大樹《世界を支えるもの》
「大樹の様子は?」
短く整えられた髪は金髪で、身にまとう外套は真紅に金の刺繍。襟につけられた徽章の多さはその人物の身分を示している。他でもない、アルドランドの、第一王子にして一番目の王位継承者。
「このままではあと数年保つか保たないかの瀬戸際と。早めに支柱が必要でございます、ロロ王子」
「確かに。大樹の魔力が時たま薄れるのを魔力を持たぬ余でも感じる。金の大樹も銀の大樹も、このままでは保たぬかーー」
アルドランドの王宮。その王宮の中心部に存在する中庭には、この国ーーいや、この世界と言っても過言ではないーーの魔力の供給源たる大樹が存在する。
金の大樹と銀の大樹。美しく輝く幹はどこまでも空高く伸びて、その枝ぶりは見えない。しかし、この国全てを愛するように枝葉は隅々まで存在する。空高くに。
「支柱の確保は?」
上を見上げたままロロ王子が言う。
「確保はできてございます。あとは、儀式までかと」
跪いた男の銀の髪がしゃらりと揺れる。
「この案件、お主に一任する。魔力が枯れてしまわぬ内に、行わねばならぬ。ーー何、重荷に思うでない。数十年に一度は行わねばならぬ儀式だ」
「はい。心得てございます」
「では、余は雑務があるゆえ」
「は」
男は一礼して、去ってゆく。王子は愛しげに大樹の幹を撫で、外套を翻した。