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神代勇人は雄染常態!  作者: 忍龍
序ノ口というか前菜というか、備えが無いから憂いまくり
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08

 (おおおぉぉぉぉぉぉ………………ぁれ?)



 記念すべき走馬灯初体験を済ませ、決めたくも無い覚悟を決めそこなった勇人青年でございましたが、しかしながら残念な…いえ、一向にその身に衝撃が訪れることはございませんでした


 恐る恐る硬く閉じた目を開けば、そこにはやはり身も竦むような光景は健在ではございましたが、彼の身体は階段を転げ落ちることもなく、巫女たちの手によって左右から繋がれていたのでございます



 『お行儀が悪いですわアプス、それから分かっているとは思うけれど』


 『独り占め良くない、30…三分、三分交代、絶対』


 『もちろんでひゅ! さんぷ…せめて十分がいいですぅぅううう!!』


 『まぁ、聞き分けの無いのはこのお口かしら』


 『いひゃいっいひゃいでふみぁぷりゃひゃんっ』


 『抓るのはわたしであってわたしでない、これはプラウの正当な躾け』


 『れ、れもれもっ、ぷりゃうねぇひゃまもみぁぷりゃひゃんもさんぴゅんれひゃまんれきりゅんれひゅか~?!』


 『『う。』』


 (び…びびった…ま、魔法とかか? ファンタジーな世界だもんな、うん、たぶんそうだ魔法魔法、……ファンタジーな世界なのに階段落ちで死にそうになるとか、カンベンしてくれぇぇぇ……)



 かしましく巫女たちがじゃれあう一方、うな垂れた視線の先の幼獣正宗の穢れ無いつぶらな瞳と目が合った勇人青年は、いつのまにか二足で立つその姿に違和感を感じることすらもできず、ぐったりと脱力したのでございました



 『巫女たちよ、その様子ではいつまでも旅立つことはできぬぞ』



 今まで巫女の少女達がどんなに騒ごうとも嗜めずにいた白装束の方が唐突にそう彼らに声を掛け、なんとか恐怖を振り払った勇人青年は不意に浮遊感を感じたかと思うと左右の手を繋がれたままぐるりと反転し、声の主の姿を正面から見ることとなりました


 その手には先ほどまでは無かった古い書物が持たれ、背後には先ほどまでは見えなかった姿が控えており、どうやらその人物から受け渡されたらしきその書物は、差し挟まれた栞により迷い無く特定の頁を示したのでございます



 『失礼しましたわ、改めて誠心誠意必ず果たして参ります』


 『我らはせめて、巫女たちが無理なく勤めるよう祈ろう』



 それは、勇人青年が初めて目にした"魔法らしい魔法"でございました

いえ、"目にした"という表現は的確ではございませんね

 意思疎通を可能にする見た目に変化のないソレとは違い、明確な違いをその目に示したのでございます


 魔法という表現が適切かは彼には判断がつけられないので便宜上としておきましょう



 『視ヨ、地ニ這ウ者、コノ者ノ姿ヲ、聽ケ、空ヲ漂ウ者、ソノ者ノ聲ヲ、應エヨ、水ニ沈ム者、ソノ在リ樣ヲ、何ガ視エル、何ガ聽エル……』



 何しろ勇人青年には"ソレ"以外を目にすることは叶わなかったのでございますから



 『應エヨ、我ガ望ミノ儘ニ……應エヨ……應エヨ』



 彼が目にすることが出来たのは、その"結果"だけだったのでございますから



 『…これでよいだろう、道中油断せぬように、息災を心掛けよ』


 『感謝いたしますわ、言祝ぎ…でしょうか』


 「え?(なんだ?)」


 『魔除けだ、どこまで効き目があるのかはわからぬが多少なりともそなたらを護ってくれるよう祈ろう』


 『期待に沿えるよう尽力する』


 「…え?(どこから)」



 突如勇人青年を襲った違和感に、彼が動揺した様子で視線を彷徨わせながらうろたえた声を漏らすも、彼らは意に介さぬ様子でございました


 そしてとどめのように



 『必ず、ぜぇ、役目を、はぁ、全うして、ひゅぅ、まいりますぅぅ゛ぅ゛』


 「うぉえぇええ゛え゛ッ?!(だ、だだ、だれだおま、いやほんとだれだおまえらぁああ゛あ゛?!)」



 先ほどから初めて聞く声にきょろきょろと辺りを見回す彼の耳に、直接吹き込まれたような、掠れ、途切れそうなその声

 ぎょっとした彼が首を引き気味に振り返ると、ぎょろりと濁った目と目が合ったのでございます


 水気の感じられない がさがさと痩せこけた頬、薄青い真っ白な肌、ぜぇ、ひゅう、と今にも絶えてしまいそうな不自由な呼吸音


 濁り、落ち窪んだその目と視線が合った勇人青年が意味の成さない悲鳴を上げると、驚いた左右の巫女たちが彼の顔を覗き込んできたのです



 『突然どうしたのですカミシロ殿』



 片側からは血のような赤髪のどこの死線を潜り抜けてきたのかというような見上げるほどの巨体に心なしか胸筋のあたりがぴっくんぴっくんしていそうな重厚な筋肉の鎧を纏い、はち切れんばかりに超ミニ状態の巫女服をぱっつんぱっつんに着こなした殿方が



 『プラウ気をつける、この反応、魔物の可能性ある』



 もう一方からは深い海の底のような青髪のどこの不夜城を潜り抜けてきたのかというようなすらりと背の高い色気の漂う流し目の一部人類の繁栄に多大な貢献をしていそうな、こちらもやはりはち切れんばかりに超ミニ状態の巫女服をぱっつんぱっつんに着こなした殿方が、それぞれ辛うじてぼやけずに視認できる距離で彼と正しく見合い状態でございました


 あまりの至近距離具合に勇人青年は反射的に仰け反りはしましたが、両の手はしっかりと拘束され、例え手が自由だったとしても背後には更に死霊…ではなく今にも生命活動という名の鎖から解き放たれそうな殿方を背負っており、その上に奈落へと導いてくれそうな階段もございます


 彼の故郷で言うところの前門の…いえ、後ろは兎も角として前ではなく横でございますね、うっかりしておりました

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