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勇人青年が青春の光と影…主に影を専門に担っているのでは、とご自身のカルマについて「な、ん、で、だ、よぉぉぉおおおおお!!」などと周囲をぐるぐると駆け回る幼獣正宗の中心で深く苦悩している傍らで、奉仕活動以外で初めて外界へと下りる巫女の方々は色々と諸注意を受けているようでございました
勇人青年に置き換えてみるならば、安全の保障された故郷から身一つで紛争地帯や未開の秘境へ赴くようなものでございます
この世界で生きる彼女達にとってもそれは同じ、むしろそれ以上の危険があるのでございましょう
いくら神の威光が遠く隅々にまで届こうとも、魔物はどこにでもその存在を示し、時にそれ以外の脅威にも見舞われる可能性があるのでございます
『カミシロ殿いつまでそうしているのです、わたくし共の準備は整っております、参りましょう』
今では彼女たちとしっかり意思疎通の出来るようになった彼は、神殿から麓までを下る傾斜の厳しい参道の前に立つ巫女の若干冷ややかなものを感じさせる眼差し込みの言葉を受け そそくさと年長者らしく取り繕うのでありました
ある種のご高尚な趣向を装備しているのであれば、その眼差しはこの上もない"ご褒美"だったのでございますが、まことに残念ながら勇人青年にはその素地が皆目存在せず、ただ気まずいだけに留まったのでございます
「え、ぁ、ああ、わり、あ、ほら、荷物持つよ、いくら手摺りがあるからってこの傾斜を降りるのに手が塞がってるのは危ないからな」
見送りに立つ年輩の神官の方に会釈した彼は巫女プラウの荷物を預かり肩に掛けて参道に備え付けられた手摺りを掴み、空いた方の手で巫女プラウの手をしっかりと繋ぎました
「子ども扱いみたいで嫌かもしれないけど手摺りの高さも君には合ってないから危ないし、麓までの辛抱だから我慢してくれよな」
『『こ…、こども、あつか…い?』』
「あ、いや、あの、あれ、ほらあれだよ、えっと、あ!、あーあーレ、レ、レディーファ…」
『な、なるほど子ども扱いですの、えぇ、えぇ、結構ですわよ……、カミシロ殿が鬱積を貯めに貯めていたいけな幼い少女がその魔手に囚われ節操無く手取り足取り腰取りねちっこく過剰に執拗なまでの世話を焼かれ思春期に心身ともに重大な影響を及ぼすことを考えれば今此処でそれらを未然に防ぐ為には奉仕の精神を主命と据えるわたくし共はまさにうってつけですわねいいですともその子ども扱い受けて立とうではありませんか分かっています分かっていますとも手加減など無用ですわ思うが侭に存分に愛でれば宜しいのですわそれがひいては世のため人のため』
『幸いこちらは三人、少しでも分散できれば最小限で済む』
「おいやめろ、まるで俺が幼女趣味で且つ特殊な変態性犯罪者予備軍みたいな言い方はやめろ、お願いします」
ふと気が付けば彼の手摺りを掴んでいた筈の手は、何時の間に隣に回ったのか巫女ミアプラに捕られ、少女たちの華奢な手に握られているだけの筈にも関わらず、左右からまるで工場でその力を遺憾なく発揮する万力の如くがっしりと拘束されいる錯覚すら感じさせる程でございました
因みに俗に言う恋人繋ぎというやつでございましたが、その姿はさながら彼の故郷で有名な四月一日の連行された宇宙人そのものでございます
しかしながら、いくらしっかりと手を繋がれていようとも彼の手を掴むのは頼りなく非力な少女たちの手、しかも彼女達の残る手は"両手が塞がっているのは危険"と荷物は肩に下げて手摺りを掴むことなく空けてあったので頼りどころは恐ろしく頼りなく、とどめのように眼下に広がる深い森とその麓にまで続くぞっと背筋に冷水を浴びせるような目も眩む角度の石造りの階段は、勇人青年の恐怖心を絶妙に煽るものでございました
そして、さらに……
「おい、危ない、階段で手摺り無しの三連手繋ぎは危険だからちょ、離っ」
『プラウねぇさまもミアプラぢゃんもぼきゅをなきゃまはじゅりぇにしゅるなんてひどいでぶぅぅぅうううううっ!!』
『悲しむことはありませんアプス』
『そう、まだ希望は残されている』
『『背中が』』
「え。」
『はわぁぁあああ~!! そこがっそここそがぼくの在るべき場所なのでひゅねっ!』
左右から拘束されて身体ごと向き直れない彼が首の筋が違おうかという程に無理をして見たものは、たゆんたゆんというよりはバインバインといった超重量感を遺憾無く発揮するその持ち主…の背後の鬼か悪魔のような形相の白装束の方の顔でございました
あまりの形相に一瞬思考が停止しそうになる勇人青年でありましたが、もっと現実的に差し迫った危機を思い出したのでございます
「ま、まてっ、まてまてまてまてまてぇぇえええええっ!!」
どむ。と彼の顔半分を埋める超重量感、グキィイと首に違和感を感じつつも埋もれなかった片方の目は……
( お ち る )
奈落の底を見たように釘付けになってしまったのでございます
上半身はぐらりと傾き、彼はやけに冷えた頭でまだ離れて一日も経たない故郷での記憶を思い出すのでした
(教室でどのグラビアアイドルが好みか友達と話してたら、そんなに巨乳が好きなら今日からこれ下げて生活しな!って女子が中身が丸々入ったペットボトルを紐で繋いで俺たちの首に掛けさせたんだよなぁ…)
比喩でなく首が回らなくなる程の肩凝りを経験した彼らは、それ以来 女性に…特に胸の豊かな女性に対しある種の畏敬の念を抱くようになったのでございます
しかし、それは兎も角として……
(…あれ? これ走馬灯とかいう…いやだめだろそれだめだだめだだめだっ!)
人生の最後に思い出すことが巨乳というのも何とも言い表し様の無い残念さでございましょう
けれども顔半分を埋もれさせる超重量感は冥土の土産として間違いなく充分な価値を備えているので、それによって相殺されるに違いござません
(せめてもうちょっとなんかこうマシなこと思い出せよぉぉおおおおおッ!!)