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神代勇人は雄染常態!  作者: 忍龍
序ノ口というか前菜というか、備えが無いから憂いまくり
6/46

05

 通訳を立派に果たし褒めて欲しいと興奮気味の幼獣正宗を撫ぜながら白い背中を追う勇人青年は、仔犬に笑顔を見せるものの、またもその顔色から血の気が引きつつありました


 華美ではございませんが質素というほどでもなく、それよりも寧ろおよそ生活臭というものが……

 いえ、人の気配の感じられない回廊を、巫女の下へと案内する人物は勇人青年を一切振り返らず

 無言のその背中が、耳に痛いほどの静寂が、自分達以外に生きる者の気配を感じ取ることのできないこの現状が、彼の精神を著しく苛んでいるのでございます


 彼を襲うその恐怖たるや、いったい如何程のものでございましょうか


 清涼で尊厳さを感じさせる故郷の神社仏閣の雰囲気とは異なる、そういった空間には何かの行事の際にしか訪れることのない一般人である勇人青年にもひしひしと感じ取れる程の異様な空気がそこにはあったのでございます


 唐突に日常より切り離され、混乱していたところに与えられた大量の情報をなんとか飲み込んだ彼は、今、やっと自身が置かれた状況を受け入れ、そんな彼をじわりじわりと足元から飲み込む恐怖


 確かに帰還を確約され、生活を保障され、来るべき時が訪れれば故郷へと還ることができるのでございましょう



 しかし彼は気付いてしまったのでございます



 ここには魔物が存在し、病や事故以外の最も確率の高い"死"の可能性が存在することに


 心身共に損なわれようとも元に戻ると、そのように聞かされはしましたが






 果たしてソレは、死をも覆すものでございましょうか?






 ……二度と、故郷の地を踏むことはないかもしれない

 ……二度と、家族に、父母に、弟妹に、祖母に、生きて再び会うことは……叶わないかもしれない


 不安のせいか、それともこの空気のせいなのか、体調まで悪くなってきたような錯覚さえ覚え、勇人青年が底冷えのするような死の恐怖に囚われようとした時でございました


 目の前を先導する白い背中が不意に止り、こんこん、と ある壁の前で訪いをしたのでございます


 少しの間の後、どうぞ、という応えと先導者に促され、彼は一見して壁にしか見えない其処へ身を滑らせました


 何の抵抗も違和感も感じずに通り抜けたそこに、勇人青年は三人の見目麗しい少女達の姿を見たのでございます


 水色、桃色、黄緑色


 彼の故郷では自然的にはありえないそれらの髪色は、けれども彼に異質さを感じさせることなく、自分となんら変わりの無い十代程の少女としてその眼に映りました

 このような状況でなければ、彼女達のその美しさと愛らしさに魅了されていたのでございましょうが、自身の置かれた状況やアマノリュウセイの果たす筈であった役割を考えればそのように思える筈もなく、彼は複雑な感情を抱いたのでございます



 『カミシロ、彼女らが巫女だ、巫女よ、彼はカミシロユウト、此度の召還で招かれた異界人だ』



 紹介を受けた巫女達は、それぞれに彼に自己紹介を始めます



 『お初にお眼に掛かりますわカミシロ殿、わたくしはプラウ・ファーニス、火の恵みを賜る巫女ですわ、爆焔の巫女の二つ名で呼ばれております』


 『はじめましてっ、ぼっ、ぼくはあぷひゅ、ちがっ、ア、アプスッ、アプス・ウェーラですぅ! 風の巫女で辻風の巫女って呼ばれてますぅっ』


 『ミアプラ・アケルナル、渾名は流源の巫女、水属性』


 「か、神代勇人です、こっちは柴犬の正宗、俺の家族です(ロリお嬢に、天然ボクっ娘に、素直クール……ギャルゲーかよ)」



 既に旅装を調えた様子の巫女たちは、先ほど自己紹介を交わした白装束の人々と同じように右手で丹田…下腹部の辺りをゆるりと覆い、心臓 額 喉の順に左手の指先を添え、最後に右手の甲を覆い会釈をなさいました、この世界の一般的な礼儀なのか、それとも彼女ら神に仕える者たち独特の礼儀であるのか、勇人青年には判断をすることはできませんでしたが、彼も背筋を真っ直ぐと正して深く礼をとることで挨拶をかえしました



 『カミシロ殿が不意に此方へ呼ばれて来てしまったことは既に聞き及んでおりますわ、承諾をしてわたくし共に応じて下さったアマノリュウセイ殿と違い何の心の準備も無くお呼びしてしまったこと まことに申し訳なく思います、お詫び申し上げますわ』


 (アマノリュウセイは納得の上で呼ばれるところだったのか…そこへ俺が割り込んだ…?)


 『と、とと、突然のことでとってもとーっても驚かれたと思いますぅっ、ご、ごめんなさいですぅ~っ』


 『それでカミシロ、行く、行かない、どっち』


 『まぁミアプラ、おいそれと決断できることではありませんわ、余裕をお持ちなさい』


 『あ、あうぅプラウねぇさま、ミアプラちゃんの言うとおりあんまり余裕がないのも確かですぅっ、ミアプラちゃんも気が急くのはわかるけどここは穏便にお話ししましょう喧嘩はよくないですぅ~、ね? ね?』


 『そんな時間ない、時間経てば経つほど澱み溜まる、異界人の必要性わたしは理解できない、初期の巫女と近代巫女は違う、そうならないよう育てられた筈、なぜ異界人招く』


 『ミアプラ、それ以上は』


 『なぜ、わたし間違ったこと言ってない』


 『あ、あぅぅ、プラウねぇさまぁ~、ミアプラちゃん~、う、ぅぅ、あう゛、ひぐ、うっく、ぐすっ』



 勇人青年を案内してきた神官を目線で暗喩するその遣り取り、次第に増して行く不穏な雰囲気、巫女達が睨み合い おろおろと動揺するその様子に彼は複雑な何かを感じ取ったようでございましたが、幼獣…正宗は巫女たちの言葉を勇人青年に伝えるのが間に合わず、後半は何を言っているのか分らないようでございました



 『ギャ、ギャミ、ギャミヒリ゛ョしゃま゛、ミ゛ア゛ピュラ゛ぢゃんを怒りゃないでくだひゃい゛ぃ~っ、わりゅい゛ゴではないんでぶぅ、ただぢょっとせっがぢざんなだげで、びょんとに゛すごーくイイゴなんでぶうぅぅ~っ!』


 「は、な、なに、ちょ、どこしがみついてっ、離れてちょ、胸っ、あんま押し付け、ちょ、ま、正宗っ、彼女は何て言ってるんだ正宗っ」


 『プリ゛ャヴねぇしゃま゛もぎびじいげれど、ずっぎょぐおやざじいねぇしゃま゛でぇぇええ゛え゛~! ぼぎゅにいっづもおがじをわげてくりぇるんでぶうぅぅ~!!』


 『わぉうきゃん!(ミアプラはイイコ! プラウはお菓子を分けてくれる!!)』


 「え? お、おう?!」



 床に膝をついて勇人青年の足に豊かな胸を押し潰すようにしてしがみ付き、眼と鼻と口から多種多様な汁を溢れさせつつ ぐりんぐりんと顔をこすり付けてくる巫女アプスのその凄まじさに、彼は胸に集中したらいいのかべしょべしょに汚れていくズボンを気にしたらいいのか、しがみ付かれた勢いで足元へ離してしまった正宗を助けを求めるように呼びましたが、頼みの綱の彼の答えは何の助けにもならないようでございます



 「わ、わかったわかりました! ミアプラは良い子でプラウはお菓子を分けてくれるんだよな? わかってるわかってる、ほら、チーンしような、チーン!」


 『ぶび~ッ! ……はゎ』


 「ほらもう一回チーン!」


 『び~んッ!』



 よくこうして鼻をかんでやったっけなぁ、と悟りを開いたかのような現実逃避感で勇人青年が今は小学生の弟妹を思い出しつつ巫女アプスの顔を整えてさしあげると、彼女はぽかんとしてたらりと余韻を鼻から垂らしたのでございます

 それをもう一度彼が綺麗にすると、巫女アプスはハッとしてあわあわと後ずさり、途中べしゃりと転んだ拍子に法衣の裾がべろんとめくれて下衣丸出しのまま四つん這いでロリお嬢…ではなく巫女プラウの後ろに隠れ そろそろと顔を覗かせなさいました


 その態度と彼女達の位置関係、そして幼獣正宗の断片のような通訳から察するに巫女プラウが彼女達の中で一番の年長者で、体格的には発育がよくても巫女アプスの精神年齢を考えると彼女達は想像以上に幼いと勇人青年は判断したようでございます


 幼い子供とはいえ巫女に対しては失礼だったかもしれない、と 気まずくなった彼が誤魔化すように視線を上に逸らすと、巫女プラウとミアプラも巫女アプス同様に呆気にとられたような顔をしていらっしゃいました



 『『『「………。」』』』



 なんとも言い難い微妙な空気の中、こうして勇人青年はいつの間にやら死の恐怖に打ち勝ったのでございます

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