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『さてカミシロ、君の今後についてだが』
「え、ああ、やっぱり俺には荷が重いし断わ……」
『きゃわんわ(お父ちゃんはやっぱりにもつが重いってこ)』
彼が断りの言葉を口にしようとしたその瞬間、なんと表現したらよいのでしょうか……空気が、そう、空気が固まる、とでも表現いたしましょうか
(え、あれ、なにこの空気読めよという脅迫感……)
目は口ほどにものを言う…とでも申しましょうか、勇人青年はかつてドラマやアニメを見るたびに「視線を感じるとか殺気を感じるとか、ンな事できるわけないだろ」と思っていたものでございましたが、今現在、自身の横顔に物理的に穴が開きそうだと感じる程の視線を感じたのでございます
その上……
『プリャウねぇひゃま、ぐしゅ、やっぱりぼきゅたちがけんかしたから、ぇぐ、キャミヒリョしゃまはあきれて、うぅ』
『泣くのはおよしなさいアプス、カミシロ殿は初対面の貴女の顔を整えて下さる程のお優しいお方、その彼が断るのです、余・程・の(チラッ)、避・け・ら・れ・な・い(チラッ)、重・要・な(チラッ)、そんな御用が、きっ・と(チラッ)、た・ぶ・ん(チラッ)、お・そ・ら・く(チラッ)、おありになるのよ(じー。)』
『アプス、あまり泣き過ぎるよくない、噂では泣き過ぎると過呼吸になるとか(チラッ)、吐くとか(チラッ)、吐くの危険、吐瀉物で気管塞がる可能性もある、もしそんな事態になったらとても悔やまれる(チラッ)、姉役をそんな苦しい目にあわせたくない(チラッチラッ)』
『うぅ~う? わんきゃんわぉうおう!!(えーとえーと、お父ちゃんは優しいゲロ!!)』
「俺がゲロ?!(いや多分違うんだよな、……何言ってんのか全っ然まったくわかんないけど何だか責められてるのは流石にわかるぞ! 拒否権があるんじゃなかったのかよ?!)」
ちらりちらり、と言うよりは寧ろ凝視……メンチでございました
気のせいか、瞬きの回数も極端に少ないような気さえしてくるようでございます、というか目が血走って見事に充血しているような……いえ、恐らく気のせいでございましょう、麗しい美少女がメンチを切りすぎて目を充血など、あってほしくない、いえ、あってはならないことでございます
では鼻水はいいのかと問われれば、それは幻覚でございましょうとお答え致します、疲れておられるのですね、幻覚です、大事なことなので二度申し上げました
念のためもう一度断言申し上げますね、幻覚です
『びわ~ん! ギャミヒリ゛ョじゃま゛ぁぁぁあああああ~!! み゛じかい゛あい゛だでひゅが、おしぇわ゛になりまじだぁぁああ゛あ゛~!! ぼきゅは、ぼきゅはギャミヒリ゛ョしゃま゛のましゅましゅのごかちゅやくとごけんしょうをいのってまぶぅぅぅううう~!! どうきゃ、どうきゃおしょらのうえ゛がらみまもっててくだひゃいぃぃぃいいいいいっ!』
「ぅわぁぁあああっまたそんなトコに鼻水なすりつけてっ! わかったっ、わかりましたご一緒させて下さぎゃぁぁああ゛あ゛あ゛!!」
こうして多感な乙女たちに危うく公序良俗に反するものを見せるところだった勇人青年は、無残に引き千切られるように脱げ去っていった下衣の切れ端を命綱のごとく掴んで一命を取り留め、巫女達の旅に同行することになったのでございます
『では、旅に同行する、ということでよいのだな』
「えぇ、あぁ、はい(まぁ、こうなったらもう極力目立たないようでしゃばらないよう気をつけよう……)」
疲れきった表情で敷布のようなものを巻きつけた腰を心許なく片手で押さえた勇人青年は、ひと揃えの旅装を受け取ると腰に布を巻いたまま中から探し出した簡素な衣服を穿き、ベルトを締めたところでやっと人心地ついた様子でございました
(折角そうそうお目に掛かれないくらいの美少女たちと旅するんだし、目の保養だと思った方がなんぼか心が軽いよな、……うん、海外に芸術観賞に来たと思えば、うん、それならなんとか、それがいい……っていうかそう思いたい)
人心地というよりは寧ろ、やや現実を逃避方向に安定を図っているようにも見受けられますが、時として現実逃避も必要な時がございましょう、そっと見なか……視界に入らない程度に遠くから見守ってあげるのがよろしいかと存知ます、ええ、遥か彼方から
『さて、同行ともなればその言葉はどうにかせねばならぬな、本来アマノリュウセイに付与される筈だった加護は全てそのマサムネに移譲されたようだが、流石にそれでは不便だろう』
『きゃんわおわぉーおう!(アマノリュウセイがもらうはずだったおくりものはみんなぼくがもらっちゃったみたいだからお父ちゃんの言葉をなんとかしようって!)』
「……え?」
なるほど、幼獣正宗が彼らと勇人青年の言葉を解するのはその加護によるものだったのでございますね
これで粗方の疑問は解消され、すっきりと後腐れなく旅立つことができるというものでございます
「…………ぇ?」




