだからな」
「そうか、それでは各々自己紹介も済んだことだし本題に入ろう。ウィドがわざわざこちらに来たんだ。何か厄介事が起きたんだろう?」